内田康夫作品のページ No.

 

21.平城山を越えた女

22.耳なし芳一からの手紙

23.上野谷中殺人事件

24.浅見光彦殺人事件

25.

26.横浜殺人事件

27.日蓮伝説殺人事件

28.透明な遺書

29.坊っちゃん殺人事件

30.金沢殺人事件

 

【作家歴】、後鳥羽伝説殺人事件、平家伝説殺人事件、遠野殺人事件、赤い雲伝説殺人事件、夏泊殺人岬、津和野殺人事件、白鳥殺人事件、高千穂殺人事件、小樽殺人事件、日光殺人事件

 → 内田康夫作品のページ No.1


天河伝説殺人事件、鞆の浦殺人事件、江田島殺人事件、讃岐路殺人事件、琥珀の道殺人事件、神戸殺人事件、琵琶湖周航殺人歌、長崎殺人事件、御堂筋殺人事件、伊香保殺人事件

 → 内田康夫作品のページ No.2


箱庭、蜃気楼、佐渡伝説殺人事件、斎王の葬列、皇女の霊柩、藍色回廊殺人事件、ユタが愛した探偵、はちまん、箸墓幻想、中央構造帯

内田康夫作品のページ No.4

 
しまなみ幻想、贄門島、化生の海、十三の冥府、イタリア幻想曲、還らざる道、ぼくが探偵だった夏、名探偵・浅見光彦全短編
※付録:平塚神社

内田康夫作品のページ No.5

 


 

21.

●「平城山(ならやま)を越えた女」● ★★

  

  
1990年10月
講談社刊

1994年01月
講談社文庫

第28刷
(590円+税)

2013年11月
文春文庫化

 

2003/06/21

“浅見光彦・純文学ミステリ”
奈良県と京都府の境、つまり昔の大和の国と山城の国の境に広がった丘陵地帯を“平城山”と言うそうです。本作品はその古都・奈良を舞台にしたミステリ。
それだけに、奈良の寺、仏像のことが次々と話にでてきます。岩船寺、浄瑠璃時、薬師寺、新薬師寺、そして香薬師仏と。
そしてまた、本作品のヒロイン・阿部美果がとても魅力的。大手出版社の編集者で、20代前半。学生時代からの奈良、仏像好きで頻繁に奈良を訪れている。痩せっぽちでありながら、大酒飲みかつ大飯喰らいで、しかも弥勒菩薩に似ているという。
奈良のもつ悠遠さという情緒の中にたっぷり浸れて、しかもすこぶる感度が良く、機知・愛嬌ともたっぷりというヒロインが登場するのですから、奈良好き・仏像好きでなくても楽しめること請け合いです。
そのうえ、遺体で発見された若い女性をめぐる謎も、極めて興味をそそります。さらに、警察署での浅見と東谷警部のつっつかかり合いも、充分楽しめます。
ミステリとしての結末には釈然としないところもありますが、それを補って余りあるだけの、途中過程を楽しめる作品。奈良好きの方には、是非お薦めしたいミステリです。

※なお、ヒロイン・阿部美果は、執筆当時「小説現代」編集部にいた阿部美香さん(昭和38年生)がモデルとのことで、名前・容姿およびキャラクターとも、実在の阿部さんそのままだそうです。浅見シリーズのヒロインの中でも抜群の存在感があるのも、成る程と思う次第です。

プロローグ/写経の寺にて/奈良の宿・日吉館/香薬師仏の秘密/厄介な容疑者/消えた「本物」/日本美術全集/菩薩を愛した男/秋篠の里の悲劇/エピローグ

 

22.

●「耳なし芳一からの手紙」● 

  

  
1990年11月
角川書店刊

1992年02月
角川文庫
(485円+税)

 

2003/07/03

“浅見光彦ミステリ”。ちょっと変わった題名が目を惹かれる一冊です。
事件は新幹線の中で起こります。乗客のひとりである老人が突然苦しみ出し、「毒だ! あの女にやられた!」と叫んだのを最後に絶命する。
米原駅で待ち構えていた警察がすぐ車両の出入を封鎖しますが、隣席に座っていたらしい女性の姿は全く発見できない。一方、老人のバッグからは、「耳なし芳一」という差出人の封書が一通みつかる。折りしも同じ新幹線に乗り合わせたのが、池宮果奈、高山隆伸、浅見光彦の3人。

事件は、終戦直後、朝鮮半島からの引き揚げ時に遡るという、古い経緯に原因を発するミステリ。しかし、本作品の面白味は、そうした長期におよぶストーリィより、上記3人の組み合わせ、チームワークにあります。
下関から漫画家志望のため上京してきた果奈、偶然果奈と知り合っただけにも拘らずボディガードの如く果奈に張り付いてしまったヤクザの高山、その2人に呆れあるいは圧倒されながらもチームリーダーを務めるようになった観がある浅見と、その点にて浅見光彦シリーズの中でもユニークな作品です。
また、池宮果奈の活発さ、威勢のよさは、数いるヒロインの中でも筆頭でしょう。

プロローグ/果奈の出発/消えた「女」/遺された肖像/エーデルワイスの君/七卿は死ぬ/七分の三の謎/最後に笑った者/流れる星は死んだ/悲しい怪談/エピローグ

  

23.

●「上野谷中殺人事件」●

 

  
1991年02月
角川文庫
(417円+税)

 
2003/05/04

浅見光彦シリーズとしては、小品と言うべき作品。
事件の背景には、上野駅の超高層駅ビル化、不忍池地下の大駐車場建設計画をめぐる、地元商店主らの反対運動があります。
東北・上越新幹線が東京駅まで延長した後辺りから、上野周辺地域の低迷が話題となっていましたが、本書の刊行当時は本ストーリィもちょうど上手く社会問題を取り入れた作品だったのでしょうか。しかし、今となってはもう話題性を失われています。
事件そのもの、また浅見光彦の推理も、どちらも迫力不足であることは否めません。
本作品で興味惹かれることは、タウン誌として「谷根千マガジン」が登場していることでしょうか。
本作品のヒロインは、地元住民であり、上記雑誌の主宰者である大林繭美

プロローグ/不忍池/谷中霊園/よみせ通り/谷根千マガジン/父と娘/密室殺人/エピローグ

       

24.

●「浅見光彦殺人事件」● 

 

  
1991年03月
角川書店刊

1993年03月
角川文庫
(480円+税)

 
2003/05/03

浅見光彦シリーズの中では、ちょっと趣向の変わった作品。
それ故に「浅見シリーズを3作品以上お読みになった方だけ」というのが、著者から読者へのお願いとの由。

いつもの浅見シリーズでは、主人公は浅見光彦自身なのですが、珍しく本作品の主人公は被害者の娘である寺沢詩織になっています。読者は詩織と共に、浅見に頼りながら事件の真相を追う、という展開です。
本作品の特徴は、浅見光彦による事件の真相究明というより、著者である内田さんの仕掛けたトリックにあると言ってよいでしょう。
あとがきによると、原稿を読んだ担当編集者は最後まで真相を見極めることができなかったそうですが、半分位のところで内田さんの仕掛けは充分判りました。私だけでなく、ミステリを愛読している方なら、多分すぐ判ってしまうことでしょう。
浅見シリーズの中の異色作として、一応評価しておこうと思います。

プロローグ/トランプの本/二重構造の鍵/「御花」からの便り/思い出探し/組織対個人/浅見光彦の死/エピローグ

  

25.

●「 鐘 」● 

 

  
1991年10月
講談社刊

1994年11月
講談社文庫

(699円+税)

 

2003/06/14

“浅見光彦”シリーズ。内田さん初めての新聞連載作品だったとのこと。
浅見家の菩提寺である聖林寺の鐘に血の滴った跡。住職の依頼に挑発され、母・雪江が浅見に真相解明を命じるというのが、本シリーズとしては珍しい幕開け。
そして関係するとみられる殺人事件。その被害者のポケットからみつかったのは四国・琴平電鉄の切符。警視庁・升波警部からの協力依頼もあり、早速浅見は高松へ飛びます。
そして出会ったのは、似通った自殺事件。浅見は殺害事件と直感し、更に調査を進めます。被害者たちが言い残した「カネ」とは、金ではなく鐘のことなのか。関係者たちの出身地である富山県高岡市は、日本有数の鐘の生産地。高松・尾道・高岡、そして鐘に繋がるミステリ、というのが本書ストーリィ。
浅見の調査に同行する警視庁の田原部長刑事は、最初から浅見の探偵能力を軽視する様子。そのため本作品は、田原対浅見を象徴とし、データ・証拠依存の警察と直感・仮説ベースの浅見との対比が、これまで以上に強く出ている作品といえるでしょう。
なお、本書のヒロインは、兄の死を自殺と認定された松川慧美。フリーライターで、かつ感情起伏の激しいヒロインという設定もまた、本書の特徴。
讃岐路殺人事件に登場した大原部長刑事が再登場。
なお、本書題名の「鐘」はクロフツ「樽」に対抗したものの由。

プロローグ/血塗られた鐘/琴平電鉄/おかしな美談/北へ/越中万葉の里/鐘紋のルート/あしつきの乙女/高松の寺/七番目の鐘/鳴らずの鐘/諸行無常/エピローグ

        

26.

●「横浜殺人事件」● 

 

  
1992年06月
光文社文庫

2002年05月
角川文庫

(514円+税)

 
2003/04/13

横浜を舞台とした、“浅見光彦旅情ミステリ”
平凡なサラリーマンの自殺?、そして浅見が取材に出かけたローカルTV局の横浜テレビの女性レポーターが殺害されるという事件が発生。
事件の鍵となるのは、かつては外国との窓口だった横浜らしく、「赤い靴はいていた女の子」と「青い目をしたお人形」の歌が事件の重要なキーワードとなっていきます。
今回目をひく女性の登場人物は、横浜テレビのプロデューサーである藤本紅子。浅見と同年齢の女性という設定がシリーズとしては珍しいですけれど、積極的に事件捜査に関わるものではありません。むしろ、もう一人、自殺と看做された父親を他殺を信じて疑わない娘・浜路智子の方がむしろ積極的ですが、浅見の助手役というにはかなり役不足。
事件自体それ程のものではなかったし、結末の歯切れも悪い。そして横浜という土地では旅情は薄いと、今ひとつ物足りなさが残った作品。

プロローグ/赤い靴の少女/本町望郷亭/仕組まれた錯覚/不吉なインタビュー/外人墓地の謎/弁護士対名探偵/「紳士」の正体/エピローグ

   

27

●「日蓮伝説殺人事件(上下)」● ★☆

  

  
1992
年11月
実日ジョイノベルス

1995年04月
角川文庫
上下

(各480円+税)

 

2003/06/07

“浅見光彦・伝説ミステリ”
日蓮上人の記事を書くため山梨県の身延山へ取材にでかけた浅見は、偶然殺人事件に出会います。地元甲府の宝飾品メーカー・ユーキの専属美人デザイナーが殺害されるという事件。
その殺人事件に巻き込まれると共に、一方で恋人の失踪に悩む本書ヒロインは、ユーキに勤める宝石鑑定士の伊藤木綿子
本作品は、ヒロインである伊藤木綿子が事件の重要な鍵を握っているところが、スリリング。それだけに、浅見シリーズの中でも読み応えがあります。
また、その木綿子と浅見光彦の出会い、当初の2人のやりとり、次第に木綿子が浅見に惹かれていく展開が楽しい。浅見の第一印象は極めて悪く、木綿子からみるとかなり変な青年。警戒する木綿子に対し、彼女の心の中を見通すかのように浅見が次々と事実を言い当てていく辺りは、まさに浅見名探偵の本領発揮という見せ所。次第に木綿子が浅見に心を開いていくという展開は、読むだに楽しい。そうした恋愛要素を色濃く持ち込んでいるのも、本作品の特徴のひとつでしょう。
真相を解く鍵は「日蓮の生まれ給いしこの御堂」という失踪した恋人が残したらしいメッセージ。ストーリィと日蓮の関わりは、かなりこじつけがましいし、最後の結末のつけ方も物足りず。しかし、途中過程が十分楽しめる作品です。

プロローグ/宝飾の時代/デザイナーの死/下部温泉/謎の落書き/身延山久遠寺/影の追跡/三つの寺/鎌倉迷い道/誤認逮捕/見えてきた連環/予期せぬ惨劇/伊豆伊東の仏現寺/渦中の人びと/結城家の人びと/裏切り者は死ぬ/日蓮聖人生誕の謎/エピローグ

 

28.

●「透明な遺書」● 

 

  
1992年11月 読売新聞社

1996年03月
講談社文庫

(699円+税)

 

2003/06/29

“浅見光彦・社会派ミステリ”。
本作品は、「週刊読売」誌上に連載されたものだそうです。
そのためか政財界汚職という社会的問題に真っ向から挑んだ作品ではありますけれど、その一方で前半はかなり冗長気味。連載作品であった故の結果でしょうか。

福島県喜多方で起きた、排ガスによる自殺と断定された事件。死亡したのは、雑誌「旅と歴史」の藤田編集長の親友だった。父の死を他殺と信じる娘・清野翠の依頼により、藤田が浅見光彦をひっぱりだします。
翠の美しさに惹かれて気軽に調査を引き受けた浅見でしたが、事件は政治家、上場企業という政財界の中枢におよぶ大掛かりな汚職事件に発展していきます。
そうなると登場せざるを得ないのは、浅見の実兄である浅見陽一郎・刑事局長。
浅見光彦、陽一郎の兄弟が、お互いに手の内を相手に知らせず、それでいて必要な情報交換は行い、極限のところで協力し合うというやりとりは、スリリング。
ヒロインは、殺された清野の娘である清野翠ですが、浅見との関係に気を持たせならがも、清野の無念を晴らそうとするチームのマスコット的存在に留まったと言えるでしょうか。
意欲作ではありますが、ミステリの満足度としてはイマイチ。

プロローグ/美しい依頼人/時雨れて喜多方/浅見刑事局長の憂鬱/迷走の軌跡/黒い還流/内なる鬼/失踪/とめどなく崩壊/阿修羅の選択/地の罠、天の網/エピローグ

      

29.

●「坊っちゃん殺人事件」● 

  

   
1992
年11月
中央公論社刊

1997年06月
中公文庫刊
(495円+税)

  
2003/03/26

漱石「坊ちゃん」を題材にした、浅見光彦ものミステリ。
他の浅見光彦もの作品に比べて、コミカルな趣きのあるところが印象的。それは、本書中のあちらこちらで漱石「坊ちゃん」を意識あるいは対比して書かれている部分が多いことから、当然のことでしょう。
まず場所は、当然にして松山が舞台。
そのうえ、「坊ちゃん」に登場する赤シャツ、のだいこ、うらなり、山嵐、そしてマドンナという渾名にふさわしい登場人物が、警察あるいは事件関係者として次々に登場し、あたかも現代ミステリ風「坊ちゃん」の再現、という様子です。

ミステリ自体はそれなりとして、浅見光彦をして坊ちゃん風に語らせ、また登場人物たちのキャラクターを面白く語るという、遊び心ある作品。
軽い観光地めぐり気分があり、事件は陰惨な印象薄く、浅見光彦という主人公探偵の気取りない性格が親しみ易い。それ故、気分が軽くなってそこそこ楽しめるという点が、浅見光彦ものの魅力でしょう。

ロローグ/松山文学散歩/悲劇のマドンナ/山嵐対赤シャツ/バッタと撫子/怪しい句会/狸の追跡/エピローグ

   

30.

●「金沢殺人事件」● 

  

   
1993
年03月
祥伝社刊

1998年12月
光文社文庫
(514円+税)

 

2003/05/27

“浅見光彦・旅情ミステリ”
(浅見ものとしては第30作目とのことです)
発端となる殺人事件が起きたのは、浅見の自宅近くにある毎度お馴染みの平塚神社内。
その事件に遭遇した女子大生・北原千賀がてっきり本作品のヒロインと楽しみにしていたら、なんと第2の殺人事件の被害者となり、呆気なく死んでしまいます。その後、能登で花火会社を経営する春山瑞枝・順子の母娘が、浅見に好意的な人物として登場するものの、ヒロインという位置づけには程遠い。美人のヒロイン登場が定番の浅見シリーズとしては、結果的に珍しい作品になっています。
最初の事件で警視庁から捜査本部に加わったのは、浅見をよく知る宮本警部。周囲が煙たがるにも拘わらず、この宮本警部は浅見名探偵の力を借りることに積極的。宮本の誘いにうまうまと引っ掛かり、浅見が事件に首をつっこんでいくところ、それを宮本がしめしめという表情を見せるところが、なかなかユーモラス。
そのうえ、実兄の浅見刑事局長が母親の意を組んで捜査本部のある滝野川警察署を訪れ、弟に情報を漏らさない様にと頼み込むというのですから、いつもとは違った趣向が、読み手の興味をそそります。
事件を追って浅見は金沢へ、そしてさらに能登まで足を伸ばすのですから、旅情ミステリとしては楽しめる作品です。
その反面、事件の真相および犯人は思いもよらないものであり、前半のユニークさに比べてもの足りず。むしろ、ミステリ以外の部分の方が楽しめるといった、一味違った作品になっています。

ロローグ/消えた女/「美術の小径」の惨劇/つむぎの山里/能登の女花火師/朱鷺のいた国/巫女の証言/幻の女/エピローグ

        

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