平井久志著作のページ


1952年香川県生。75年共同通信社入社、外信部、ソウル支局長、北京特派員等を経て、現在編集委員兼論説委員。2002年瀋陽事件報道にて新聞協会賞、瀋陽事件や北朝鮮経済改革等の朝鮮問題報道にてボーン・上田賞を受賞。

 


 

●「なぜ北朝鮮は孤立するのか−金正日 破局へ向かう「先軍体制」−」● ★★




2010年07月
新潮選書刊

(1300円+税)

 

2010/09/08

 

amazon.co.jp

現在の北朝鮮が独裁体制であり、またその北朝鮮の現状に危機を感じるのは、今や常識と言って過言ではないと思います。
でも、どういう仕組みの独裁体制なのか、何故このような極端な軍事依存体制になっているのか、という問題については、なんとなくそうであると認識しているだけで明確に理解している訳ではなかったことに、本書を読んで改めて思い当りました。

本書は、「北朝鮮の内政を客観的に書いた本が少ないように感じた」と言う著者が、ジャーナリストの見地から「金正日体制の構築のプロセスを検証し、金正日体制、とりわけ先軍政治の検証を通じて後継体制の行方を考えよう」とした一冊。
まとまった形で北朝鮮を論じた書を読むのは本書が初めてなのですが、そうであっても、本書が実に的確に北朝鮮の内情を捉えていることが感じられます。

これまで新聞やTVのニュース等で、金日成のような国家主席の座にはつかず、国防委員長という肩書ばかりがクローズアップされ、何故それで最高権力者(=独裁者)たり得るのか?という疑問をなんとなく感じていましたが、その疑問がきれいに解けた、という思いです。
また、現在の金正日体制は、父親の金日成が世襲に腐心した結果であり、金正日総書記は故金日成主席の路線を踏襲しただけと思っていたのですが、これは私の大きな考え違い。
金正日総書記がすさまじい権力闘争を仕掛けて後継者の地位を奪取したこと、その拠り所としたのが軍であり、その必然的結果として軍に偏重した国家体制。その過程で朝鮮労働党は殆ど無視され、人民より軍の維持が最優先されたことは、故金日成も行わなかったこと、と指摘されると、今まで不可解だった北朝鮮のことがやっと、すっきり腑に落ちた気がします。

近くにあり、増して危機を孕んでいる国であってみれば、その国のことをよく知ろうと思うのは当然のこと。
その点において、本書は格好のテキストです。お薦め。

金正日体制は世襲か/国防委員長への道/父子の路線対立と金日成死去/「苦難の行軍」と金正日体制/「先軍」への道/「強盛大国」と金総書記の統治スタイル/金正日総書記の改革路線/健康悪化、そしてミサイル、核/「先軍体制」へ/後継体制への道/デノミ政策の失敗/哨戒艦沈没と張成沢の台頭/岐路に立つ北朝鮮

   


  

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