杉山隆男著作のページ


1952年東京都生、一橋大学社会学部卒。読売新聞記者を経て著作活動入り。86年「メディアの興亡」にて大宅壮一ノンフィクション賞、96年「兵士に聞け」にて新潮学芸賞を受賞。


1.
メディアの興亡

2.きのうの祖国

3.兵士に聞け−"兵士"シリーズNo.1−

4.兵士を見よ−"兵士"シリーズNo.2−

5.誰かに、似ている

6.社長という人生

7.「兵士」になれなかった三島由紀夫−"兵士"シリーズNo.5−

8.昭和の特別な一日

9.兵士は起つ−"兵士"シリーズNo.6−

10.兵士に聞け−最終章−−"兵士"シリーズNo.7−

11.デルタ−陸自「影」の兵士たち−

 


 

1.

●「メディアの興亡」● ★★★  大宅壮一ノンフィクション賞受賞

 

1986年06月
文芸春秋刊

1989年11月
新潮文庫刊
上下2冊

1998年03月
文春文庫化
上下
(\533
\552+税)



1989/12/15

日経・朝日の両新聞社が長期計画で進めた、コンピュータによる紙面作りを 成功させるまでのノンフィクション。

朝日・毎日の二大新聞、それに続く読売、二流新聞だった日経の前身である中外商業新聞。各社の戦略と行動、新技術に対する取り組み。そして新設備投資による巨大な借入金に喘ぐ毎日、日経。
戦後の新聞界が辿った足跡を明らかにした、迫力あるドキュメンタリーで、読み応え充分です。

巨額の資金を注ぎ込んで成功させた先見性と実行力は、並大抵のものではありません。この実行があって、初めて今日の日経の繁栄がある。裏返せば日経繁栄の秘密がそこに見えて、興味は尽きません。
ただ、日経新聞のプロジェクト完成時にテープを切ったのは円城寺氏ではなく、反対の先鋒だった大軒社長だったというのですから、サラリーマン社会の皮肉としか言い様がありません。
それに比較して、戦略を誤った毎日の経営は目を覆うばかり。ただそれが紙面に反映されることはなく、毎日のスクープなどは以前より優っていたというのですから、事業経営の難しさを思うばかりです。
本書を読んで、ノンフィクションとはこんなにも面白いものか、と初めて思いました。

 

2.

●「きのうの祖国」● ★★

 

1990年12月
講談社刊



1991/02/08

第1部では、東独、東西ベルリンの壁が崩壊した前後の、東ベルリン側の人々の 様々な思いを紹介しています。
壁崩壊を喜ぶ一方で、自分たちは今まで何を守ってきたのかという自信の喪失・迷い、今後の生活に対する不安。一方、自分の命を危険にさらし、身体に傷を負って西側に脱出していた人にしてみれば、国境崩壊を素直に喜べないという気持ちも、痛いほど判ります。

第2部は、ルーマニア・トランシルヴァニア地方のこと。ルーマニア化への強制、秘密警察“セクリターテ”の横暴。チャウシェスクといい、ホーネッカーといい、ユートピアを目指すはずの社会を何故これ程までに歪めてしまったのでしょうか。この本を読むと、国民のチャウシェスクへの憎しみが理解できます。
日本における特高、朝鮮の人々に対する差別を思い出せば、決して他人事ではありません。同じ人間であるという意識を捨てると、人間はなんと恐ろしい動物になるのか、と感じさせられます。

第一部 地図から消えた国/第二部 地図にない国

 

3.

●「兵士に聞け」● ★★★      新潮学芸賞受賞


兵士に聞け画像

1995年07月
新潮社刊
(2000円+税)

1998年08月
新潮文庫化

2007年07月
小学館文庫化


1995/08/20

読み甲斐のあるルポタージュ。
普段見落としがちな細かい問題点までよく纏め上げたものだと、ほとほと感嘆しました。
著者が指摘するのは、自衛隊と言う存在が如何に中途半端な存在であるか、ということ。
法的根拠、軍隊としての実践力、国民の意識。
規模の問題、現状の是非は別として、井上成美がいみじくも語ったように、独立国にあっては最小限の軍隊というのはやはり必要なのではないでしょうか。
“日陰者”と自ら認識するほかない現実。世間から注目されるのは、災害救助にあたる(本来の軍隊ではない)施設科部隊、というパラドックス。

著者は自衛隊の奥深くまで入り込み、陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊、さらにPKO派遣部隊のありのままの姿を見ていきますが、何もかもすっきりしない事ばかり。なんと自衛官とは報われない仕事なのでしょうか。
存在是非の議論より、まず実態を明かにする方が重要な気がします。

鏡の軍隊/さもなくば名誉を/護衛艦「はたかぜ」/防人の島/帰還

 

4.

●「兵士を見よ」● ★★


兵士を見よ画像

1998年09月
新潮社刊
(2200円+税)

2001年03月
新潮文庫化

2007年09月
小学館文庫化



1998/10/04

自衛隊に取材する「兵士」シリーズの第2弾。
今回は航空自衛隊、とくにF15(イーグル)のパイロットが中心。しかも、本書の最初と最後には著者自身の搭乗体験が語られています。
ジェット戦闘機、F15などと聞くと、そこはそれ、私もすぐミーハー気分でワクワクしてしまうところがあります。
でも、現実には
映画“トップ・ガン”などで恰好良いなァなどと気軽に考えるの とは全く異なる、厳しい事実がそこにはあります。
事故の危険以外にも、5G、6Gなどがかぶさり、肉体の限界点で勝負している世界です。
パイロットとは全く異なりますが、救難隊でも同様な事実があります。それらはすべて、いざという時の必要性と目的あってのこと。
いずれにせよ、著者の丹念な取材が目を惹きます。ひとつひとつ事実を積み上げる、細かいことまで見逃さずその意味をしっかり捉える、そんなところが著者の魅力です。沢木耕太郎さんの天才型に対し、杉山さんは努力型とでも言いましょうか。そこに親近感も湧きます。

とにかくこの一冊を読むと、一般人の知らない自衛隊の生々しい姿、現実の姿を知ることができます。
自衛隊の存在是非を悪戯に議論するより、まず実態を知るべきです。そのために是非、と薦めたい本がこの
「兵士」シリーズ

対戦闘機戦闘訓練/「実戦」/生と死と/選ばれし者

   

5.

●「誰かに、似ている」● ★☆


誰かに、似ている画像

2002年09

新潮社刊

(1400円+税)



2002/10/10

杉山隆男さんと言えば、ルポ、ノンフィクションの分野で、私が信頼感を抱いているライターです。
その杉山さんが書いた本書、ノンフィクションに非ずして、これは小説なのかどうなのか。そんな戸惑いがあります。

読み始めてすぐ判るとおり、これはフィクション。といって、小説とも思えない。小説のような、ストーリィを盛り上げていく、という姿勢は感じられないからです。
本書に描かれるストーリィは4つ。アテンダント(旧スチュワーデス)、幼稚園教諭、女性営業職、一般事務職(所謂OL)と、都会で働くシングルウーマンが各々主人公になっています。現代女性を象徴するような4つの職種と言えるでしょう。
「あとがき」に杉山さん自身が書いていることですが、男性に負けずに、がんばって働いている、またそれなりに疲れてもいる女性の姿を書いてみたかったとのこと。
4つのストーリィはフィクションですけれど、その杉山さんの言葉どおり、本書限りのものではなく、働いている女性たちに共通するところの多いストーリィだと思います。だからこその、本書題名です。
格別面白いとか、感動するとかいう本ではありません。しかし、彼女たちに、働く仲間として共感を覚える一冊。

元スチュワーデス、志帆/幼稚園教諭、加奈子/ビール会社営業、美咲/商社OL、絵里子

   

6.

●「社長という人生」● ★☆


社長という人生画像

2003年06月
新潮社刊

(1400円+税)



2003/07/10

一口に「社長」というと、つい一定のイメージを浮かべてしまうのですが、本書に登場する6人の社長は、それぞれ千差万別、様々に個性的、と言えます。
本来、それが当然なのでしょう。会社が個性的であれば、当然の如く社長も個性的。そうであってこそ、その会社の魅力がある、と言えるのではないかと思います。
また、会社の内容、業歴によって求める社長像も違って当然のこと。同じ「社長」だからといって、どの会社の社長も勤まる、というものでは決してないでしょう。
帯文句の「社長の数だけ物語がある」は、まさに言い得て妙。

本書中では、タカラの二世社長・佐藤慶太氏が一番印象深い。次男として実父の会社で専務まで勤めながら突然退職し、その後独力で会社を創業、事業を軌道に乗せた経験の持主。その後、すっかり低落傾向に陥ったタカラに社長として呼び戻され、自立時の経験を生かしタカラを一転して活性化させます。改めて「社長」の存在価値を見せられた気がします。
また、資生堂の池田守男氏が語った、社長に指名された途端に銀座の景色が一変して見えた、24時間常に会社と共に生きるという重圧を感じた、という言葉も印象的。
一方、今話題の百円ショップの矢野博丈氏、和食の渡邉美樹氏については、ここまでやるかァという気がしますが、それこそが創業者のヴァイタリティというものなのでしょう。

図らずも、社長(富士重工業 竹中恭二)/巨いなるペシミスト(大創産業 矢野博丈)/社長は奉仕者たれ(資生堂 池田守男)/復活を挑んだ二世(タカラ 佐藤慶太)/崩壊と創業の間(ソニー銀行 石井茂)/社長になるための人生(ワタミフードサービス 渡邉美樹)

   

7.

●「兵士になれなかった三島由紀夫」● ★★


「兵士」になれなかった三島由紀夫画像

2007年08月
小学館刊
(1400円+税)

2010年04月
小学館文庫化



2007/10/16



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高校1年の休憩時間、同級生の一人が三島由紀夫が市ヶ谷駐屯所に乱入して割腹自殺したらしいと知らせに飛んできたその瞬間のことを、今でも忘れることができません。
三島側からの自衛隊との関わりについては思ったことはありますが、自衛隊側が三島をどう思っていたのか、それを考えてみたことはありません。
思えば盲点だったと思うのですが、当時とてもそんなことを語ることなどできなかったでしょう。あの事件が歴史のひとつとなって初めて語ることができた、と思います。
本書の中には、文人仲間が語るのとは異なる三島がいます。実際に三島と付き合った元自衛隊員によって語られるという点で、貴重な一冊です。

それにしても“兵士”シリーズ最終巻が何故「三島」なのか。
三島が武士を気取り身体の鍛錬に熱中したのは、自分の虚弱性に対する劣等感の裏返しであろうとずっと思っていました。
三島は自衛隊に繰返し体験入学し、若い自衛官と同じに厳しい訓練に励んだという。ボディビルで上半身は鍛えていたものの、下半身の脆さは一目瞭然。それでも、その真面目な一途さによって若い自衛官たちの敬愛を集めていたらしい。
現実に鍛えられた自衛隊員と所詮素人である三島との体力差の違いは甚だしい。それだけでなく、自衛隊観においても大きな違いがあったようだ。奇しくもそれは8月15日の特攻隊の著者・吉田紗知さんが経験したことと重なり合う。

市ヶ谷で三島が撒いた「檄」には「・・・自衛隊は永遠にアメリカの傭兵として終わるであろう」という予言が記されていたという。
その時から40年近くが経ち、その懸念は現在むしろ高まっていることを思うと、三島は慧眼であったと認めるべきなのでしょう。
その上で「自衛隊とは何なのか?」と改めて問うと、その答えは今なお出ていない、と認める他ないのでしょうか。

(黙契/走る人/懸垂/水兵渡り/救出/美学)/剣(階級審査/手合わせ/服装点検/同期の二人/メダリスト)/絆(告白/継続監視/自立の宴/最後の会話/運命)/手紙

        

8.

●「昭和の特別な一日」● ★★


昭和の特別な一日画像

2012年01月
新潮社刊
(1500円+税)



2012/02/06



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昭和という時代の中にあった或る一日、時代を画することともなった特別な一日を振り返った4篇。
そこは杉山隆男さんだけに、単なるノスタルジーにとどめず、独特の切り口から語っているところが魅力です。

「上空一万五千フィートの東京五輪」
離れ業で開会式の上空に五輪の輪を描き出した航空自衛隊の凄腕パイロットたち。その後相次いで民間パイロット(JAL)に転身したという後日談には、経済優先時代への幕開けを感じます。
「さらば、銀座の都電」
銀座線
の運行最終日の喧騒と、その前の都電の様子が克明に語られていて、鉄道好きには魅力ある篇。
都電廃止は交通渋滞による必然の結果と考えていましたが、他に都電運転手が諸々の手当てにより高給をとっており都交通局が大赤字だったこと、都電衰退の一方で営団地下鉄に張り合って都交通局が都営地下鉄の路線拡張に走っていたという当時の実情は見逃せない点でした。
私も子供の頃、都電銀座線には日本橋〜銀座間を乗車した記憶がありますが、本書で書かれている程広い範囲を都電が走っていたとは思いもよりませんでした。かなり驚き。
本書4篇の中では、一番大きな変化ではなかったかと感じます。
原信太郎という人物が登場しますが、この人の逸話が実に面白い。鉄道好きもここまで行動がユニークだと魅力的です。
「日本橋には空が無い」
日本橋の上に高速道路をかける工事の始まった日。
江戸〜東京で特別な場所であった日本橋が、空をふさがれ騒音が増したことによって街という姿を失っていく境となった日。
当時高速道路が架けられた後のことを誰も考えなかったそうですが、今だったら反対されたことだろうなぁと思います。
「ブロードウェイがやってきた!」
当時“東洋一”と謳われた“
ブロードウェイセンター”建築に至るまでの中野の歴史を語った篇ですが、中野に縁のない私にはピンとこなかった一篇。4篇の中でも異色の一篇です。

当時の空気を実感してみたいという方、是非本書を読んでみてください。

上空一万五千フィートの東京五輪(昭和39.01.10.土)/さらば、銀座の都電(42.12.09.土)/日本橋には空がない(38.04.12.金)/ブロードウェイがやってきた!(41.10.29.土)

           

9.

「兵士は起つ−自衛隊史上最大の作戦− ★★☆


兵士は起つ画像

2013年02月
新潮社刊

(1600円+税)

2015年08月
新潮文庫化



2013/03/21



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03.11東日本大震災。自身あるいは家族もまた被災者となりながら、生存者救出ならびにその後の過酷な作業に従事し続けた自衛隊員たちの姿を描いた渾身のルポ。

まさか兵士”シリーズがこうした形で復活するとは思ってもみませんでした。自衛隊が救助作業に出動しているのは報道等で勿論知っていましたが、実際にどんな過酷な状況の中で隊員たちが作業し続けていたのかを詳しく伝えているところは殆どありません。私にしても、災害となれば自衛隊が出動するのは当たり前くらいにしか思っていませんでしたから。
しかし、具体的な実態を本書を読んで知ることによって、自衛隊と言う存在がどれだけ貴重でまた国民にとって心強いものであるかをつくづく感じます。
<いつか>起きるかもしれない“
有事”に備えて身体を鍛え、訓練を重ねているのが自衛隊。その<いつか>が起きてしまったのが 3.11東日本大震災だったと、冒頭で語られます。

地震が起きてすぐ、有事の場合の行動基準どおりに部隊へ駆けつけようとした自衛隊員たち。彼ら自身も津波に呑み込まれ、それでもなお一般人を救助しようと奮闘し続けた隊員たちの姿がまず描かれます。その姿は実に凄絶というに尽きます。
そうした隊員たちの姿からは、自衛隊員としての責任意識と同時に自負も感じられます。つまり、自分たち以外にこの難事に対応できる存在はないのだ、という確信。
それはその通りでしょう。それだけの訓練を受けている組織は日本において他にないのですから。
それでも隊員の家族もまた被災者となりながら、その安否を確認したいという当たり前の気持ちを抑え、広く被災者たちの救助等に活動し続ける自衛隊員たち。その姿に向かって、自衛隊だから当然などという言葉はとても口にできません。ただ浮かぶのは感謝の気持ちだけです。
そして事故の起きた福島原発への対応。そこにある危険をものともせず役割を果たすために果敢に行動する隊員たちの姿もまた印象的です。

自衛隊とは何のために存在するのか。決して自衛の戦争のためではなく、あらゆる国民あるいは国の危機(有事)に備えるため、と言って間違いではないと思います。
自衛隊の存在の意味を改めて考えてみるうえでも格好の一冊。
お薦めです。

1.千年に一度の日(水の壁/別名なくば/救出/最後の奉公/白いリボン/長く重たい一日)/2.七十二時間(戦場/「ご遺体」/落涙/母である自衛官)/3.原発対処部隊(正しくこわがった男たち/偵察用防護衣/海水投下/四千八百リットル)/エピローグ:日記

     

10.

「兵士に聞け−最終章− ★★☆


兵士に聞け 最終章

2017年02月
新潮社刊

(1600円+税)

2019年08月
新潮文庫



2017/03/15



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兵士に聞けから始まった“兵士”シリーズの最終巻。
1992年の取材開始から24年。当初は2007年
三島由紀夫にて終わる筈だったのが、東日本大震災の発生から書き続けられ、本書で計7冊となったとのこと。

“兵士”シリーズ初期の著作と比較してはっきりとした違いを感じるのは、ビリビリとした緊迫感に満ちていること。
東西冷戦時代の仮想敵国であった旧ソ連と異なり、領土拡張の野望を隠さず臆面もなく実行している中国は、現実としてそこにある危機なのですから。
特に尖閣諸島国有化以降、度重なる中国の露骨な領空・領海侵犯行為に、那覇基地からのスクランブル発進はそれ以前に比較して格段に増えているとのことですから。
「第1部 オキナワの空」は、そのアラート業務を担っている那覇基地の航空自衛隊、F-15飛行隊のパイロットたちに取材したもの。本ルポを読むだけで、目の前にある緊迫感がリアルな現実として胸に迫ってきます。
「第2部 センカクの海」は、哨戒機P-3Cに登場する海上自衛隊のパイロットたちに取材したもの。

東京で上記のことを考えてももう一つ遠い処の出来事と思えてしまうのですが、実際に沖縄に出かけて、沖縄から地図を眺めてみると、日本本土は遠く、それに対して中国は極めて近い。
距離感がまるで違うのです。それを知らないと「第一部」の緊迫感はもう一つ身に迫って感じられないかもしれません。

「第3部 オンタケの頂き」は、上記から一転して、2014年 9月の御嶽山噴火時における陸上自衛隊で“山岳連隊”と呼ばれる連隊の救援活動をルポしたもの。

本書全篇から感じることは、その任務の厳しさにもかかわらず、使命感を以て淡々とその任を果たす姿です。
かつての宰相吉田茂が、防衛大一期生に対して語ったという、自衛隊が日陰者であるときの方が国民や日本は幸せなのだという言葉が、胸に迫ります。


第1部 オキナワの空・・・第二〇四飛行隊/ライト・スタッフ/オキナワの特別な一日/夜空のテールライト/任務の特性上
第2部 センカクの海・・・「秘」/世界の艦船/おにいちゃん/状況ニ入ル/新妻への最初の頼み
第3部 オンタケの頂き・・・部隊が燃える/山岳聯隊/一歩の重さ/低体温症
エピローグ 神は細部に宿り給う

       

11.

「デルタ DELTA −陸自「影」の兵士たち SPECIAL SECRET UNIT ★★


デルタ

2018年10月
新潮社刊

(2200円+税)



2018/12/03



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周遠平率いる北京政府に対する反政府勢力か? <愛国義勇団>を名乗る中国人武装勢力が、海上保安庁の巡視船に体当たり攻撃して占拠。さらに尖閣諸島上陸を企てる。

その直前、米国政権はこれまでの方針を一変させ、尖閣諸島は安保条約の対象外と日本政府に通知。
その情報を掴んでいるのか、中国政府は軍を尖閣諸島に派遣して武装勢力を一掃、尖閣諸島の実効支配を確立しようと目論む。

その危機に、日本の内閣はどう対処するのか、自衛隊は日本国防衛という本来の役目を果たすことができるのか。

フィクションではありますが、絵空事ではありません。
何時、唐突にそんな事態が起きても不思議ない日本の危機。
現在はかろうじて日米安保条約の範疇という形でかろうじて守られているものの、米政府が方針を変更してしまうだけで直ちに危機は現実化します。
尖閣諸島はその代表的な例と言えますが、決してそれだけにとどまるものではないと思います。

そんな危機が現実化した時、瞬時に国益を死守するため行動する覚悟が、日本政府、政権担当者、日本国民に、果たしてあるのでしょうか。
本作は、その覚悟を問うているシミュレーション・ストーリィに他なりません。

平和とは、ただその言葉を唱えていればいい、というものではない筈。危機に際し命を賭してでも守る、という強い決意があってこその実現できるものだと思います。

本ストーリィにおいて、尖閣諸島に上陸した武装勢力と殺し合いをするため派遣されるのが、陸自で極秘に設けられていた戦闘集団<
デルタ・チーム>。
一方、そんな危機においてさえ、中国との外交関係を懸念する外相、自衛隊に那覇空港の優先使用を許可しない管制官、マスコミ報道を気にする永田町勢力等々が、総理や自衛隊の足を引っ張ろうとします。

危機が現実化した時、本当に日本は行動できるのか、一国として当然の決断を行うことできるのか、実情に立った警鐘の書、と言って誤りないでしょう。
現実を直視できるようになるために、お薦め。


1.発生/2.非常呼集/3.永田町二丁目三番地/4.上陸/5.命令下達/6.出撃/7.交戦/エピローグ

      


 

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