ガールガールボールシュートガール
Girl Girl Ball Shoot Girl

 2004年4月24日の国立競技場で北朝鮮を破りアテネ五輪の出場権を獲得し、全国に存在を強く印象づけた女子サッカー。「なでしこジャパン」の名ももらい、アテネでの活躍を経て女子選手たちが戦う「L・リーグ」にも観に来る人たちが増え、中には前年までの10倍近い観客を集めるカードも出てきた。選手の中にも一般メディアからお呼びのかかる人たちが続出。アイドルたちによるフットサルの大会も始まって、今や女子サッカーはバレーボールに匹敵する、人気の女子球技となっている。

 そんな背景を追い風に、いつか出るだろうと観られていたのが女子サッカーがテーマの漫画。そして遂に登場した「ガールガールボールシュートガール」(講談社、514円)は、身長が179センチある黒髪の美少女が現れ、サッカー好きだが気弱な眼鏡の少女の誘いに何故か乗って眼鏡の少女たちが作ったサッカー同好会へと入っては、男子を相手に大奮闘するという、スポーツ物のエンターテインメントに割りにありがちなドラマが繰り広げられる。

 なおかつ美少女たちが短い制服のスカート姿でもってボールを蹴り上げたりするシーンもあって、当然のようにスカートの下が見える場面も頻出する。そう聞くとなるほど、これはいわゆる女子スポーツを餌に男心の官能を誘う漫画なのかと、憤りを浴びる可能性も多々あるけれど、「ガールガールボールシュートガール」を読めばこれが意外に純粋にスポーツという存在を尊び、関わる人たちのスポーツにかける情熱を賞揚するストーリー。例え才能が乏しくとも、真っ当に頑張り練習した成果をしっかりと出して難敵に挑み、技術と根性で突破していく展開が読む人の感動を呼び涙をにじませる。

 寡黙で長身でモデルのような美貌を誇る梅澤ヒカリ。近寄りがたい雰囲気を放つ彼女がなぜか授業の合間に体育館でサッカーの練習をしている眼鏡少女の水野香織の後を着け、体育館へとやって来ては、冴えた空中トラップを見せて香織たちの仲間に加わる。高校総体に種目の存在しない女子サッカーの実状を嘆き全国女子選手権大会への出場を夢見るも学校に部活として認められる可能性の乏しさに躊躇する香織たちに、ヒカリはだったら兄妹校の男子サッカー部と試合をして認めされば良いと乗り込み、甘く見た熱血キャプテンを強烈なシュートで沈めて見事に試合の約束を取り付ける。

 いったい彼女は何者なのか。彼女の兄の名は梅澤直樹。代表入りを約束されながらも怪我で代表どろこかサッカー自体を断念せざるを得なくなった兄に代わってサッカーのワールドカップに出場しようと決意し練習に励んできたヒカリは、光が丘女学園サッカー同好会をスタート地点に世界へと続くとてつもなく細くてとてつもなく長い道を歩み始める。能力はあっても体力で男子に劣る女子が簡単に男子相手に勝利を得られるはずはなく、またヒカリ1人で頑張っても11対11のサッカーでは試合にならない。それでもヒカリは奮闘しチームメートも諦めず逃げないで日頃の練習の成果を出し切って挑み2点を奪い5点で抑えて負けたものの賞賛に値する試合を見せる。

 肉感あふれる描写は淫靡で下着を見せる描写も多々あったりと、連載されている媒体に大多数の男子読者へのサービスもたっぷりで楽しいことは楽しいけれど、それ以上に同好会の1人1人が個性を発揮して試合に臨み頑張る姿を通して、決して恵まれているとはいえない女子サッカーの世界にあって、それでも努力する人たちがいっぱいいるんだってことをちゃんと描いてくれているのが喜ばしい。

 男子を相手にした試合、ゴール前でゴールキーパーの足下に転がるボールにダイビングヘッドする本田緑の何というひたむきさ。強い北朝鮮を相手にひるまず挑んだ「なでしこジャパン」と同じ感動を、読む人に与えてやまない。描いたのは平野博寿。女子サッカーを興味本位ではなく興味を抱きつつも実状を鑑み実態を取り入れながらエンターテインメントに仕上げようとする意識が見てとれる。

 上には上のいる世界。強烈なテクニックとパワーを誇る姉妹が現れ、ヒカリや香織の前に立ちふさがった物語はこの先、そしてさらに上に君臨する学校が現れて来ることだろう。未だ初心者でしかない香織とその仲間たちが、香織も交えて光ヶ丘女学園サッカー部として立ちふさがる強敵をどううち破っていくのか、そして兄に代わって日本代表になりたいとうヒカリはその夢を、仲間たちも仲間たちでそれぞれに抱くサッカーに賭ける夢をどう叶えていくのか。その時が描かれることを願いって物語の展開を見守りたい。


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