三宅玲子著作のページ


1967年熊本県生、ノンフィクションライター。オンラインメディアや週刊誌にて「ひとと世の中」を取材。2009年より5年程中国へ。11年より日本人と中国人のゆるやかなプラットフォーム Billion Beats を運営。

 


   

「真夜中の陽だまり−ルポ・夜間保育園− ★★


真夜中の陽だまり

2019年09月
文芸春秋
(1500円+税)



2019/09/29



amazon.co.jp

九州は博多の繁華街である中州のほど近く、キャナルシティの一角にある夜間保育園<どろんこ保育園>を2年間にわたって密着取材したルポ。

待機児童問題がクローズアップされ、その問題への関心は高まったものの、夜間保育の問題には今一つ。
その必要性については何となく感じてはいたものの、具体的な知識、認識となると全くと言って良いほど知りませんでした。
本作は、その問題点、重要性、その深刻な状況について、上記保育園を題材にして、そこに通う親子の実例も紹介しながらつぶさに描き出した渾身のルポです。

夜間保育園が必要とされるのは、親が夜の仕事をしているという実情から。中州ともなれば当然ながら、ホステス等で働くシングルマザーが多い(そればかりではありませんが)。
働くためには子供をどこかに預けなくてはならない。そこに登場するのが“ベビーホテル”。しかし、劣悪な環境、保育士もいないその施設は、子どもにとって悲惨なもの。
それに対し上記保育園は、子どもたちだけでなく、孤立しがちな母親たちのサポートにも努めているのだと言います。
しかし、夜間保育園は制度ができた以降、施設数は全く増えておらず、また午前 2時までといった深夜型は少なく、午後10時までという処が多いのだそうです。

母親の仕事が水商売だからといって差別があってはいけないと思います。子どもたちのことを考えれば、むしろ積極的に親も含めて、社会全体でサポートしていく必要があると思います。
本作で紹介される様々な親子のリアルな姿を知ると、そういう思いを強くします。
まして少子化という問題があり、一方で親による子どもへの虐待という事件が相次ぐ中、親子共々をサポートしていく態勢が必要なのだと思います。

シングルマザーでも子どもを育て、生活していける社会の実現、一方でそれは離婚しやすい社会の実現ということに繋がるのかもしれませんが、家族、夫婦といった問題はそれとは別に考えるべきでしょう。
いずれにせよ、男性にとってばかり都合の良い社会ではなく、平等に女性にとっても生きやすい社会の実現が目指されなければならない、そう思います。
いろいろな問題を深く考えさせられる一冊です。お薦め。


序章/1.中洲の夜間保育園/2.真夜中の親子/3.ベビーホテル/4.見えない子どもたち/5.防波堤/6.陽だまり

         


     

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