六嶋由岐子著作のページ


大阪府生、関西学院大学文学部卒。ロンドン大学東洋アフリカ研究所及びデヴィッド財団コレクションで修士課程(東洋陶磁)を修了後、ロンドンの古美術商スピンク・アンド・サンの東洋美術部に勤務。帰国後は古美術取引、美術関連本の翻訳を手がける。98年「ロンドン骨董街の人びと」にて講談社エッセイ賞を受賞。

 


   

●「ロンドン骨董街の人びと」● ★★    講談社エッセイ賞




1997年12月
新潮社刊

2001年3月
新潮文庫
(514円+税)

 

2001/03/28

ロンドンの古美術商スピンクに就職した著者の見聞記、と言うのがふさわしい本です。
第1章において、上記に先立つ留学時、初めての住居をイースト・エンドに定めた体験が語られています。極端から極端。其処とスピンク、どちらの世界も英国社会の一面であって、全てでないことを明確に語っています。印象的かつ象徴的であり、見聞記としては良い滑り出しだと思います。

極めて貴族趣味な古美術、その長い歴史をもつ名門古美術商が、何故また東洋・日本の若い女性を採用したのか? そんな疑問も浮ぶのですが、その点はあまり明らかにはされません。ただ、単に上辺だけでは済まさない英国社会のしたたかさ、というものをそこに感じます。古美術世界に入り込む為には、コレクターになるかディーラーになる他ないようで。その点で六嶋さんの就職体験は貴重なものでしょう。その見聞をこうして本で読めるのは、嬉しいことです。

本書の魅力は、六嶋さんの観察眼に拠っています。古美術を愛する英国社会の実相を覗き見る経験を重ねながら、単にそれに感心するだけでなく、冷静にそのあざとさも見据えています。
古美術を通してみる英国社会は、貴族を中心とした上級階級のものであり、そこには伝統的英国の姿をあくまで固守するという、如何にも英国人らしい姿勢を感じます。それを是とするか非とするかは人の好み次第でしょうけれど、本書には、英国社会の如何にも伝統的・階級社会の一面を知ることが出来る、という面白さがあります。

東の果ての旅立ち(古美術鑑定ショーへ行く)/英国紳士の豊かな遺産(デヴィッド財団コレクション)/セント・ジェームズ街の古美術商(王室御用達の古美術商への就職)/仕事部屋は屋根裏の宝物殿(誇り高きディーラーたちと)/コレクターたちのクリスマス(英国コレクター気質)/古美術商たちの華麗な六月(グロヴナー・ハウス・アンティックス・フェア)/貴族の館のオークション(ハウス・セール)/ある古美術商の死(石の神々)

 


     

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