津村記久子作品のページ No.2



11.やりたいことは二度寝だけ

12.ウエストウイング

13.ダメをみがく(文庫改題:ダメをみがく"女子"の呪いを解く方法)

14.これからお祈りにいきます

15.ポースケ

16.エヴリシング・フロウズ

17.二度寝とは、遠くにありて想うもの

18.この世にたやすい仕事はない

19.くよくよマネジメント

20.浮遊霊ブラジル

【作家歴】、君は永遠にそいつらより若い、カソウスキの行方、ミュージック・ブレス・ユー!!、婚礼祭礼その他、アレグリアとは仕事はできない、ポトスライムの舟、八番筋カウンシル、ワーカーズ・ダイジェスト、まともな家の子供はいない、とにかくうちに帰ります

 → 津村記久子作品のページ No.1


まぬけなこよみ、ディス・イズ・ザ・デイ、サキの忘れ物、つまらない住宅地のすべての家、現代生活独習ノート

 → 津村記久子作品のページ No.3

 


   

11.
●「やりたいことは二度寝だけ」● ★☆


やりたいことは二度寝だけ画像

2012年06月
講談社刊
(1500円+税)

2017年07月
講談社文庫化


2012/07/07


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これ程地味ぃ〜なエッセイ集はない!というくらいの一冊。
昼は会社員、夜は小説家という二重生活をずっと続けている、いかにも津村さんらしいエッセイ集とは言えるのですけど。

ご本人自身、「何もない生活を送っている」と冒頭で言っている通り、(失礼ながら)本当に格別なことは何も書かれていないエッセイ本なのです。
日経新聞夕刊でのエッセイ連載の仕事を持ち込まれた時、さすがに書くネタがないと考えたあげく、毎週自分でネット検索したことについての報告を書くことにしたとか。
「今週の検索」は、日経新聞夕刊に連載。
「まぬけな日々」は、朝日新聞夕刊(大阪版)に連載+α。
「まぬけな日々だが潤う」「作家で会社員」は、諸々雑誌等へ掲載したエッセイ。なお、後者には芥川賞受賞前後の事々も少し。

それでもそれはそれ、津村作品のイメージそのままのエッセイ集であり、津村さんと身近に触れ合えたという気分を味わえますから、ファンとしては十分嬉しい一冊です。

※「二度寝」のエッセイ、余りに悲願という感じで自分でひいてしまい、ボツにしたそうです。
 

今週の検索/まぬけな日々/まぬけな日々だが潤う/作家で会社員

         

12.
●「ウエストウイング」● ★★


ウエストウイング画像

2012年11月
朝日新聞出版
(1800円+税)

2017年08月
朝日文庫化



2012/12/01



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今までの津村作品からすると、ちょっと変わったのかな、と思える作品。
まず、頁数が多い。従来は単行本 200頁余ぐらいが殆どだったのですが、本書は堂々の 400頁。そのうえ主人公は事務職OL、若手サラリーマン、小学5年生と異なるキャラクターのトリプル設定。元々OLを主人公にした作品が多かったのですからOLは不思議ありませんが、小学生というのは珍しい。

古くて取り壊しの噂が絶えない
椿ビルディング。そのため家賃が安いため事務所、店舗と様々な店子が入居している雑居ビル。
主人公3人の顔ぶれは、設計会社支所勤めの31歳独身OL=
ネグロ、建設関連調査会社勤務の28歳独身サラリーマン=フカボリ、進学塾に通う小学5年生=ヒロシ。各々事務所、塾がこのビルに入居しているという処が共通点。
ビルはコの字型の作りで東棟は既に入居者が立ち退いて空っぽ。ネグロたちが入居しているのが西棟、つまりウエストウイングという次第。
さらにこの3人に共通点が生まれます。入居者が立ち退いて空きフロアーとなった廊下の隅に物置場ができていることに3人は各々気付き、つかの間の息抜きをするためにそこに通い始めます。ただし、3人が一堂に会すということはなく、いつしかメモで物の貸し借りだけが生まれた関係。

3人が抱える悩みごと、そしてこのビル付近で起きた様々なトラブルが次々と3人を襲う、というストーリィ展開。
各々ハプニング事件としては面白いのですが、これまでの作品で描かれた事柄もあり、集約的という印象も受けます。
全てが終わってみれば、3人3様、それなりにちょっと成長したかなと思えるストーリィ。
但し、ちょっとした前進は、本人にとってみれば更なる前進に繋がる第一歩なのかもしれません。それもこの古いビルがあったからこそと思えば、主人公たちと同様、このビルのことがちと愛おしく感じられます。
 
※そうそう、古いビルを舞台にしたコメディ的な作品に、
三羽省吾「路地裏ビルヂングがありましたっけ。 

             

13.

「ダメをみがく−"女子"の呪いを解く方法−(深澤真紀・共著) ★★
 (文庫改題:ダメをみがく"女子"の呪いを解く方法)


ダメをみがく画像

2013年04月
紀伊國屋書店
(1500円+税)

2017年01月
集英社文庫化



2013/05/10



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お互いに“ダメな女”を自認する津村さん、深澤さんのお2人による、“耐える日々”を語った対談本。
一般的に自分はこんなだと内心は自慢するような対談本が多い中で、こんな風に自虐まくりの対談本は珍しいのではないでしょうか。
読者としては、お2人共にそんな“ダメな女”だとはとても思えませんが、ダメ、ダメと連発されるとかえって愉快、気が楽になってくるのを感じます。
自分は何故ちゃんとできないのかと悩んでいる方々、本書は読んで効果のある“薬”の如き一冊かもしれません。

対談は
「仕事編」「生活編」に分けての2本立てですが、前者では深澤さんがご自身の会社員挫折ぶりをしゃべり倒すような勢いでまくし立て、津村さんが応じるように時折合いの手を入れている、という風。
「生活編」の冒頭、津村さんが実母とのズレを愚痴るところ辺りは津村さん主導ですが、それが過ぎるとまたもや深澤さんが斬りまくり、津村さんがついていくという「仕事編」と同じパターンに落ち着きます。

芥川賞作家=津村記久子さんの裏事情を聞けるところもあり、ファンにとっては楽しめる一冊です。

 
仕事編/生活編


深澤真紀:コラムニスト・編集者。1967年東京都生、早稲田大学第二文学部社会専修卒。複数の会社で編集者を務めた後、98年企画会社タクト・プランニングを設立、代表取締役社長。フジテレビ系TV「とくダネ」にコメンテーターとしてレギュラー出演。2009年「草食男子」の命名により新語・流行語大賞トップテンを受賞。

           

14.
「これからお祈りにいきます」 ★★


これからお祈りにいきます画像

2013年06月
角川書店刊
(1400円+税)

2017年01月
角川文庫化



2013/07/19



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津村作品には珍しく、主人公は男子高校生、そして男子大学生。珍しいと言うより、久しぶりと言うべきかもしれません。
     
収録された2篇の題名からは、一体どんなストーリィなのか皆目見当つかず。それは読み始めてからも同様で戸惑ってしまうのですが、読み終えてみればそれはそれで味わいがあり、ちょっと気持ちの良い作品。
        
「サイガサマ」とは何ぞや?と思えば、主人公が住む町に言い伝えられている神様のことだと直に判ります。その神様、力が十分ではないらしく、祈りを叶えてくれるもののその代わりに身体の一部を差し出さなければならない。いくら何でも本当に身体の一部を取られてはかなわんと、身体の一部に似せた“申告物”を作り、冬至祭の時にサイガサマに捧げるというのが、この町の習わしとのこと。 
一方
「バイアブランカ」とは、アルゼンチンブエノスアイレス州にある都市の名前で、主人公がたまたまネットでメール交換することになった女子学生の住む町。
              
前者の主人公は、人と向き合うのが苦手で掃除のバイトばかりしている高校生=
シゲル。そして後者の主人公は極度の心配性で、女の子にふられてばかりいる大学生=作朗
2人とも頼りないことしきりで、ちゃんと生きていけるのかと心配したくなるばかりの男子像なのですが、自身のことをさておき、まず他人の幸せを祈る処が、いいな、と感じます。
           
ひ弱な草食系男子も捨てたものではない、と少々楽しい気分になります。(笑)
       
 
サイガサマのウィッカーマン/バイアブランカの地層と少女

      

15.
「ポースケ」 ★★☆


ポースケ画像

2013年12月
中央公論新社
(1500円+税)

2018年01月
中公文庫化



2014/01/06



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芥川賞を受賞したポトスライムの舟の続編とのこと。
同作品で主人公だった
ナガセの友人であるヨシカが、本作品での中心人物。
一応幾人かの女性たちの群像劇という内容なので、各章毎に主人公は異なるのですが、いずれもヨシカが営むカフェのパート、カフェのお客さんという女性たちという設定なので、何のかんのといってもヨシカのカフェが皆の共通項になっています。
各章の主人公は、OL、小学生、パートの中年女性、ピアノ講師等々と年代も境遇も様々。したがって特にドラマチックな展開がある訳ではなく、むしろ極めて身近な日常ドラマと言って良いでしょう。

そんなごく普通の暮らしでも各人、それ相応の悩みや問題事を抱えています。職場での同僚問題だったり、パワハラ、ストーカー、娘の就職難に息子のヒキコモリ等々と、どれも身近な問題。
それでも何とか生きている、暮しているという本書主人公たちの姿を前向きにとらえたい。

生き甲斐、やり甲斐といった言葉は昔からよく聞きますが、本書に登場する女性たちを見ていると、それ以前に居場所を持ち得ているか、という切実な問題を感じます。
それは何も女性だけに限った問題ではなく男性にも共通する問題だと思いますが、著者が女性であり、より身近な問題として書ける故に女性群像劇、ということではなかったかと思います。
各章主人公たちへの親近感たっぷりのうえに、各章ドラマの一つ一つが思いがけなくも読み応え十分。お薦めです。


ポースケ?/ハンガリーの女王/苺の逃避行/歩いて二分/コップと意思力/亜矢子を助けたい/我が家の危機管理/ヨシカ/ポースケ

      

16.
「エヴリシング・フロウズ」 ★★☆


エヴリシング・フロウズ画像

2014年08月
文芸春秋刊
(1600円+税)

2017年05月
文春文庫化



2014/09/26



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高校受験を控えた中学3年という微妙な時期。平凡な生徒と思われるヒロシを主人公にして、その同級生たち等々、中学3年生たちの一年間を素朴に描いた青春群像劇。

ひとつひとつの出来事を注視して取り上げればそれなりに重たい問題もあるのですが、どこかぽぉーっとした感じでヒロシが受け流しているところがリアル、それがかえって本ストーリィの良さ、魅力になっています。
大人のような感覚、損得勘定がまだ十分に育っていない故に、どう受け留めてよいかヒロシが戸惑っている内に事態が進んでしまうということもあります。
その一方、同じ中学生の間では感度が働き、また気になる同級生や女子に対しては観察力が働く、というのもまた中学生らしいところ。そうした細やかなリアルさが、良いんだなぁ。

それまで互いの様子を見合っていたような関係が、後半に至ると、同じ中学生同士、協力し合って困った事態に立ち向かっていこうとする仲間意識が見えてきます。そんなところも実に良い。

中学生には中学生なりの付き合い、感度があり、それは大人の感度とは全く別のものである、ということを改めて感じます。
そうした関係を津村さんは細やかに描き出していて、噛めば噛む程にじみ出てくる清新な味わいが本ストーリィにはあります。

無口で長身、いつも超然としている風の
矢澤、抜群に絵が上手な地味女子=増田、女子ソフトボール部の野末大土居という同級生たちといつのまにかヒロシは親しくなっていきますが、場面場面でヒロシと彼らの関係が微妙に変化していく辺りも見所。

是非お薦めしたい、中学生群像ストーリィ。

  

17.
「二度寝とは、遠くにありて想うもの」 ★☆


二度寝とは、遠くにありて想うもの

2015年04月
講談社刊
(1500円+税)

2019年03月
講談社文庫化


2015/05/02


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やりたいことは二度寝だけに続く、日常エッセイ集第2弾。

津村さんの本エッセイは、普段着で脱力系、自分と同じ目線で物事を見ていることがはっきりしていますから、寛いで読むことができます。そこが楽しいところ。
また、津村さんの絵、どことなくぽわ〜んとしていて、見ているだけで親しみが込み上げてきます。

「となりの乗客の生活」は、朝日新聞等に2012年12から14年06月まで掲載。
「現代のことばについて考える」は、京都新聞に2011年07月から13年05月まで掲載。
「溺れる乗客は藁をもつかむ」は、日経ビジネスオンラインに2010年04月〜11年03月から掲載。

さて津村さん、2012年06月で会社を退職、文筆業専業になったそうです。それでも会社員時代と同様、平日、休日というパターンで仕事をしているとか。
会社を辞めたといっても生活の為仕事をしている以上、なかなか二度寝とはいかないそうです。
「二度寝とは遠くにありて想うもの」という題名は、そんな思いからのもの、とのこと。

となりの乗客の生活/現代のことばについて考える/溺れる乗客は藁をもつかむ/素人展覧会(第一期)/ソチとブラジル、その鑑賞と苦悩

          

18.

「この世にたやすい仕事はない ★★   芸術選奨文部科学大臣新人賞


この仕事にたやすい仕事はない

2015年10月
日本経済新聞社刊

(1600円+税)

2018年12月
新潮文庫化



2015/11/08



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津村さんといえばお仕事小説の多い作家ですが、その中にあっても特別に不思議な感覚を覚える仕事を巡る連作ストーリィ。

主人公は36歳の女性、独身。訳あってそれまでしていた仕事を辞め、短期のバイトのような仕事を渡り歩きます。
その仕事が何とも珍しいもの。
密かに部屋へ監視カメラを備え付けた相手の様子を見続けるという仕事、バス会社で停留所ごとのアナウンスを作成する仕事、おせんべいの袋に書く文言を考える仕事、住居を訪ね歩いてポスターを貼らせてもらう仕事、大きな森林公園内にある小屋でたった一人番をする仕事。
う〜ん、いずれも長く続く仕事ではないよなぁという印象を肯定するように、主人公は契約更新をせず、相談員の正門さんから提示される新しい仕事をその都度選び取ります。

淡々とすればいい仕事なのに主人公、何故かのめり込んでしまうことが多々あり、
「路地を訪ねるしごと」ではまるで探偵のような行動まで。
一生懸命になり過ぎるところに面白さが生まれますが、その一方で、なのに報われないという寂しさも漂います。
ですからビジネス小説とも言えず、ユーモア小説とも言えない、不思議な小説群と感じる次第です。

最後の
「大きな森の小屋での簡単な仕事」では、何故主人公が短期仕事を渡り歩くことになった理由が示されますが、それによって別の景色が見えてきます。
仕事とは何なのか、現代人に共通する普遍的な課題・疑問を本作品は内含しているように思います。
主人公、そして同じような経験をした方たちが、再び本来の仕事に戻れることを祈りたい気持ちになります。


1.みはりのしごと/2.バスのアナウンスのしごと/3.おかきの袋のしごと/4.路地を訪ねるしごと/5.大きな森の小屋での簡単なしごと

         

19.
「くよくよマネジメント 


くよくよマネジメント

2016年05月
清流出版刊

(1300円+税)

2016/06/19

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月刊「清流」に2010.05〜2013.07にわたって連載したエッセイに加筆修正しての単行本化。

題名にあるとおり、津村さん「くよくよ」してしまう性格なのだとか。
「くよくよ」と反対は「さばさば」。でも「さばさば」できる性格だからといって困難事や悩み事が解決できる訳ではないと悟った津村さんが、「くよくよ」したっていいじゃないかと開き直ったうえでのエッセイ集。

自分を変えよう、悩みを解決しようと思うから苦しくなる。それでもいいんだと気持ちを切り替えることによって、結構楽になることができるという意見には私も同感です。

OL生活の長かった津村さんが自分の経験を振り返って、ひとつひとつ、これでいいんだ、こうすれば楽になれるという心持ちを案内してくれます。・・・という意味で「マネジメント」なのでしょう。

            

20.

「浮遊霊ブラジル ★★☆        紫式部文学賞


浮遊霊ブラジル

2016年10月
文芸春秋刊

(1300円+税)

2020年01月
文春文庫



2016/11/13



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川端康成文学賞受賞の「給水塔と亀」を含む短編集7篇。

津村さんというと仕事絡みの小説が多いという印象ですが、本書収録の7篇はそれらと全く異なり、細やかでつつましい日常生活のヒトコマだったり、次々と主人公が入れ替わったり、仮想世界や不思議なコミカルさを持った篇だったりする作品。
意外や意外といった味わいと、ストーリィの上手さ、趣向の多彩さをたっぷり堪能できた、見事な一冊。

「給水塔と亀」:独り身のまま中年となり、故郷に戻ってきた男を描く篇。悔いもあり寂しさもあり、それでも今を楽しむ心があってしみじみとした寛ぎを感じます。
「うどん矢野ジェンダー、またはコルネさん」:美味しいうどん屋でのちょっとした騒動のヒトコマ。コルネさんと名付けられた女性の生真面目さが愛おしい。
「アイトール・ベラスコの新しい妻」:かつての同級生3人を随時入れ替えながら一人称で綴った篇。う〜む。(笑)
「地獄」:おしゃべり好きな女友達2人が交通事故で即死し、共に地獄へ。“物語消費しすぎ地獄”“おしゃべり野郎地獄”という発想がユニーク、かつ愉快。
「運命」:外国へ行ってまで道を尋ねられる運命を背負った女性を描く一篇。それでもいつも答えられてしまうというのが悩ましいところ。
「個性」:ユニークな服装、でもかえって逆効果?
「浮遊霊ブラジル」:アイルランドへ行きたいという望みを叶えないうちに死んだ老人男性。幽霊になった今も、何とかアイルランドへ行こうとするのですが、何故かブラジルへ・・・。

短編集ですが、その篇もそれ一作で読み応えを感じられるような逸品ぞろい。是非お薦めの一冊です。


給水塔と亀/うどん屋のジェンダー、またはコルネさん/アイトール・ベラスコの新しい妻/地獄/運命/個性/浮遊霊ブラジル

   

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