アリス・リローデッド ハロー、ミスター・マグナム

 時の牢獄を抜け出せるか?

 過去、累々の著作が、映像がその課題に挑んできた。いずれ訪れる破滅の未来を変えられるのか。過去を糺して混乱の今を平穏へと導けるのか。そんな模索を厳格な時の神々によって跳ね返され、歴史という絶対に変えられない檻の中に囚われながら、それでも出口を探してあがく人々のドラマが描かれて、ジリジリとした焦燥感を煽り、果てに見出される希望への歓喜を誘ってきた。

 時の牢獄をうち破れるか?

 第19回電撃小説大賞の大賞を受賞した、茜屋まつりによる「アリス・リローデッド ハロー、ミスターマグナム」(電撃文庫、580円)で、ミスター・マグナムと呼ばれる意識を持った魔法の銃と、アリスという名の少女とが出会い、その周りに集った仲間たちと共に挑むのも、そんな世界の破滅という運命だ。

 ゾォードという名の魔女によって起こされた災厄が吹き荒れ、大勢の命が奪われた世界で、<ライトニング・ワイルド>と呼ばれ活躍した女性ガンマンのアリスもまた、ゾォードを倒して世界を平穏に導くことはかなわず、仲間たちをことごとく失い、自らも倒れ降りしきる酸の雨の中に、命を尽き果てさせようとしていた。

 アリスは死の間際に、愛銃の<サラマンデル>を地中へと埋める。永遠の離別。やがて染みこんできた酸によって、分解され土に還ることになりそうだったサラマンデルが、ふと気がつくと地上に掘り出され、ひとりの少女の手に握られていた。

 彼女の名はアリス。偶然ではなく、サラマンデルが共に戦った<ライトニング・ワイルド>の、まだ幼い頃の姿だった。

 もっとも、サラマンデルが再会したアリスには、敢然として魔女ゾォードに立ち向かっていった女ガンマンの矜持も、信念もまるで存在してなかった。ただの少女。とりたてて考えもなしに日々を暮らし、感情の赴くままに突っ走っては失敗を繰り返して、それでもにこにこと笑って生きているような少女だった。

 そんなアリスが、掘り返して手に入れた、強大な魔法の力を発する魔銃サラマンデルを<ミスター・マグナム>と名付け、それに弾を込める力を得てやったことは、ピューマに噛まれ脚を失った友人の敵討ち。向かった先で、ミスター・マグナムとアリスはまだ世界を脅かす存在になる前のゾォードと出会い、撃ち、そして未来の災厄を防ぐための戦いへと足を踏み入れていく。

 ミスター・マグナムが<ライトニング・ワイルド>と共に戦った未来で、仲間だったガンマンやガンウーマンやシャーマンたちも、まだ年若い姿で現れて、アリスの仲間となってゾォードとの戦いに向かっていく。一行に立ちふさがるのは時の牢獄。アリスが<ライトニング・ワイルド>と呼ばれるほどに苛烈なガンマンになった理由を、そのままなぞれはアリスの親族に不幸が起こる。、<ライトニング・ワイルド>がゾォードを最後に仕留め損なった未来を繰り返せば、アリスにとっての大事な仲間が死ぬ。

 未来を変えたい。だからといって親族も仲間も失いたくない。誰も彼をも救いそして世界まで救いたい。贅沢で我が侭で不可能に近い願望に、アリスはどうやって挑むのか。とてつもない困難。けれども立ち止まることはないアリスの、ミスター・マグナムからはアホと呼ばれるくらいに真っ直ぐで純粋思いを見て取った時に、人は考えるより先に突っ走り、やりたいことをひつらにやり抜く意志の強さが大切なのだと諭される。

 とりあえず終わったかのように見えるエンディング。これで世界は救われたのかもしれないし、もしかしたらゾォードに代わる何かが立ち上がって、世界を破滅に導こうとしているのかもしれない。時は牢獄。そこに囚われた人間たちが、簡単にうち破れるものではないのだから。

 ここから続く物語があるなら、あるいは時の神々によって落とされる雷に、打たれ地べたをはいずり回ることになるかもしれない。それでもきっと、アリスたちは諦めない。とりわけこの世界の、アホで真っ直ぐなアリスは絶対に諦めないで自らを生き抜き、誰をも生き抜かせて未来をつかみ取るに違いない。

 そんな折れない姿を、曲がらない姿を通して知ろう、時は牢獄ではないと。そして待とう、誰もが幸福になれる権利を持って、生き続ける世界のを訪れを。


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