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941年大阪府生、慶應義塾大学法学部政治学科卒。専攻、国際関係論。日本文藝家協会会員。。

 


             

●「ミッドウェー海戦」● ★★☆

  

 
2012年05月
新潮選書刊
第一・二部
(1600円+税)
(1700円+税)

   

2012/06/25

  

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“ミッドウェー海戦”といえば、太平洋戦争において日本が主力空母4隻を一気に失い、日米の戦況を一変させた歴史的転機となる、日本にとっては屈辱的な海戦です。
何故日本がそんな屈辱的かつ壊滅的な大敗北を喫したのかというと、その理由は日本の暗号が解読され、米国太平洋艦隊に極秘作戦行動が筒抜けだったからだとはよく知られた事実です。
しかし、大敗北の真相はそれにとどまらず、連合艦隊自体に根源的な深い問題があったという。本書はその真相をつぶさに明らかにした力作歴史ドキュメントです。

「第一部 知略と驕慢」は、海戦開始前の状況を綴った篇。大敗北に至るあらゆる伏線が挙げられています。要は、情報戦の失敗だけではないのです。そもそも、勝利間違いなしという根拠なき楽観、米軍は弱いという根拠なき一方的な過小評価。実戦を経験した将官の中には不安を感じていた人物が何人もいたらしい。しかし、その不安が上層部に伝わることは一切なかった。南雲−草鹿ラインが斥けてしまうからである。
「第二部 運命の日」は、海戦の終止を迫真のドラマのようにつぶさに描いた篇。戦闘に従事した兵士たちの個人名が次々に登場し、これ以上ないというくらい迫真に迫り、ただただ圧倒されます。
この人たちが何故あぁ無念な死を遂げなければならなかったのか、いくら戦争とはいえ、という思いがしてなりません。
その直接の原因が
第一航空艦隊司令長官=南雲忠一中将、同参謀長=草鹿龍之介少将、航空甲参謀=源田実中佐ラインの、戦闘指揮者としての欠陥にあったことは、本書を読む限り火を見るより明らかです。
責任を艦とともに命運を共にした司令官・艦長たちの姿に比し、のうのうと生き延び臆面もなく新たな艦隊の司令官・参謀長に横滑りしたその姿を見ると、自分の責任を棚上げにし恥を知らぬ人間の典型を見る気がします。
そして更に本書では、
連合艦隊司令長官=山本五十六大将への批判にも至ります。人気の高い大将ですけれど、井上成美大将は山本大将の安易なひと言が日本を太平洋戦争に巻き込んだとして批判していますし、著者も山本大将の温情が大敗北の誘因となり、大敗北の原因分析を置き去りにして隠蔽工作に終始した誘因ともなっているとして批判的です。

米軍と戦って勝てる訳がないとは、見識ある海軍武官なら開戦前から判っていたことで、その意味ではミッドウェー海戦の勝敗がどうであろうと日本敗戦という結果は変わらなかったと言えるでしょう。
それにもかかわらず、戦後60年以上経って今なお検証する意味は、そのパターンが今もなお日本社会で繰り返されている面があるからと言うことが出来ます。
ミッドウェー海戦、日本敗戦の原因分析を自らきちんとやらずにうやむやにして済ませてしまった、その姿勢が福島原発事故をめぐる東電の姿に帰結しているようにも感じられます。
ミッドウェー海戦の詳細を知る歴史的興味、その戦訓から学ぶ多くの事柄、その意味で価値ある歴史書力作のひとつ。

「第一部 知略と驕慢」
はじめに/序章.その日の山本五十六/
1.運命の出撃/2.誇り高き艦長/3.盗まれた海軍暗号/4.史上最強の機動部隊/5.ミッドウェー島防衛計画/6.戦機熟す/7.しのびよる危機
「第二部 運命の日」
8.ミッドウェー島攻撃/9.機動部隊上空の戦い/10.山口多聞vs南雲忠一/11.三空母被弾/12.空母飛龍の反撃/13.友永雷撃隊の最期/14.刀折れ矢尽きて/15.海戦の終幕/終章.海戦の果てに

            


  

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