関川夏央著作のページ

   
1949年新潟県生、上智大学中退。出版社勤務などを経てフリーとなる。85年「海峡を越えたホームラン」にて講談社ノンフィクション賞受賞。


1.二葉亭四迷の明治四十一年

2.中年シングル生活

  


  

1.

●「二葉亭四迷の明治四十一年」● ★★


二葉亭四迷の明治四十一年画像

1996年11月
文芸春秋刊
(1800円+税)

2003年07月
文春文庫化

    

1997/01/11

“くたばってしまえ”の二葉亭四迷に興味を持たれる方というのは少ないのだろうと思いますが、私、昔から好きな方でしたし、興味も感じていましたので、読んだ次第。

なかなかの力作でした。
坪内逍遥
と並んで、日本近代文学のさきがけとなった二葉亭ですが、実際の本人は小説家と見られるのを嫌っていた人でした。
小説作品も少ないのですが、その足跡が大きいだけに、自らジレンマに苦しんだ人でもありますし、本作品を読むと、二葉亭自身に甘え、飽きっぽい、それでいて理想家肌のところがあったという、近代社会のはしりの矛盾をひとりで体現していたかの人だったようです。

そうした二葉亭自身への興味もさることながら、当時の文学界そのものが成立過程にまだあったわけで、その頃に登場する作家たちの群像が生き生きと描かれていて、とても面白く読めます。
二葉亭と漱石というのは、年齢的に殆ど差はないのですが、二人の活動した背景というか環境というものには、大きな隔たりがあります。何故そうなのか。二葉亭の登場と漱石の登場の間には、既に日本の近代文学の進行が大きくあったわけです。

同時期に、樋口一葉、夏目漱石、石川啄木と登場しているのですが、それぞれの肖像自体も興味深い。
とくに二葉亭、漱石、啄木はそろって、東京朝日新聞に雇われていたのですから、互いに交錯していた訳です。そして、二葉亭が困ったときばかり勝手な願い事ばかりしていた、という逍遥の存在。

昨年暮れに漱石とその時代 第四部」を読んだのですが、ちょうど漱石の朝日新聞入社を扱ったもので、この本とたまたま同時期を扱っています。
両書とも二葉亭、漱石のことを具体的にかなり記述していて、当方としては、両方の側から相手を見てみる、といった具合になりました。

また、一葉と啄木のことは、井上ひさし「頭痛肩こり樋口一葉」「泣き虫なまいき石川啄木」である程度知っていたことなので、 その点からも面白く読めました。
明治の作家像や、二葉亭自身に興味のある方なら、なかなか面白い本だと思います。

   

2.

●「中年シングル生活」● 

 

1997年04月
講談社刊

2001年08月
講談社文庫
(514円+税)

   

2001/10/13

結婚してほどなく別れた妻から、「あなたはオトナになるまで再婚なんかしちゃ駄目」「懲役18年よ」と言われたそうです。
しかし、案に相違して懲役は20年の長きに及んでいる。そんな中年男性の独り暮らしを語ったエッセイ集。

阿川佐和子さん、岸本葉子さんという独身女性のエッセイを読み続けた後に、今度は男性をと、本書を読み出しました。
女性陣と比較すると中年男性のシングル生活は侘しいなぁ、というのが印象的。結局、身の回りを自分できちんと処することができないから、という雰囲気が漂う所為でしょうか。

本書はそんなエッセイに、巻末に阿川佐和子さんとの対談付。
ところが、その対談の冒頭で、「原則として事実には則さないように努力した」「ものすごく短い小説」と打ち明けられるのですから、呆気にとられてしまいます。
そういえば同年齢のやはり独身である女性の友人というのが度々登場し、そんなに都合よくいるものか、と思っていたのですが、なぁーんだ、という思いです。
そう思って読み返すと、やはりエッセイとはちょっと違う、創りものの匂いがするのです。どことなく胡散臭かったっけ。

    


 

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