李 榮薫
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Young Hoon Rhee 1951年生。ソウル大学校商科大学大学院で博士学位を受ける。ソウル大学校経済学部教授。著書に「朝鮮後期社会経済史」など。

 


 

●「大韓民国の物語−韓国の「国史」教科書を書き換えよ−」● ★★
 "The Story of the Republic of Korea"    訳:永島広紀

 

 
2009年02月
文芸春秋刊
(1857円+税)

 

2009/03/27

 

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大韓民国という国をよく知るうえで、とても為になった一冊。
ただし本書、韓国内で大きな話題を巻き起こした歴史書であるとのこと。

地理的に一番近く、長い歴史の上でも様々な関わり合いがありながら、一方で近くて遠い国、韓国。
その一因が日本による朝鮮半島の植民地支配という歴史事実にあることは言うまでもありません。
しかし、片方において極端に日本を悪く言い立て、また片方において侵略戦争ではなかったなどという言動が懲りることなく繰り返される。一体どこに真実があるのか、知りたくてもお手上げ状態、という気持ちにさせられていた人は私だけではないと思います。
本書はそんな期待に鮮やかに応えてくれた一冊。読み終わって、とても勉強になったという充足感あり。

日本の侵略およびその併合政策によって、李王朝時代の閉塞、身分制度が崩壊し、それが戦後韓国での民主主義定着、経済の飛躍的発展に繋がっているという。そうした歴史的事実にもかかわらず、日本統治時代の日本の所業が“収奪”等々何もかも非道なものであったと国史教科書に記載され、その結果韓国民に刷り込まれた歴史認識は、様々な面において意図的に犯された誤りであるという趣旨のことが本書において指摘されています。
著者は、韓国民に広く刷り込まれた歴史認識に対し、誤りは誤りとして指摘し、客観的な歴史事実を明らかにしていきます。
それは日本の弁護というより、正しい歴史認識こそが韓国のためにもなるという信念に基づいてのこと。
だからといって、あの戦争が侵略でなかったとは決して言えませんし、日本統治時代の遺産を礎に韓国が戦後の発展を遂げたという部分があるにせよ、植民地支配を正当化する理由になるものではありません。
しかし、今後両国が共に発展していくためには、何よりもまず、客観的な歴史事実を明確にしていくことが不可欠だと私は思います。その点で本書は、大いなる意義をもつ一冊。

なお、本書を読んで興味惹かれたのが、次の2点。
・ひとつは筆者が記していること。
 日本が遺したインフラを利用して戦後当初は南朝鮮に対して優位にあった北朝鮮が、日本統治をそのまま踏襲した政治支配体制を取ったためにその後の発展の芽を摘んでしまい、今に至っていること。その北朝鮮と対照的に、農業国だった南朝鮮が日本を経由して西欧社会の仕組みを導入したことにより飛躍的発展を遂げることができたという。これにより国民にとってどちらの政治形態が望ましいものであるかは明瞭である、という筆者の論はとても鮮明です。
・もうひとつは、塩野七生「ローマ人の物語を思い浮かべて感じたこと。
 ガリア等他民族の同化に成功して帝国領土を飛躍的に広げたローマ帝国と、同化に失敗した日本。侵略であったかどうかは、その点からも明らかにされることと思います。

    


  

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