現場捜査の刑事一筋に勤めてきた著者によるノンフィクション。
「事件は現場で起きているんだ」という人気ドラマでのセリフがありましたが、まさしく生の刑事たちの姿、生の捜査現場をありのままに語り尽した一冊。
サスペンスとして読めば面白さイマイチ、読み応えイマイチでしょうけれど、これが生の警察の姿と思えば興味津々。
そしてそれ以上に、バブル期のKDDI=板野社長他業務横領事件、三越=岡田茂社長の業務横領事件、東海銀行秋葉原支店巨額不正融資事件と、これらが事件がとても懐かしい。
昨今でもライブドア事件などありますけれど、当時のあの事件等はTVドラマ以上にドラマティックでした。
しかし、それらはあくまで前段に過ぎません。本書の主眼は警視庁捜査二課時代にあるのですから。
捜査二課の担当は贈収賄。そして主なターゲットは中央官庁。知能係毎にナンバーが付けられているので俗に「ナンバー知能」と言われるとのこと。
著者が在任中に担当した大きな業務横領事件は、日本道路公団、農林水産省、そして外務省。
それにしても官僚による収賄体質の根深さには絶句します。
収賄罪を追求されるエリート官僚の特徴は、中々「落ちない」こと。何故かと言えば、頭が良くプライド高く、そのうえ自信を持っているから。それ故に官庁上層部へ迫ることは至難の業。
何故彼らが収賄罪を犯し追求されてもなお自信たっぷりなのかと言えば、それこそがそもそも官僚体質、中央官庁自体が利権構造に出来上がっているからではないか、と思う。
例えば、外務省報償費流用事件では、疑惑金額が11億57百万円に及び、たった一人の外務官僚がその内の9億9千万円を自分の懐に入れていたというのですから、想像を絶しています。
まさに、事実は小説より奇なり。
それでも、立件できずに見送った贈収賄疑惑は数多くあるそうです。
そうした官庁体質を改革しないで、税収が足りないから消費税アップをと言われても、納得できないのは当然のこと。
なお、巨額な横領をした官僚たちが、いずれもパターンにはまったように銀座のクラブで豪遊していたというのには、笑ってしまう。あぶく銭だからあぶくのように使う、という訳か。
そうした最前線で働いてきた著者が、大きな贈収賄事件を捜査中にいきなり左遷され、定年を待たずに退職、しかも辞表を受け取った上司は満足そうだったというのには、誰しも引っ掛かりを覚えずにはいられないでしょう。
本書は、これからも絶えないであろう中央官僚汚職・横領事件のニュースをさらに深く読み込むために、必読の書。
泥棒刑事/ナンバー知能/バブル経済事件/赤坂警察署汚職事件/麹町警察署/事件の現場は銀座のクラブ/農林水産省汚職/外務省報償費流用事件/終章
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