ブレイディみかこ著作のページ


1965年福岡県福岡市生、県立修猷館高校卒。保育士・ライター・コラムニスト。
音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、96年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務した後英国で保育士の資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。2017年「子どもたちの階級闘争−ブロークン・ブリテンの無料託児所から」にて新潮ドキュメント賞、2019年「ぼくはエローでホワイトで、ちょっとブルー」にて第73回毎日出版文化大賞特別賞、Yahoo!第2回本屋大賞−ノンフィクション本大賞を受賞。

1.ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

2.ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2

3.両手にトカレフ

 


   

1.
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー ★★★
 The Real British Secondary School Days      本屋大賞−ノンフィクション本大賞


ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

2019年06月
新潮社
(1350円+税)

2021年07月
新潮文庫



2019/09/05



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著者は、アイルランド人の夫と息子と3人で英国のブライトン在住。
“底辺託児所”で過ごした息子はカトリック系の名門小学校に進学しましたが、中学校進学が大きな転機に。
名門のカトリック系中学に進学するか、地元の公立
“元底辺中学校”に進学するか、その判断は息子の手に。そして息子氏は、果敢にも元底辺中学校への進学を選択するのです。
そして著者は冒頭の「はじめに」にて、
「中学生の日常を書き綴ることが、こんなに面白くなるとは考えたこともなかった」と記すことになるのです。

著者の言葉は誇張でも何でもなく、本当に面白い。
毎日、次々と驚くことばかり、まさに興奮尽きなし。明日は何が起きるのだろうかと、頁を繰る度にワクワクする程です。

ただ面白いというだけでなく、その中身が素晴らしい。
毎日問題にぶつかる度に息子氏が示す反応に、何と健やかな逞しさを感じさせられることか。
それらにおいて息子氏の抱く疑問もまた然り。
ただ、その疑問に適切な回答を示せる大人がいてこそ、子供は正しく育つのだ、という思いを新たにします。
(※ホント良い息子さんですよねぇ〜、惚れ惚れします)

しかし、移民が多い国、地域とはこんなにも問題、課題が多いことかと思います。普通に学校に通っているだけでも、様々な問題や疑問がいくらでも湧いてくるかのよう。
大人にとっても、とても為になるなぁ、と思える一冊です。

ひとつの枠にはまった考え方しかできない大人の、何と情けないことか、とも感じさせられます。だから大人もきちんと問題、課題に向かい合わねば。

一応、息子氏が中心軸ですが、ある時は息子氏に驚かされ、ある時は息子氏と一緒に疑問を感じ、共にあれこれ考えるという著者の姿勢もお見事。
小説以上に面白く、つい興奮させられ、時に感動尽きず、という掌篇的なノンフィクション。
是非、お薦めです!

はじめに/1.元底辺中学校への道/2.「glee/グリー」みたいな新学期/3.バッドでラップなクリスマス/4.スクール・ポリティクス/5.誰かの靴を履いてみること/6.プールサイドのあちら側とこちら側/7.ユニフォーム・ブギ/8.クールなのかジャパン/9.地雷だらけの多様性ワールド/10.母ちゃんの国にて/11.未来は君らの手の中/12.フォスター・チルドレンズ・ストーリー/13.いじめと皆勤賞のはざま/14.アンデンティティ熱のゆくえ/15.存在の耐えられない格差/16.ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとグリーン

          

2.
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2 ★★
 The Real British Secondary School Days 2     


ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2

2021年09月
新潮社

(1300円+税)


2021/10/12


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話題になった親子の成長物語、続編にして完結編とのこと。

基本的には前作の延長、変わるところはありませんが、それはつまり、引き続き考えさせられること多々あり、ということでもあります。
前作から比較すると、2年後でしょうか。
その間の息子氏の成長ぶりが、ちょっと感じられる、という風です。

それにしても、教育とはただ知識を得るだけでなく、自分で考えること、実践してみることを学ばせることが大事だなぁと感じます。
また、実際の暮らしの中で、様々な国の人、多様な考え方があることも学んでほしい。
日本人だけに凝り固まってしまっては、その面での成長もない、と考えます。

人種の違いから見下げ、彼らを排斥することの誤りを、本書ではとくに感じます。


1.うしろめたさのリサイクル学/2.A Change is Gonna Come−変化はやってくる−/3.ノンバイナリーって何のこと?/4.授けられ、委ねられたもの/5.ここだけじゃない世界/6.再び、母ちゃんの国にて/7.グッド・ラックの季節/8.君たちは社会を信じられるか/9.「大選挙」の冬がやってきた/10.ゆくディケイド、くるディケイド/11.ネバーエンディング・ストーリー

           

3.
「両手にトカレフ Tokarevs In Both Hands ★★☆


両手にトカレフ

2022年06月
ポプラ社

(1500円+税)



2022/07/11



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ブレイディみかこさん曰く、「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」には出てこない、ノンフィクションの形では書けなかったティーンたちがいた。本作は、あの子たちを見えない存在にしたくないという思いから生まれた物語、とのこと。

14歳のミア、母親は薬物中毒で、生活保護費が入ると必要なものを買うより前に薬物に使ってしまう。おかげで貧乏、ミアも弟のチャーリーも、小さくなった制服を着続けている状況。
そのミアが図書館で出会ったのは、明治末から大正時代を生きた
カネコフミコの自伝。
ミアと同様に、いやミア以上に苦難の道を歩んだカネコフミコの人生にミアは強く惹き込まれます。
それから現在のミアと、過去のフミコの苦難が並行して語られていきます。

またしても、親から受けられる筈の保護を受けられていない子どもたちの不幸、苦労を描いたストーリィ。
余裕がないから学校でも友達付き合いなどしていられない、
弟チャーリーと引き離される不安があるから安易に大人に相談することもできない。
しかし、ミアの近くにその頑張りを知ってくれる人たちがいるのは、ミアにとって幸いだったと言えます。

そんなミアには、単に経済的な支援だけでなく、将来への希望を持てるようにすることが大切なのでしょう。
本ストーリィにおいてそれは、カネコフミコの自伝であるし、ミアがプリントの裏側に書いたリリックを凄いと感じ、一緒にラップを作ろうと声を掛けて来た
同級生ウィルの存在でしょう。

最後、ミアの目の前に別世界の扉が開かれようとしているのを感じ、胸がときめくような思いがします。 お薦め。


※金子文子は実在の人物。波乱の人生を歩んだ女性のようです。


1.ガール・ミーツ・ガール/2.別の世界の入口/3.子どもには選べない/4.貧しい木につくチェリー/5.母たち、娘たち/6.本当のことは誰にも言えない/7.リリックの伝説/8.子どもであるという牢獄/9.一緒に震える/10.あなたを助けさせて/11.ここから逃げる/12.ここだけが世界とは限らない/エピローグ

      


     

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