澁澤幸子著作のページ


東京生、津田塾大学英文科卒。故澁澤龍彦氏の妹。雑誌編集者を経てフリーライター。


1.イスタンブール、時はゆるやかに

2.イスタンブールから船に乗って

3.イスタンブールからバスに乗って

 


 

1.

●「イスタンブール、時はゆるやかに」● ★★




1994年1月
新潮社刊

1997年3月
新潮文庫化

  
1994/02/11

澁澤さんは1981年に初めてイスタンブールを訪れ、それ以後毎年の如く訪土しているとのことです。本書は、初めての時と2回目の訪問時の記録です。
何よりの魅力は、澁澤さんが訪れる幾つかの場所で、其々トルコの人々から至れり尽せりの歓迎を受け、自分達の家にも永年の友人のように迎え入れられていること。これには、日本人ということも有利だったようです。日本人ということが未だ珍しくもあり、日本人とタタール人の風貌が似通っていることもあったとのこと。その為か、澁澤さんは偶然知り合ったトルコ人の家族と自然に親しみ、そのことがイスタンブールという町に親しんでいくことに繋がっているようです。
イスタンブールという町自体、私にとっても魅惑に満ちた所です。アジアとヨーロッパの中間に在る街、アジアから来ればヨーロッパを感じさせ、ヨーロッパから来ればアジアを感じさせる街。宗教的にも、イスラム教でありながらかなり開放的な様子です。
本書では、観光の魅力より、澁澤さんが知り合った人々のこと、ゲバブ(羊の焼肉)等の食べ物のこと、そしてどこでも差し出されるチャイ(茶)のことに興味を惹かれました。

 

2.

●「イスタンブールから船に乗って」● ★★★




1997年9月
新潮社刊

1999年9月
新潮文庫化

 
1998/09/29

上記イスタンブール、時はゆるやかにの続編。
今回澁澤さんは、イスタンブールから船で黒海沿岸の都市へと渡り、そのまま沿岸の都市をめぐるという旅に出ます。
なんとそれらの地におけるトルコの人々の親切なことか、そのうえ物価は日本からみて格安。英語とトルコ語が操れるとこんなにも楽しい思いができるのかと、羨望と溜息で頭がクラクラしてくる程です。
すっかり澁澤さんに感情移入してしまい、一緒に黒海沿岸の旅を楽しんだ気分です。
イスタンブールと比べると、同じトルコといっても別天地のような気がします。失礼な言い方をしてしまえば、田舎ということ。なんだかんだと言っても、これらの街に比較するとイスタンブールはやはり都会であり、また観光地であり、よそゆきの街という気がします。
タージンおじいさんが澁澤さんに黒海岸の人たちはみんな心が暖かいんだよと語ったそうですが、本当に皆で心を合わせて澁澤さんを歓迎してくれたという雰囲気。素晴らしく楽しい気分です。

 

3.

●「イスタンブールからバスに乗って」● ★★




2001年7月
恒文社刊
(1700円+税)

 

2001/10/25

渋澤さんのイスタンブール紀行、3冊目。さすがに前著船に乗ってを読んだときのような感激はありませんが、読み進むうち、楽しく、豊かな気持ちになってくるのは相変わらずです。
今回はエーゲ海・地中海の海岸沿いの町、そして内陸の町を、バスを利用してあちこちと訪ね歩く旅。
訪れる先々で、まずはチャイを一緒に飲んでいらっしゃい、という声が幸子さんに掛かります。もちろん商売上の故という場合もありますが、商売のことを別にして、折角だからお茶を飲んで親しくなろうよ、という気持ちが素直に伝わってきます。それが何とも楽しく、嬉しいこと。それがトルコの旅の魅力です。

幸子さんが各地で歓迎される理由は、トルコ人に日本好きが多いこと、幸子さんがトルコ語を話すので相手が喜ぶこと、等々。また、女性であることも決して無縁ではないでしょう。
ただ、時々学生ですか?と聞かれるというのは、いくらなんでもなーと思いますよ(幸子さんには失礼ながら)。本当にそうなら、私だって行けば学生に間違えて貰えるかもしれない、なんてつい想像して恥ずかしくなってしまいます。
いずれにせよ、何処の町にも気さくにチャイを誘ってくれる声があり、緩やかな時間の流れがあって、真の“豊かさ”とはこういうものではないだろうか、と思わざるを得ません。
旅をするなら、トルコ。本書を読めば、間違いなくそんな気持ちになることでしょう。でも、それにはトルコ語も少し判った方が良いのでしょうね(苦笑)
忙しさに追いまくられ、ちょっと気持ちの余裕を無くしている方に、お薦めしたい一冊です。

  

読書りすと【紀行】

 


 

to Top Page     to エッセィ等 Index