平山 譲著作のページ


1968年東京都生。出版社勤務を経て著作活動入り。著作に、阪神大震災で全てを焼失した街と人の復興の物語「還暦ルーキー」等あり。

 


 

●「4アウト」● ★★




2005年11月
新潮社刊

(1400円+税)

 

2006/07/08

東京都多摩障害者スポーツセンターに通う障害者たちで作った野球チーム“東京ブルーサンダース”
本書は、ボランティアで監督を引受けたセンター指導員の矢本さんと障害者たちメンバーによる勝つための野球チームを描いたノンフィクションです。

事故や病気で身体障害者となった人たちが野球をすることによって明るさを取り戻す、感動的なノンフィクションだろうと想像して読み始めたのですが、本書の内容はそれとだいぶ違う。
本書を読んで教えられたことが沢山あります。それは、センターで指導員の職についた矢本さんが障害者から受け入れられなかった理由に通じるものです。
まず、障害があるからといって野球をやりたいという気持ちに何ら変わることはなく、また野球をやってはいけない理由など何もないこと。
そして障害があるからといって負けても仕方がないんだと思うことは間違いであること。障害者のチームだからといって慰めあうのではなく、勝つことにこだわり猛練習に明け暮れることだってできるのだということ。
前者はこのチームのメンバーが共有した喜びでしょうし、後者は指導員として挫折しかかった矢本さんが学んだことでしょう。
障害のある人たちへそれ故の肉体的配慮は必要でしょうけれど、やりたいという気持ち、やることの喜び、傷害がある以外の身体は健常者と全く変わらないのだ、ということを本書を読むと気付かされます。
だからといって、本書に登場する人たちに苦労がない訳では勿論ありません。走攻守といろいろな運動が要求される野球への困難は大きいし、競技者が少ないためチーム組成が難しいという前段階があります。また、利き腕を切断、片足が義足、左半身不随等の障害を抱えたメンバーが野球をやるためにはそれなりの工夫・練習も欠かせません。まずそれを越えて、更なる猛練習に明け暮れて全国身体障害者野球大会での優勝を目指す面々たち。

本書を読んで感じるのは、身体障害を乗り越えて野球をすることへの感動ではなく、一度は諦めた好きな野球を再び目一杯やることができるというメンバーの充実感、躍動感、自信の横溢なのです。だからこそ本書の読後感は爽快というに尽きます。

 


 

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