Bad! Daddy1
パパに内緒で正義の味方

 「甘い暮らしを守るため」

 「おやつの時間を守るため」

 「愛と正義のお菓子屋さん」

 「スイート・パティシエール見参」

 「死ぬほど食べていただくわ」


 こんな感じに大見得を切って出てくる美少女戦隊が存在したとしたら貴方は見たいか。「見たいっ!」、と力強く頷いた人ならば迷わず本屋に行って、野村美月の「BAD DADDY1 パパに内緒で正義の味方」(エンターブレイン、640円)を買って貪るように読みなさい。想像していた以上の甘い時間をきっと与えてくれるはずだから。

 ボンボンボンと3つ鳴ったか鳴ってないかは知らないけれど、3時を指した時計をバックに現る5人の美少女たちこそが、かけ声の主「スイート・パティシエール」。レッド・サバランにイエロー・モンブラン、ブルー・フロマージュにブラック・ホペラと、めいめいがお菓子にちなんだ名前を持った彼女たち。戦うときもその名にちなんだ技を繰り出し、学校からタイムカプセルを掘り返して奪ったり、スクールバスを襲っては困らせたりとご町内で悪さを繰り返す、悪の組織「流々舞」を相手に挑んでこれを撃退する。

 ひとり足りない? ご明察。そのひとりこそが本編の主人公にして重要過ぎる役割を担わされたピンク・ミルフィーユこと円城寺美夢。実は彼女、父親の円城寺優介が何と敵対している「流々舞」星凪町支部の若き司令官「戦慄のアルマンド」で、本編では父と娘に別れて悲しい親子の相剋を演じていたのだった、というのはちょっと嘘。割に彼女、本気で父親を相手に戦いを挑もうとしていたりする。

 理由は父親に「流々舞」を辞めて欲しかったから。キーキーと踊る下っ端の戦闘員からはじめて出世街道をばく進し、若干29歳にして司令官の地位まで上り詰めた冷酷非情な悪の幹部でありながら、家に帰ればやさしいパパで13歳の娘を溺愛している優介が、美夢も決して嫌いではなかった。けれども本人にとっては華麗でも端から見れば珍奇な衣装で出没しては、町内の人の嫌がることをする父にはやっぱり我慢がならなかったみたい。

 そこで美夢は考えた。負ければ幹部も辞めざるを得ないだろうと。そんな折、通っていた虹の森学園で先輩から「正義の味方として戦おう」と誘われ、参加した「スイート・パティシエール」の一員として、美夢はピンク・ミルフィーユを実の娘とは知らずに挑んでくる優介を相手に、爆裂&爆笑の戦いを繰り広げるのだった。

 どうして「スイート・パティシエール」なんてものに変身できたのか? でもって彼女たちが通う虹の森学園には何が隠されているのか。いなくなったという美夢の母親で優介の妻だった女性の真相は。などなど散りばめられた謎がどんな感じに解き明かされていくのかにも興味があるけれど、目先はやっぱり突き抜けまくりのキャラクターたちに関心が向かう。

 円城寺美夢、円城寺勇介父娘はいわずもがな。美夢をとりまく「スイート・パティシエール」の面々といい、「流々夢」でアルマンドを支えるクールな美女の親衛隊長に世話焼きのタイプの司令官秘書にグルメな好々爺の魔獣開発主任といった面々といい、2人に負けず劣らず癖たっぷりのキャラクターたちとの起伏たっぷりの展開を、笑いのツボを強弱付けてくすぐってくるような文体で楽しめる。

 若い頃には出世のために、冷酷非情と評される振る舞いを繰り広げていた「戦慄のアルマンド」がいよいよ本気を出して挑みかかって来るこれからのストーリーに、募る期待は半端じゃない。早く続きを読みたいところだけど、そこは作者の都合によるのでせかしつつもここは落ち着き、目の前にある第1巻を何度でも読み返しては笑いの渦に身をもまれ、お菓子を食べまくっている時のような幸せな気分にさせて頂くことにしよう。


 「おやつのあとは歯磨きよ」


 だそうなので忘れずに。


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