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1.インストール 2.蹴りたい背中 3.夢を与える 4.勝手にふるえてろ 5.かわいそうだね? 6.ひらいて 8.憤死 9.大地のゲーム |
手のひらの京、私をくいとめて、意識のリボン、生のみ生のままで、オーラの発表会、あのころなにしてた?、嫌いなら呼ぶなよ |
●「インストール」● ★★ 文藝賞 |
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2005年10月
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本書は、最年少での文藝賞受賞として、話題になった作品。 一応読んでおこうか、くらいの気持ちで読んだのですが、読んだ甲斐はあった、というのが正直な感想です。 最初、文章の綴り方が気になったものの、主ストーリィが展開し始めると、そんなことは少しも気になりません。 ※インターネットを題材にしたストーリィでは、相手方となる男性は子供になりがちなのでしょうか。永嶋恵美「せん−さく」を思い浮かべます。 |
●「蹴りたい背中」● ★☆ 芥川賞 |
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2007年04月
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文藝賞受賞後の第一作。 本書は、高校に入って早々、クラスから浮き上がってしまっている女の子、“ハツ”を描く作品。 クラスの女の子たちのおしゃべり、仲間意識が嘘っぽく感じられて仕方がない。その為、仲間に入れず、疎外感がますます強まっているというのが、ハツ(長谷川)の現状。 そんなハツがクラスの中で見出したのが、同じく余り者になっている男子生徒“にな川”。しかし、彼が浮き上がっているのは、人気ファッションモデルのオリチャンにすっかり没頭している所為。余り者の共通意識と奇妙なもの見たさから、ハツはにな川に惹かれていきます。 それなりに自分の趣味に没頭しているにな川、同級生たちと協調しながらかつハツとも訣別することない親友の絹代。その2人の中間にあって、ハツの望むものははっきりしていない。そんな閉塞感、苛立ちが、ハツから感じられます。 |
●「夢を与える」● ★★ |
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本書刊行当時どうしようかと迷いつつ読むのを見送ることにしたのですが、それなのに今回読んだのは、予想した以上に話題作となったこと、図書館では予約多数だったもののたまたま他所で借りる機会が得られたから。
読み始めてからようやく、どうして見送ろうと思ったのかその理由に気づきました。その理由は、芸能界絡みのストーリィは好きじゃない、という単純な理由です。
本書ストーリィは、日仏混血の父親と日本人の母との間に生まれた夕子がチーズ会社の半永久的なCM出演を契約したことでブレイクし、アイドルタレントの道を昇っていくストーリィ。
私としては読みたいとは思えない類のストーリィですが、ストーリィの中にどっぷり引き込まれたことは事実。3作目にしてこれだけ読み応えある長篇にして、夕子という少女の内面を18年間にわたり深く抉った作品を書いた綿矢さんの才能は、凄いものだと思います。 |
●「勝手にふるえてろ」● ★★ |
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2012年08月
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主人公は26歳の平凡なOL、江藤良香。 今まで男性との恋愛経験なく高齢処女の主人公が、中学時代の片想い相手と、交際を申し込んできた会社の同僚との間で心揺れる様子を描いたストーリィ。 男性経験がない所為か、極端な形にブレる主人公の行動ぶりがユニークで面白い。 恋人なら○大生、結婚するなら○大生とは、私が若い頃よく聞いた言葉。 前半・中盤とありきたりに進むものの、終盤で急展開。 ※なお、経理課の女性ならこう、とパターン付けるのも、男性の勝手な思い込みでしょうね。 |
●「かわいそうだね?」● ★★☆ 大江健三郎賞 |
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2013年12月
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恋人、親友との関係の中で何故か耐える立場に立たされてしまった主人公。でもこれって理不尽じゃない? 仕方ない? 自分にとって酷な状況にもかかわらず、何故か自分を納得させてしまおうとするところが素直と云うべきか、人が好いというべきか、とにかくコミカル。 そんな女子ものストーリィ、2篇です。 表題作の「かわいそうだね?」 恋人の隆大、元恋人のアキヨが就職活動中で住む家がなくて困っている、ついてはその間自分の部屋に居候させてやりたいと言い出し、現恋人の樹理恵は仰天。 自分が今愛しているのは樹理恵だけ、アキヨとヨリが戻るなんて有り得ないと隆大は断言するが、そんなことってあり? 米国育ちの隆大にとっては自然なことなのか、隆大のことを信用できない自分が悪いのかと、樹理恵は混乱します。 「かわいそう」という言葉は、樹理恵がアキヨに対して思う言葉であると同時に、後輩女性から樹理恵が言われる言葉。「かわいそう」という言葉の使い方が絶妙です。 本篇では最後の場面がとにかく痛快、スキッとします。やはり人間はこうなってこそ、喜びもあるというものです。 もう一篇の「亜美ちゃんは美人」も、表題作に負けず劣らず上手さの光る作品。 主人公のさかきちゃん、美人の部類に入る方だというのに、超美人の亜美ちゃんが親友としていつも傍にいるため、割りを喰うことばかり。 ところが大学を卒業して2年後、新しい恋人に会って欲しいと亜美ちゃんから頼まれ、その彼氏に会ったさかきちゃん、唖然。何で・・・・。 女子2人の複雑で微妙な友人関係を描いて、こちらもお見事。 コミカル、でもちょっと・・・。でも最後にスカッと解き放たれたような痛快感、爽快感がコミカルな味わいと溶け合って、読み甲斐のある作品に仕上がっています。 綿矢りささん、やはり上手い! かわいそうだね?/亜美ちゃんは美人 |
6. | |
●「ひらいて」● ★★☆ |
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2015年02月
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他人をなぎ倒してまでという、女子高生の抑えられない衝動的な恋の行方を描いた恋愛小説。 高校生から始まって大人の世界へと進んできた綿矢さん、今更何で高校生?と思ったのですが、後先考えず盲目的に恋に突っ走るところは、やはり高校生に相応しいのでしょう。 主人公は勝気な性格の女子高生=木村愛。その愛が恋した相手は、風変わりな名前をもった同級生=西村たとえ。しかし、そのたとえには、既に中学時代から付き合っていた相手=美雪がいた。 他クラスにいるその美雪は、免疫性疾患から糖尿病を患い一日3回インシュリン注射が欠かせない。何でもないことだと伝えようとしたことがかえって同級生たちの反感を呼び、ずっと孤立している女生徒。 たとえのことがあって、意図的に美雪に接近した愛ですが、そのことから思わぬ事態が生じて・・・・。 その予想外の出来事は、読み手だけでなく、愛自身も思いもしなかったことというのが、自己抑制の効かない高校生らしく、面白いところ。 愛の暴走的な行動は美雪とたとえの2人も巻き込んで・・・・というストーリィ。 しかし、愛の暴走的な行動が美雪とたとえのプラス面を引き出したといえる結果は、本ストーリィへの充足感を生んでいます。 当初は高校生のありきたりな三角関係を描いたストーリィという印象でしたが、終盤に至っては圧倒される思いでした。 本作品からは、どんな過程を経ようと、自分の心を開いて見せることは大切なこと、という作者のメッセージを感じます。 なお、本作品では登場人物の目の表情について幾度か言及されているところが見逃せません。まず目から感情は表れるものですから。 高校生の恋愛ストーリィという題材を超えて、お見事! お薦めです。 |
7. | |
「しょうがの味は熱い」 ★★☆ |
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2015年05月
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同棲関係にある若い男女2人の、思いのズレを描いた中篇2作。 主人公は、アルバイト勤めの小林奈世と、会社員で営業職の田畑絃。 「しょうがの味は熱い」は同棲して半年という時期。 最初の熱気が冷めてみれば2人の性格および考えていることは大きくズレていて、相手に物足りなさを感じ、あるいは持て余しているという風。 ひとつベッドに寝ながら、というシチュエーションにて、2人各々のまるで真逆と言えるような思いを語らせているところが、実に上手い。 「自然に、とてもスムーズに」は、上記2人の3年後。未だ同棲という関係が続いていて、奈世としては結婚に向けてシビレが切れかかっているという状況を描いています。 同棲と結婚はどう違うのか。同棲を結婚に至る前段階と女性側は考えていたようですが、どうも男性側の考えは違ったようです。同棲は同居であってイコール結婚ではない、と。 結婚する気があるなら最初から結婚すればよい訳で、そうではないから“同棲”なのではないか、そこに根本的な問題がある筈と考えるのは私の世代だからでしょうか。一口に同棲といってもそこは色々でしょうけれど。 そもそもお互いの考えを明確にしないまま始めた同棲のようですし、また最初の時点でそれを明確にしようとしたら同棲には至らなかったのではないか、という未成熟なところが2人にはあります。 だから難しい、と言ってはそれでお終いですが、その辺りの微妙な綾を繊細かつ詳細に描き出しているところがお見事。 女も男も、お互いに大変だなぁ・・・・。もっとも同棲のみならず、結婚についても同じことが言えると思いますが。 しょうがの味は熱い/自然に、とてもスムーズに |
8. | |
「憤 死」 ★★☆ |
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2015年03月
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綿矢さん初の短編集。 冒頭の「おとな」はスッと読者の気持ちを惹きつけるオードブルのような篇。 「トイレの懺悔室」「人生ゲーム」は、主人公が男の子時代から始まる男性、という処が綿矢作品としては珍しい。 「トイレの懺悔室」は田舎での子供時代、近所の“親父”との関わりを描いた篇。てっきり地蔵盆における数珠回しという風習にまつわる思い出話かと思ったのですが、結末はなんとまぁ。あの綿矢さんがこんな持ってき方をするのかと驚きでした。 「憤死」は、小中学校時代の同級生が自殺未遂をして入院していると聞いた主人公が見舞いに訪れるというストーリィ。 決して仲が良かった訳ではなく、むしろ反感を抱くことも多かった間柄なのですが、本ストーリィの展開には主人公ならずとも思わず愉快になってしまう気持ちを禁じ得ません。“憤死”という言葉の面白さが判るのはその後になってから。 「人生ゲーム」は一時期に流行ったボードゲームを題材にしたストーリィなのですが、何とまぁ、そして然も有りなん。 上記3篇とも、冒頭の印象からは全く意表をつくストーリィ展開のうえに、その持って行き方が実に巧妙かつ上手い! まるで鮮やかなマジックを見るかのようです。その意味ではストーリィ・マジックと言って良いくらいかもしれません。 3篇とも全く異なる趣向、僅か一冊の中で3通りもの異なる趣向の、これ程質の高いストーリィを楽しめるなんて、何と贅沢なことでしょうか。 綿矢さんの上手さが極め付けに光る短編集、お薦めです。 おとな/トイレの懺悔室/憤死/人生ゲーム |
9. | |
「大地のゲーム」 ★★ |
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2016年01月
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綿矢作品としては予想外の近未来小説。舞台となる場所は定かではないが、少なくとも日本国内らしい。 夏のある日に大震災が発生し、その傷がまだ癒えていない時期。しかも1年以内に再度大震災が起きことが予想されている、という状況が本ストーリィの舞台背景。 本作品は、そうした状況の中で震災後大学キャンパス内に留まった学生たちの姿をが描き出します。 リーダーとなる学生が出現し、そのアジテーターに応じる学生たち。その姿はかつての学生運動を彷彿させます。 と言っても私自身、学生運動がほぼ沈静化した時期に大学生となった身ですから当時の空気を体験として知っている訳ではありませんが、こんな風なものだったのではないかと感じられます。 大学構内という一般社会からちょっと切り離された場所だからこそ、家族への責任がなく自分一人のことだけを考えていればいい身分だからこそ、こうした空気が広がり易いのだろうと思います。 だからといって全員が同調している訳ではないのですが、同調しない者は黙っている他ない。批判する様な空気を纏えば、マリのように皆から追い回されかねなかったのでしょうか。 そんな雰囲気が醸し出される、閉鎖された大学生社会を描き出すことを主眼とした作品のように感じます。 カリカチュアするように、主要な登場人物はマリを除き、「私」「リーダー」「私の男」とう名称で呼ばれます。 ストーリィに少々戸惑いを覚えるものの、ストーリィ運びは流石に上手い! |
「ウォーク・イン・クローゼット」 ★★ | |
2017年10月
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友情と男女関係を、コミカルかつ対照的に、そしてリアルに描き出した中編2作。 「いなか、の、すとーかー」は、コミカルで悩ましい篇。 故郷に戻り陶芸家になって3年の石居は、TV取材を受けたことから一気に注目度アップ。その成果か、砂原美塑乃という女性ストーカーに付きまとわれるようになって困惑。 悪友のすうすけ、幼馴染で4歳年下の果穂に相談しながら事態収拾に頭を悩ませるのですが、思いもしなかった事態が・・・。 悪いのは石居なのか、女性の方なのか。正解がある訳ではないところが何とも悩ましいところ。 「ウォーク・イン・クローゼット」は、28歳のOLである早希を軸に、幼馴染でランジェリーモデルから今や人気タレントになっただりあ、フラレて今は男友達という位置にあるユーヤという3人の友情とそれぞれの男女関係を、皮肉っぽくコミカルに描いた篇。 すぅーっと、面白く読んでしまう2篇ですが、共通する点を見い出そうとすれば、次の様なことか。 取り澄ましてお互いに駆け引きしあっている男女関係より、素のままでいられる友達関係の方が重要なのではないか。 洗濯が趣味という早希を始め、だりあ、ユーヤも、自分の喜びを中々恋人に理解して貰えないようですから。 他人の望みに合わせて生きるのか、それとも自分の楽しみを大切にするのか。いやはや、人生とは中々難しいものです。 いなか、の、すとーかー/ウォーク・イン・クローゼット |