猪瀬直樹著作のページ


1946年長野県生、信州大学人文学部経済学科卒。87年「ミカドの肖像」にて第18回大宅壮一ノンフィクション賞、96年「日本国の研究」にて文藝春秋読者賞を受賞。小泉内閣成立後行革断行評議会のメンバーとして特殊法人等の廃止・民営化に取り組む。2002年6月道路関係四公団民営化推進委員会委員、07年東京都副知事、12年東京都知事選挙に当選し就任。13年12月徳洲会からの借金を都議会で追及され辞職。


1.
続・日本国の研究

2.道路の権力

 


 

1.

●「続・日本国の研究」● ★☆

 

 
1999年03月
文芸春秋刊

(1238円+税)

 

2004/03/09

何故日本経済は改善しないのか、何故経済的国力は停滞したままなのか、何故将来展望が開けないのか。
その大きな原因のひとつと言わざるを得ない官僚による、国家予算(つまり国民の税金)の無駄遣い、自己利益への費消の具体例を並び立てた著書。加えて、政界、金融への懸念も語られています。
本書は「日本国の研究」のその後をフォローアップするために、週刊文春に連載されたコラム「ニュースの考古学」に書き継がれたものの単行本化。
そのため、ひとつひとつの問題についての記述は短く、道路の権力に比べ読み物としては物足りない面があります。しかし、その反面において問題とすべき事柄が如何に多いか、如実に露わにした著書と言えるでしょう。
東京湾横断道路の計画の杜撰さ、財政実態の酷さは、誰しもすぐ判ることでしょう。
本書の中で著者が期待したこと、5年後の今、それらさえも実現されていないことを、どう受け止めるべきなのか。
如何に官僚が自分たちの肥太りのために税金を浪費しているか、マスコミが如何にその問題から目を背けているか(選挙民である我々の責任も否めませんが)、虚しくなります。
せめて、問題・悪習が国の中央に根深く蔓延っていること、そのことは知っておくべきことであると思います。本書は、そのための格好の案内書です。

<税>の行方/迷走する<霞が関>/<虎ノ門>の闇/主なき迷宮<永田町>/<金融>危機の構造

  

2.

●「道路の権力 道路公団民営化の攻防1000日」● ★★★




2003年11月
文芸春秋刊

(1600円+税)

2006年03月
文春文庫化

 

2004/01/17

昨年とかくTVニュース・新聞紙上を賑わわせた道路公団民営化問題。その委員会の中心メンバーとして奮闘した猪瀬さん本人による、改革をめぐる攻防の経緯一切を語った著書です。

前半は、民営化推進委員会に遡る「行革断行評議会」の経緯一切。後半が「道路公団民営化推進委員会」での経緯一切という構成になっています。
TVニュースにしろ、新聞記事にしろ、所詮メディアによって加工された情報。ですから、我々は一面のことしか知らされていません。自民党道路族議員の過剰な反応、藤井治芳道路公団前総裁の傲慢な対応ぶり、今井敬委員長の辞任等に目を奪われがちですが、事実はどうだったのか。それを知るのに、本書は貴重な一冊です。
本書に記された事実は、まさに小説以上にドラマティック!
国土交通省、道路公団は、民営化推進委員の資料請求をことごとく無視、検討時間を与えないよう資料提出を遅らせる、肝心なものを外す等々、なりふり構わずの妨害、嫌がらせ。
いやはや酷いものです、まさにスパイ同士にの謀略戦なみ。ただし、そのやり方の幼稚さ。これが仮にも“公僕”といわれる幹部官僚のすることかと、呆れ果てるほかありません。しかし、従来そうした方法で官僚が我意・自らの利益を通してきたことを思うと、決して笑い事では済みません。
もちろん、民営化推進委員の意見がすべて正しいとは限らない訳で、それならそれで堂々と議論すれば良い。それを、子供でもやらないような方法で足を引っ張ろうとするのは、内心非があることを自覚しているからに他なりません。
正直なところ、景気低迷でサラリーマンがリストラにさらされている中、最後は税金を投入してもらえば良いというばかりの、赤字を無視した肥え太りには怒りを覚えます。
消費税アップ、年金保険料アップが、政府の視野にしっかり入っている現在、我々国民=選挙民として勉強するには、格好のノンフィクションです。

民営化推進委員会に対する妨害勢力は、国交省、公団、その配下にある委員会事務局、道路族議員、その様々なパワーに篭絡されたメディア等々。その各々があらゆる手を使って委員会答申を骨抜きにしようと謀ってきた訳ですから、それらを跳ね除けて答申をまとめた頑張りは、まこと意義の大きい一歩と言うべきでしょう。その中で、緻密に資料をチェックして罠に嵌らず、委員会を終始リードした猪瀬さんの刻苦勉励ぶりには、敬服・感謝するほかありません。

本書を読むのに、社会問題を勉強しようなどという殊勝な考えは不要です。サスペンス小説以上にドラマティックな経緯を面白く読んでみよう、と思うだけで充分。是非読んでいただきたい一冊です。我々の税金を元にしたドラマなのですから。

第一部 行革断行評議会篇
聖域に挑む/実力者たち/9342キロという旗/変人の戦術
第二部 道路公団民営化委員会篇
民営化委員発足/総裁たちの弁明/「凍結」の道路/論破/最終答申/国民の選択

  


  

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