山本幸久作品のページ No.2



11.床屋さんへちょっと

12.愛は苦手

13.失恋延長戦

14.ヤングアダルトパパ

15.パパは今日、運動会

16.寿フォーエバー

17.一匹羊

18.GO!GO!アリゲーターズ

19.東京ローカルサイキック

20.展覧会いまだ準備中


【作家歴】、笑う招き猫、はなうた日和、凸凹デイズ、幸福ロケット、男は敵女はもっと敵、美晴さんランナウェイ、渋谷に里帰り、カイシャデイズ、ある日アヒルバス、シングルベル

 → 山本幸久作品のページ No.1


幸福トラベラー、ジンリキシャングリラ、芸者でGO!、店長がいっぱい、誰がために鐘を鳴らす 、天晴れアヒルバス、ふたりみち、あたしの拳が吼えるんだ、神様には負けられない、マイ・ダディ

 → 山本幸久作品のページ No.3


人形姫、花屋さんが言うことには、おでんオデッセイ

 → 山本幸久作品のページ No.4

  


      

11.

●「床屋さんへちょっと」● ★☆


床屋さんへちょっと画像

2009年08月
集英社刊

(1500円+税)

 

2009/09/11

 

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父親と娘の、向かい合う物語。
現代から過去へ遡っていく、連作風の長篇小説。

父親である宍倉勲は、元々製菓会社の二代目社長。しかし先代社長だった父親の興した会社を守れず倒産。人生の殆どをサラリーマンとして過ごし、今は定年退職して、孫のを連れて墓地を観に行くという姿が冒頭の「桜」
娘の香(かおる)は、勇を連れて実家に戻ってきており、しょうがない奴だ、という状況。
折角父親から継いだ会社を潰した人間、というと人間失格、という見方をついしてしまうのかもしれません。
いったいどんな人生だったのか、という興味を読み手に惹き起こし、その勲の辿った足跡を逆に辿っていく手法で、勲の人間としてのあり方を検証していく、という趣向のストーリィ。

結構きちんとやってきたじゃないか。きちんと生きてきたじゃないか。そう思えるのは、現在から過去へ逆に辿っていくという構成故の、本書の妙。
会社を潰したからといって、本人が何の才能もない、人間として失格だなんてことはないのです。そこには運もあれば、向き不向きもあった筈。
娘の香にしても、昔に戻る程、父親との関係は篤く、香自身もきちんとした女の子という風。特に小学生だった香が学校の課題で一日中会社に来て、父親の働く様子を身近に見るという章、父親と娘の繋がりの深さが感じられて、ちょっと胸が熱くなります。

勲が社長時代にひいきにし、今や香も勇まで利用することになった床屋さん、そこにも代替わりがあり、ある意味宍倉勲の辿った人生の生き証人のような存在。
その床屋さんの登場が必然的だったとは思いませんが、勲一家とその3代続く床屋さんとの関わりが何となく楽しい。
本書のキーとなっている“床屋さん”は、そんな存在です。
なお、エピローグというべき「床屋さんへちょっと」は、「桜」の後の話。

桜/鋤き鋏/マスターと呼ばれた男/丈夫な藁/テクノカットの里/ひさしぶりの日/万能ナイフ/床屋さんへちょっと

 

12.

●「愛は苦手」● ★★


愛は苦手画像

2010年01月
新潮社刊

(1400円+税)

2012年10月
新潮文庫化

 

2010/02/11

 

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お仕事小説と、現代社会に生きる女性たちの姿を描く小説と、このところ交互に書いている観のある山本幸久さんの、本書はその後者にあたる短篇集。

題名がちょっと変わっていて、何だろうと思う気持ちと、苦味を感じてしまう気持ちが入れ混じります。
各篇の主人公となるのは、アラフォー女性たち。
とは言ってもそこは筆達者な山本幸久さんのこと、一様なアラフォー女性ではありません。
・センスの悪い娘と暢気な亭主を嘆く主婦、
・略奪婚で元妻の残した家具・電気製品の買い替えに意地を燃やす主婦、
・離婚したにも関わらず今だ夫の不始末処理を押し付けられる元妻、
・中古の一軒屋を購入した独身の管理職女性、
・元フリーライターの主婦、
・40歳過ぎてできちゃった婚の女性、20年にわたる愛人生活の後にいきなり放り出された女性、
・リフォーム店の女性従業員
立場も違えば、目指すところ、ストーリィのたどるところも違います。
でも、どの女性主人公にも、息遣いがそのまま感じられるような現実感があり、男性作家なのにこうも女性を上手く描くか、と感心することしきりです。

40歳前後、これまでの人生を振り返り(何でこうなっちゃったのかという悔いもあるでしょう)、これからの人生を考える、という中間地点。
その戸惑いと今後への前向きな気持ちが感じられて、楽しい。
ユーモラスで温かな短篇集です。

なお、「買い替え妻」は捨て難い味わいあり、「ズボンプレッシャー」は呆れてしまう可笑しさ、「町子さんの庭」は意外な進展への楽しさ、「象を数えて」は嫁と義父との間に温かな共感が生まれる様子が絶品。
元愛人を主人公にした「まぼろし」、同僚である若い男性の同性恋愛を見守る「愛は苦手」の面白さは、山本幸久さんだからこその魅力ある短篇。

カテイノキキ/買い替え妻/ズボンプレッサー/町子さんの庭/たこ焼き、焼けた?/象を数えて/まぼろし/愛は苦手

 

13.

●「失恋延長戦」● ★★


失恋延長戦画像

2010年03月
祥伝社刊

(1400円+税)

2013年07月
祥伝社文庫化

 

2010/04/05

 

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非力で不器用、体育系は苦手と放送部に入った米村真弓子
放送部の夏合宿でも失敗し、部長から激怒され、すっかり落ち込んでしまう。そんな真弓子に「声はいい」「米村の声って胸に響くんだよ」と言ってくれたのが、同級生の大河原
それから真弓子は大河原に片想い。
高校1年から始まり、卒業してからの2年間まで続く、真弓子の長い片想いを描いたストーリィ。

片想いってそう叶うものではない、でも学校時代のホンの一時期のこと、淡い思い出で終わってしまう、というのが一般的なパターンでしょう。
ところが本書主人公の真弓子、不器用だし、ちょっと鈍なところもありますが、その分純粋。しかも、人に自分の気持ちをはっきり伝えられない性格。それが片想いの傷を深くした、と言えるでしょうか。
「失恋延長戦」という題名、どんな意味かと不思議でしたが、いつまでも終わらない片想いという意味かと、今なら判ります。

純朴で気が好くて、素直な女の子。だから応援したいのに、じれったいくらいに不器用。
そんな真弓子だからこそ、片想い・失恋状況をいつまでも引っ張ってしまったのか。
それでも軽やかで、気持ちの好い青春ストーリィ。
軽やかな印象を受けるのは、真弓子のキャラクターもあるのですが、真弓子の飼い犬の存在が欠かせません。
犬らしくなく、やたら人間くさい柴犬、ベンジャミン
その擬人化されたベンジャミンと、真弓子のやり取りが楽しい、本作品の魅力です。
青春、片想いと、ありふれた題材なのに、何故こうも楽しく、気持ち好いのか。そこが山本幸久さんの上手さ、という他ないでしょう。

なお、姫野カオルコ作品に登場しそうな、真弓子以上にぶっちぎりで不器用、かつ突拍子もない行動に走る同級生の藤枝美咲、こっちもやはり鈍感なんだろうと思う他ない大河原というキャラクターも、本書の楽しさ、魅力に花を添えています。
ユーモラスで気持ち好い、青春恋愛小説好きな方にお薦め。

  

14.

●「ヤングアダルトパパ」● ★★


ヤングアダルトパパ画像

2010年04月
角川書店刊

(1500円+税)

2013年03月
角川文庫化

 

2010/05/24

 

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18歳の少年少女が思いもかけず親となってしまう事実を受け入れ、成長する姿を描いた名作、ドハティ「ディア・ノーバディは私にとって忘れ難い作品ですが、本書はさらにその先へと進んだ物語。なんと、中学生の男の子が赤ん坊の父親となり、子育てに悪戦苦闘するストーリィなのですから。

中学2年の久遠静男はこの夏休み、生後五ヶ月の赤ん坊=優作を抱えて子育てに奮闘中。しかし、優作を預けられる託児所を早く見つけないといけない、もうすぐ2学期が始まるのだから、というのが静男にとって目下の急務。
何故そうなるかというと、静男の置かれている状況が状況。父親は舞台監督であちこち飛び回っており家に殆ど帰ってこない。母親は家を出て子持ちの男と再婚、別の家庭を既に持っている。
父親の知り合いだといって家に転がり込んだ末に、静男との間に優作を産んだ花音は、出奔して行方知れず。
したがって、今や優作の世話をするのは静男しかいない、という状況。
たとえ物語でもそれで済むのは、親のいない状況下、家事全般上手になった静男がきちんと優作の世話をできているから。
とはいっても未だ中学生。静男と優作の運命や如何に?

笑いごとで済ませられない信じ難い状況、家庭崩壊以上の状況ですが、どこかほのぼのとしてユーモアさえも漂う物語になっているのは、山本幸久さんらしいところ。
本ストーリィの面白さは、言うまでもなく静男の一生懸命な子育てぶりにあるのですが、その根底にある深い理由を見逃すことができません。
静男の優作に対する溢れんばかりの愛情の陰には、静男がいつも一緒にいられる“家族”を欲する切実な気持ちがあります。
静男が家族として求められ、また大切な家族として守りたいと思う唯一の存在こそが、赤ん坊の優作。
表面的にはユーモラスですが、内面的には結構シリアスなストーリィ。
楽しませつつ、家族というものの原点を突いた作品。お薦めです

          

15.

●「パパは今日、運動会」● ★☆


パパは今日、運動会画像

2011年07月
筑摩書房刊

(1500円+税)

  

2011/07/24

  

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お仕事小説、会社小説という類の作品が多い山本幸久さん、今回の会社小説の舞台は、社員総数 150人弱という(株)カキツバタ文具初の試み=社内運動会。
運動会となればそこはそれ、いつもの上司部下、同僚とはいえ、ついつい本音トーク、上司・先輩に対す日頃の怨念も飛び出すというもの。
さらに、社員によっては母親の飛び入り参加、家族帯同参加ということもあり、家庭の状況もチラリ、という次第。
その辺りが、社内運動会を舞台に設定した本作品のミソです。

ユーモラスは山本幸久作品にとっては欠かせない要素ですが、本作品に関してはユーモラスは勿論、ドタバタ要素もあり。
とくに32歳、未だ独身と言う娘の身を案じて飛び入り参加した母親のプリキャラ風ファッションに、当の体育系女性社員がゲッソリ気分になる冒頭部分からして可笑しい。
また、同姓の4人が部署、年齢を越えて盛り上がる様子、如何にも社内運動会らしい風景です。

ちょっとサスペンス的な楽しみは、同僚と結婚、妊娠を機に退職した元女性社員の登場があるのかないのか、気を持たせられる部分。同社のヒット商品の半分を企画し伝説社員として知られた妻が今日来るのか来ないのか、聞かれる度にゲンナリする平凡な社員の様子もまた可笑しい。
思わず絶句したのは、借り物競走での、ある課題。
ここまでやるかぁ、という思いを越えて、おいおい、それを真に受けるのか、というところで絶句。

まぁ、たまの運動会、たまの社員運動会ストーリィとして、気軽にかつ充分楽しめるユーモア会社小説。

           

16.

●「寿フォーエバー」● ★☆


寿フォーエバー画像

2011年08月
河出書房新社

(1600円+税)

2014年09月
河出文庫化

  


2011/09/13

  


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老舗の結婚式場を舞台にしたお仕事小説。
主人公の
井倉靖子は、中途入社、一人暮らし、彼氏いない歴更新中という28歳。

ハッピーな職場である筈なのですが、仕事より愛娘第一の課長、バツサンでキャバクラ好きの能天気な先輩社員と、この会社大丈夫なのか?と疑いたくなる状況。
おまけにあれこれ注文ばかりつける問題カップルに、現役高校生としか思えない不審カップル。そのうえ、近所にフランス料理をメインに結婚式場も引き受けるという競走相手も登場。
公私ともに靖子、大丈夫か? というストーリィ。

主人公の靖子、中盤でベテランの同僚から、どうしようもない欠点だとキツイ指摘を受けます。
まさにその通り、読み手としても同感としか言いようがないのですが、その欠点がそのまま主人公としての魅力の薄さに反映されていると言わざるを得ません。その結果として、面白さの上でもイマイチ。パンチが効いていない、という印象です。

なお、ライバルとなったフランス料理店、デザイン事務所が総合プロデューサーまで請け負っているということなのですが、その事務所の副代表の名前が「
ゴミヤジュンコ」・・・・。
そう、
凸凹デイズファンには懐かしい、あの醐宮純子が久しぶりに登場。相も変わらず、です。
さらに、
ナミちゃん、オータキ、クロと、皆あの懐かしい面々ではありませんか。
相変わらずの彼らのノリの良さ?に触れられて楽しい、のは「凸凹デイズ」ファンだけでしょうか。

           

17.

●「一匹羊」● ★☆


一匹羊画像

2011年10月
光文社刊

(1600円+税)

2014年05月
光文社文庫化

  

2011/11/27

  

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主人公たちがふと出会った、ちょっといい場面。そのことをきっかけに一歩前へ踏み出せば、新しい景色を目にすることが出来るかもしれない。
そんな趣向の掌編小説8篇。
山本幸久作品の中では、肩の力を抜いて、気軽に楽しめる掌編集になっています。

高校生の主人公がバイトで貯めたお金で長距離バスに乗り、金沢に引っ越したカレに会いに行く、冒頭の
「狼なんてこわくない」がまず爽快。
「夜中に柴葉漬」は男女、父子の関係を巧みに描いて読者の意表をつく展開が心憎い。
「野和田さん家のツグヲさん」では、ちょっとスリリングな展開と思わぬ結末が楽しめます。
「感じてサンバ」「どきどき団」は、女性陣のうさを吹き飛ばすような痛快さあり。
「踊り場で踊る」は、彼氏のいないOLものストーリィ。

最後を飾る表題作
「一匹羊」の主人公は、独身の40男。
「一匹羊」という題名、どんな意味があるのだろうと思っていましたが、そうかぁそういう意味か。サラリーマンにとっては中々に味わい深いストーリィです。ちょっといい気分が味わえます。

 
狼なんてこわくない/夜中に柴葉漬/野和田さん家のツグヲさん/感じてサンバ/どきどき団/テディベアの恩返し/踊り場で踊る/一匹羊

         

18.

●「GO!GO!アリゲーターズ」● ★☆


GO!GO!アリゲーターズ画像

2012年04月
集英社刊

(1500円+税)

2016年12月
集英社文庫化

  

2012/05/19

  

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夫と離婚して息子と共に故郷に戻った藤本茜がやっとありついた仕事は、冴えない地方球団=アリゲーターズの球団職員。実家から職場への毎日の通勤は不可能とあって、実家の母親に健人を預け、単身生活で奮闘中。
そのアリゲーターズはといえば、日本海側の6県に各1チームずつある独立リーグの一つで、地元スーパーの90歳になる女性会長がオーナー。
監督はセクハラが趣味なジイサン。ゼネラルマネージャーは元有名プロ野球選手(
芹沢)ですが、いつも服装はラッキーカラーだというピンク一色。中心打者も元プロ野球の強打者(笹塚)とはいうものの、まるでやる気なし。
その他、エースピッチャーは打たれるとマウンドで泣き出してしまう泣き虫、双子選手はスーパーでの店頭販売は達者だがプレーはイマイチと、個性的なメンバーばかり。
茜と一緒に一生懸命チームを盛り立てようとするチアリーダーの中心的存在の
イチゴは現代風の美女ですが、実は男性。
 
上記のように紹介するとユーモアストーリィとしか思えないでしょうけど、いずれは息子と一緒に生活できるようになりたいと、チームマスコット=ワニさんのぬいぐるみをかぶることも厭わず懸命に頑張る茜の姿に、心が温まります。
人間、意地と目標を持つこと、それに加えて応援してもらうことが大事と、低迷球団から次第に力を発揮していくアリゲーターズの物語と重複するような茜の頑張りを描いた長篇ストーリィ。

本書の前に読んだ
梨木香歩「雪と珊瑚とと同じく、シングルマザーの奮闘を描いた作品ですが、全く別の物語としか思えないほど、趣向も味わいも違います。
そこは、お仕事小説の多い山本幸久さん故に、職場、仕事をベースにした作品だからこそ。

           

19.

●「東京ローカルサイキック」● ★☆


東京ローカルサイキック画像

2012年09月
徳間書店刊

(1700円+税)

  

2012/11/01

  

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山本幸久さんには珍しいSF、超能力者もの。
主人公の
吉原花奈、恋心がときめくと身体が浮遊してしまう。もう一人の主人公である日暮誠は悲しいことを考えるとその所縁の場所に瞬間移動してしまう、という能力の持ち主。
2人の出会いは、中学校で共に図書委員になったことから。花奈の方が1学年上という状況ではあったものの、ほのかに恋心を抱き合う仲に。でも高校は別れ別れ。再び2人が出会うのは、大学生になった東京で。しかしその時2人は、頭に被さってその人間を支配するピンク色クラゲの如き生命体と闘うことを余儀なくされていた、というストーリィ。

上記のように記載すると近未来SFアクションものかと思われがちですが、そこは山本幸久作品、ユーモアを欠くことのないSFファンタジーという風を取りながら、本質的には中学生の頃に始まる少年少女の純情ラブストーリィという観が強い。
超能力とはいえ、それが自分の意のままにならなかったらただ厄介なだけでしょう。主人公2人の超能力も、常に思わぬ時に発現し、2人に利益をもたらすどころか困った状態に追い込むばかりという具合で、そもそもその設定自体がアンチSFストーリィと言えそうです。
それより肝腎なことは、花奈と誠、そして花奈とその唯一の友人=
穂先友美という3人の、中学以来の仲間関係が楽しい。

          

20.

「展覧会いまだ準備中」 ★☆


展覧会いまだ準備中画像

2012年12月
中央公論新社

(1650円+税)

2015年12月
中公文庫化

  

2013/02/05

  

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美術館で働く学芸員たちを描く、お仕事小説−美術館編。

主人公の
今田弾吉は身長 190cm余、元大学応援部員という、学芸員としては異色の存在。
彼が働く市営の
野猿美術館の先輩学芸員たちは、いずれも相当な変人ばかりで、一番新米という立場にある今田はそんな先輩たちの命令・指示に振り回されてばかり。
さらに大学応援部当時の先輩までがやたら纏わりついてきて、主人公の周辺はこのところ騒がしい。
そうした状況にもかかわらず今田、絵画専門運送会社の若い女の子配達員に惹かれますが、積極的な行動に中々出られないのは今田の性分というべきか。
 
“お仕事小説”の肝腎な仕事が美術館とあっては地味とならざるを得ず、その点では、そう特別なことが起きるストーリィではありません。
その分、主人公の周辺にいる人物(とくに先輩女性学芸員)が賑やかに設定されており、それに加えて今田が好きになる若い女の子もまた活発系と。
さらに
醐宮純子が今田の元カノとして登場し、それに伴って凸凹デイズの懐かしいメンバーも顔を見せ、賑やかさに弾みをつけています。
もっとも主人公はあくまで今田弾吉であり、いくら応援団だったからといって他人の応援ばかりしていていいのか?というストーリィ。
「いまだ準備中」という表題は、今田自身の状況をも示しているようです。
お仕事小説という面も、それなりに楽しめます。

           

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