上杉 隆著作のページ


1968年福岡県生。NHK報道局勤務、衆議院議員公設秘書、ニューヨーク・タイムズ東京支局取材記者を経て、2002年よりフリーランスのジャーナリストとして活躍。著書に「小泉の勝利−メディアの敗北−」「田中真紀子の恩讐」「石原慎太郎「5人の参謀」」等あり。

 


 

●「官邸崩壊−安倍政権迷走の一年−」● ★★

 

 
2007年08月
新潮社刊

(1400円+税)

 

2007/09/18

 

amazon.co.jp

小泉首相時代の衆院解散・郵政選挙はまさに“小泉劇場”というに相応しい(是非は別として)ものでしたが、それに対して続投宣言から一転して“政権放り出し”という他ない辞任劇、その差の余りの大きさに唖然としない人はいないでしょう。
喜んだのは民主党、自民党派閥領袖たち、権益を削がれる公務員改革を嫌った官僚たち・・・と見えます。
さて、その裏には一体何があったのか。
常に政治劇にはその「裏」があります。そうした実態は新聞記事やTVニュースを追うだけでは絶対判りません。その裏をこそ知りたい、私が本書を読みたいと思ったのは、それが理由です。

安倍政権の躓きの原因を挙げるなら、まず安倍首相その人、それを支える人物たちの経験不足、脇の甘さ。これは最初から私も懸念を感じていた点です。
さらに、首相を支えるより専ら自分個人の功績を上げることに終始し、チームプレーが全く機能していなかった点。しかも、その各人の力量が恐ろしく見劣りしていたこと。
そのうえ、発足当初から官僚を敵に廻し、次いで記者たちさえも敵に回してしまっていた、という点。この2点は、本書を読むまで判らなかったこと。

これらの原因、失敗をひとつひとつ具体的、克明に語っていく本書は、読み応えあるというより、エンターテイメント小説以上に面白い。
そして同時にこれがフィクションでなく現実であって、その結果日本国家の威信を損ない、停滞・退潮を深めるに繋がっていることに暗澹たる思いを抱かざる得ない。
TV画面に映るにこにこ顔の派閥領袖たち、彼らは本当に国民の危機意識を理解できているのだろうか。

なお、安倍首相辞任劇の一因として、最後まで彼の人を鼓舞し続けて小泉前首相の責任を指摘する一文は示唆に富みます。

序章:錯誤/華麗なる船出/瓦解の萌芽/破綻する側近政治/自縄自縛/ドミノ倒し/終章:呪縛

      


  

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