鶴川健吉
作品のページ


1981年東京都生。都立高校中退後、相撲部屋に行司として入門。2007年大阪芸術大学芸術計画学科卒業後、コマーシャル制作会社、映画制作現場、温泉旅館等で働く。10年「乾燥腕」にて 第110回文学界新人賞を受賞。

  


     

「すなまわり ★★


すなまわり画像

2013年08月
文芸春秋刊

(1250円+税)

   

2013/09/15

  

amazon.co.jp

表題作「すなまわり」は、大相撲の行司となった青年の今を描いた一種の青春小説。第149回芥川賞の候補作だったそうです。

主人公は子供の頃からの相撲好きだったものの体格的に相撲取りは無理、ということで行司の道を選び、中学卒業後から大相撲の世界に飛び込んだ青年。
しかし、大相撲の裏方の世界は、表世界から見るのとは違って予想以上に厳しい。例えば、デパートやスーパーの店舗は清潔で華やかですが、裏側に入ってみるとごみごみしていたり、まるで倉庫といった感じで雲泥の差。主人公が毎日を送る裏方の世界はまさにそんな様子です。
短い言葉、事実を端的に叩き続け、それがジグゾーパズルのように貼り合わさってストーリィが形作られていくという風。ハードボイルドとはまた違うのですが、独特の響きをもったその文章スタイルが印象に残ります。
遊ぶ時間も描かれてはいますが、結局は毎日彼が向かい合っているのは相撲という狭い世界。なにしろスポーツ新聞ではなく一般新聞を見ているだけで異端視されるというのですから。
一般に青春小説というとそこから先に広い未来が連想されるものですが、本書に描かれるのは特異なほど凝縮された未来。
忘れ難い味わいのある、硬質な青春小説です。

「乾燥腕」は、就職して会社員となったばかりの若い男の話。
会社では何の仕事も与えられず、自分の部屋でも外でも目に付くのはグロテスクなもの、不快な匂いばかり。
まるでそんなものばかりを好んで求め歩いているかのようです。
カフカ「変身」の主人公は自分の身体が大きな虫に変わってしまったが、この後宮は目に見えるものが全て自分が不快に感じるものばかりに変わってしまったようだ。「変身」と同じような感想を述べるならば、グロテスクな可笑しさと言うべきでしょうか。

すなまわり/乾燥腕

 


  

to Top Page     to 国内作家 Index