AUGOEIDES
アウゴエイデス1神話覚醒

 いつの頃からかは記憶にちょっと曖昧だけど、いつの間にやら小説の世界で宝探しが主役になった、いわゆる”トレジャーハンター物”がすっかり主流のひとつを占めてしまったようで、さまざまな力や技をもったトレジャーハンターが登場し、一匹狼だったりパーティーを組んだりしては、ダンジョン仕掛けられたトラップをかわしドラゴンのような強力なモンスターを倒して、古(いにしえ)からの秘宝を見つける冒険を繰り広げていたりする。

 ダンジョン&ドラゴンやパーティーという概念も、やっぱり知らない間に小説世界に生い茂っていた概念で、想像するならファンタジー世界を舞台にしたロール・プレイング・ゲームが、パーティを組み、謎を解き宝を探すストーリーをメインにして圧倒的な人気を得たことで、そこからインスパイアされたりスピンアウトしたシチュエーションなり設定が、広がり小説ジャンルに浸透したのかもしれない。

 ただ、これほどまでにトレジャーハンター物であり、ダンジョン&ドラゴン物でありパーティー物が蔓延ると、よほどのものでなければ「ああまたか」といった嘆息とともに、数ページで投げ出される羽目になる。かといって、滅ぼされるドラゴンの側に立って責めてくるトレジャーハンターの理不尽ぶりを嘆く話とか、そうでなくてもダンジョンがかれこれ1万層にも及んで一向に終わりを見せなかったりする話ではちょっと捻り過ぎ。ほどほどとに目新しく、それでも従来の慣れ親しんだ作法に従っていることが、面白さを読む人に感じさせる秘訣なのかもしれない。

 「集英社スーパーダッシュ文庫」から登場した嬉野秋彦の「アウゴエイデス1 神話覚醒」(集英社、571円)に関して言うなら、その辺りは実に巧みで結論からいえば素晴らしくって面白い。主人公は遺跡に潜ってお宝をみつけては買い取らせる仕事で稼いでいる美女の姉妹。「ふーんトレジャーハンター物にダーティーペアも混ぜたのか」なんてしたり顔でページを開く人もいるかもしれないけれど、読み始めればすぐに気づく。そして驚く。

 クロディーヌと名乗った美女の姉は、実は美男の兄、だったりする。本人曰く、じゃじゃ馬な妹のアキラ(名前からしてじゃじゃ馬だね)に身をもって本当の女らしさを教えるために、嫌々ながら女装したということだけど、その完璧なまでの女装は”妹”のはずのアキラを関心の埒外から1億光年は遠くへ弾き飛ばすだけの美しさ。こうなると趣味という概念すら超えて本質的に女装好きといった方が正解に近いのかもしれない。

 もっとも見かけの美貌とは裏腹に剣の方も凄腕で、並みの剣士だったら片手で捻るくらいの腕前を持つ妹ですらかなわないくらいの力を持っていて、バルチュスという名の見かけは美少女ながらも正体は魔法生物が変身した剛剣を振り回しては、掘り出した宝をねらって近寄ってくる盗賊も、宝を守ってあらわれる魔人や怪物の類も切り倒しねじ伏せる。

 グラマーだけどガサツで剣の腕前もそそこのアキラに、超絶美貌ながらも中身は男で剣を取ったら三国一のクロディーヌという2人のペアの意外性で、この「アウゴエイデス」読む人の興味を惹き付けることは必至。加えて物語の方にも、興味を持って成り行きを見続けなくてはいけないセールスポイントがある。

 最初のエピソードで2人がもぐった遺跡には、実は魔神が封印されていて、2人はその魔神をふとしたはずみで解放してしまう。結果。アキラの身にとんでもない災難がふりかかり、出世欲にとりつかれてお宝を狙った官僚の攻撃を受ける羽目になるのだが、とんでもないことが一体どういうことののか、細かいことは読んでいただくとして、ここには帯の文句だけ書いておこう。「魔人はヘソで目覚める」。ヘソで? そうヘソで。

 2人が潜った遺跡に封印されたおそらくは魔神に興味を持って、凄腕のエージェントを送り込んだ前時代神智学探求協会の真の目的とか、文字どおりに「ヘソで目覚め」てしまった魔神アウゴエイデスとアキラ、クロディーヌの姉妹、というか兄妹との関係も含め、話は今後ますます複雑さを増して行き、単なるお宝探しを通じた成長物語から大きく外れ、トラップをかわし怪物をたおすゲーム的なカタルシスも超えて、世界の成り立ちそのものに迫る壮大なファンタジーへと発展して行きそう。そのとおりだという保証もないけれど、そのとおりだとしたら期待せずにはおられない。

 それにしてもクロディーヌ美しさといったら。水沢ひかる描くイラストを見ると、胸なんてもうとてつもなく巨大だったりして、いったいぜんたい中に何を入れていたりするのか興味が湧いて仕方がない。スポンジなんて存在していない世界だし、あるいはパンかそれともメロンか。もしかして火を噴き飛んでいく秘密兵器? まさかねえ。


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