福本博文著作のページ


1955年東京都生、東洋大学法学部卒。雑誌編集者を経て著述業。著書は「心をあやつる男たち」「黄金の犬たち」「洗脳の部屋」等。

 


 

●「追跡者」● 




2000年10月
新潮社刊
(1700円+税)

 

2001/09/19

失踪者を追うテクニックが明らかにされるものと期待して読み始めたノンフィクションなのですが、どうも期待する方が甘かったのかもしれません。本書全体の内容としては、伊藤博重氏という探偵を題材に、日本における“探偵”の実像を描いた本と言えるでしょう。
ただ、この伊藤氏という探偵が、日本における一般的な探偵の姿かというと、それは違います。松田優作の映画「探偵物語」を見て“探偵”に憧れ、探偵学校で短期間教わっただけで、友人と2人で探偵事務所を開業。その別れた後も廃業せずになんとか探偵稼業を続けられたのは、父親の事業である不動産会社の経営を引き継いで掛け持ちをしたこと、たまたまTV番組“あなたに会いたい!”の探偵の一人に選ばれたこと、という幸運によります。
この業界は、元々経済的な信用調査中心の“興信所”と、個人の秘事を調べる“探偵”に分類されていたそうですが、実際に「探偵」を名乗る事務所は殆どないとのこと。(そりゃ、そうだろうなぁ。)
伊藤氏がTV局に選ばれたのは、知的な印象のベテラン探偵、華やかな印象の女性探偵に対照して、ジーパン刑事(TV・太陽にほえろ)を連想させるような若手探偵を、という需要だったそうです。
この番組のお陰で名前も知られ、人探しの仕事が増えたそうですが、番組が終了すれば再び浮気調査等の比重が高くなった由。
しかし、数少ないけれど、失踪者の追跡という仕事には緊迫感を感じさせられます。同時に、失踪の背景にはその人なりの事情がある。本書はそのことをも語りかける一冊となっています。

 


  

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