伊藤之雄(ゆきお)著作のページ


1952年福井県生、京都大学大学院文学研究科満期退学。京都大学公共政策大学院教授。確かな史料に基づいて、明治維新から現代までの政治家の伝記を執筆することをライフワークとする。2011年「昭和天皇伝」にて第15回司馬遼太郎賞を受賞。

 


     

●「昭和天皇伝」● ★★☆       司馬遼太郎賞


昭和天皇伝画像

2011年07月
文芸春秋刊

(2190円+税)

2014年03月
文春文庫化

  

2011/08/03

  

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太平洋戦争を含む昭和という激動の時代を生き抜いた立憲君主、そして初の象徴天皇となった昭和天皇の生涯をつぶさに描いた力作評伝。
明治天皇の皇孫〜皇太子として過ごした時代、戦争に突入した時代に立憲君主として過ごした時代、そして戦後日本において象徴天皇として生きた時代、という3部構成です。

どんな人でも子供の頃と大人になってから、そして中年〜老年という年代では違いがあると思いますが、本書を一通り読み終わってから昭和天皇の生涯を振り返ってみると、上記3つの時代の違いの大きさはとても同一人の生涯とは思えないような大変動であったと、驚愕する思いです。
明治天皇の皇太孫として期待を集めた時代、思うに任せぬ状況の中で心ならずも立憲君主として開戦に承諾を与えざるを得なかった時代、そして象徴天皇という新たな時代を切り開いていった時代。
誰にもその立場を代わってもらうことはできず、責任だけ背負うその孤独さ、辛さはさぞかしだったろう、と思います。

これまで、昭和天皇は戦争に不賛成であった、しかし立憲君主として自らの意思を示すことは許されなかったと認識していましたが、実際の状況・経緯はそんな簡単なものではなかったことを、本書を読んで初めて認識しました。
君主機関説に基づく立憲君主として振る舞おうとしながらも、時に逸脱することもあり、その結果が芳しくなく自信を失うこともあったという。
困難な時代に若くして即位し、輔弼する人材に経験豊富な大物政治家を得られなかったことを思えば、それはもう仕方ないことだったという他ないでしょう。
その一方、経験と苦労を重ねたことにより、終戦を迎える頃には強かさと確かな政治的洞察力を備えるに至ったという点に関しては、尊敬の気持ちを抱かずにはいられません。

立憲君主として昭和天皇の振る舞いはどうだったのか、また立憲君主という立場を失った後に象徴天皇としてどう生きようとしたのか。
本書を読み説く鍵はその2点に尽きると思います。
歴史から学ぶことは実に大きい。もう一度昭和の時代を振り返る上でも、今後の天皇制を考える上でも、本書は貴重な一冊です。是非お薦め。

昭和天皇は「現代の君主の中でもっとも率直ならざる」人間か−はじめに
第一部 皇孫・皇太子時代
期待の男子−明治大帝の初孫/楽しい少年時代−欧州風教育と乃木学習院長/明治天皇への憧れと大正天皇への敬愛−東宮御学問所/新しい世界への目覚め−大正デモクラシー・渡欧・結婚
第二部 大日本帝国の立憲君主としての統治
新帝としての気負い−政党政治の始まり/誇りと正義感の代償−張作霖爆発事件/重圧と自信喪失−ロンドン条約・満州事変/国際的孤立と軍統制への不安−国際連盟脱退と2・26事件/見通しのない戦争−盧溝橋事件・三国軍事同盟/日米開戦への危機−日米交渉・南部仏印進駐/神に祈るしかない−太平洋・大陸での戦い/一撃講和から降伏の決断−本土決戦か敗戦か
第三部 象徴天皇としての戦後
天皇制を守る−民主化と象徴天皇制の成立/退位問題に揺れる−サンフランシスコ講和/象徴天皇と「戦争責任」への心の傷−日米安保体制と「豊かな」日本への道
昭和天皇と昭和という時代−終わりに

 

※(参考)他に・・・波多野勝「裕仁皇太子ヨーロッパ外遊記」、保阪正康「昭和天皇」 

  


  

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