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2.厭世フレーバー 3.イレギュラー 5.路地裏ビルヂング 7.ヘダップ! 8.刑事の血筋 |
●「太陽がイッパイいっぱい」● ★★ 小説新潮長篇新人賞 |
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2006年09月
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関西の三流私立大学の4回生・イズミを主人公とした青春ストーリィ。 本書ストーリィがイズミの成長かつ再出発物語になっていることは、言うまでもないこと。 |
●「厭世フレーバー」● ★★ |
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2008年08月
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題名と表紙絵を見ると手を出したくないなァと思ってしまいそうですが、そんな印象とは違って結構面白いのです。 主人公となるのは須藤家の家族5人各々。 須藤家の置かれた状況は暗く、各々の生活もドン詰まりという感じなのですが、どこか明るくユーモラスなところがあります。たとえ顔を背け合おうとしても、各人が収まるべきところに収まり顔を合わせていれば、おのずと家族らしいまとまりが生まれる、そんな痛快さが本作品には感じられます。 唯川恵「恋せども、愛せども」とちょっと共通するところがありますが、大人も子供も大人になりきれないでいる稚気がある分、こちらの方が愉快。 表題に尻込みすることなく、是非手にとってみてください。そうすれば行く先に明るさが見えて楽しくなってくる筈です。 十四歳/十七歳/二十七歳/四十二歳/七十三歳 |
●「イレギュラー」● ★★☆ |
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2010年07月
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爽快きわまる高校野球ストーリィ。 片や選抜野球で甲子園を湧かせた私立圭真高校野球部、片や水害の被災で今も仮設住宅暮らしの蜷谷高校野球部。 結城と大木、K高バッテリーの狭間&矢中と蜷高バッテリーのコーキ&モウ、さらには両校マネージャーの春菜と琴子まで。 きちんと練習を積み重ねているK高野球部に触れて蜷高ナインが意識を変えること、当初の反目を経て蜷高ナインと深く交流したことによって初めて被災地住民の苦労を知ること、野球部のピンチを商店街の皆が心を合わせて救う温かさ。 小説の楽しさは、まず登場人物の魅力と次いでストーリィの面白さにあります。本書はその典型のような作品です。お薦め。 |
●「公園で逢いましょう。」● ★★ |
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2011年09月
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“ひょうたん公園”と呼ばれる公園に、赤ん坊や幼い子供たちを連れた母親たちは日課のように集う。どこでも見かけるような、母親と子供たちの姿です。 公園に集う母親仲間たちと一口に言っても、そこはそれぞれに個性もあり、お互い同士観察眼を駆使しています。 その象徴ともいえるのが、2人の幼児をほったらかしにしていつも携帯ばかりいじくっている羅々ママ。 春の雨/アカベー/バイ・バイ・ブラックバード/アミカス・キュリエ/魔法使い |
●「路地裏ビルヂング」● ★☆ |
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2013年01月
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大通りから数ブロック入った路地裏、築後半世紀は経っていそうな古い雑居ビル、“辻堂ビルヂング”。 そんな辻堂ビルヂングを舞台に、そこに入居している会社等で働く人々を描いた連作短篇集。 怪しげな通販会社に入社した社員たちの様子を描く第1章を読む限りでは、とんだビル!?という感じなのですが、それでも読み続けていると、そこで働く人々皆、それなりの事情を抱えていると判ってきます。 道祖神/紙飛行機/サナギマン/空回り/風穴/居残りコースケ |
6. | |
●「Junk【ジャンク】−毒にもなれない裏通りの小悪党−」● ★☆ |
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2014年09月
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「ひょんなことから刑務所前の飯屋を切り盛りすることになる俺。味が評判を呼び人気店になる。だが、・・・」という紹介文に興味をそそられて読んだ一冊です。 いかにも連作小説風ネタではありませんか。重松清「峠うどん物語」とは舞台設定が違うとはいえ似たような・・・。 しかし本書、連作短篇小説ではなくして、中篇小説。それもちょっと問題ある主人公が、小悪党たちと関わるという趣向のストーリィ2篇。 「指」は、掏摸という悪癖をもった妻子あるサラリーマンが主人公。その腕をヘンに見込まれて掏摸グループの一員に引き込まれたばかりか、凶悪な置き引き集団と対決する羽目に。 プロとアマの違いを身をもって知ることになるのですが、主人公における、掏摸の才能とサラリーマンである実像とのギャップが可笑しい。 「飯」は、債権取立屋からの斡旋で、刑務所前の飯屋でバイトという口実の元に、ある受刑者の出所を見張るという仕事を引き受けたプータローが主人公。 飯屋の店主が倒れて緊急入院したことから店のキリモリを一人ですることになる。ちょっと工夫しただけなのに、あれよあれよという間に大繁盛。それでいいのか? どうしようもない男だった筈の主人公が、思いもかけぬ場面で埋もれていた才能を発揮してしまう、でも・・・・という展開が楽しめます。これは、かなり愉快。 主人公を同居させている年上の恋人(?)、20年前に死んだ店主の妻という人物像が洒落ていて、女性のカッコ良さと男性の往生際の悪さが対照的でかなり楽しめます。 指/飯 |
7. | |
「ヘダップ! HEADSUP!」 ★★☆ |
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当初読もうかどうしようか迷い、あまり期待しないようにと思いつつ読んだ本作でしたが、これが予想に反して大正解。 面白いという以上に、内容、読み応えとも実に濃い、スポーツ小説にして青年成長ストーリィ。 桐山勇、18歳。県立高校サッカー部でFW。そのダントツな才能故にジコチュー、自分本位という批判に晒されたものの、J1の古豪チームに内定していたが、ある事情から破談。声をかけてくれた町のクラブチームである「武山FC」に単年度アマチュア契約にて加入。同時にサポーターである地元スーパー店員となり、初めて実家を離れての寮生活。 ところが武山FC、勇をFWではなくボランチとして使ってみたいと・・・。 単なる青春成長ストーリィではありません。 JFLに入って初めて知る大人のサッカー世界、そして初めて経験する仕事、職場。それらがすべて一体となって勇のサッカー選手として、人間としての成長を問うていくストーリィ。 とかくこうしたストーリィだと、得てして井の蛙だった主人公が自分の力不足を痛感して改めて切磋琢磨するという展開になりがちですが、本書主人公の勇についてそのパターンは当て嵌まりません。むしろ予想を超えた才能を発揮して見せます。 でもそれだけはサッカーの試合に勝っていくことはできない。勝つためには何が必要か。 その点が、本書の面白さであり、秀逸なところ。 結末に至ったとき、読み手はそこに勇のみならず、成長したチームの姿も見出すことでしょう。 人間として、またサッカー選手としてのハイレベルな成長ストーリィ。しかも読み応え、面白さともたっぷり。お薦めです。 |
8. | |
「刑事の血筋」 ★ |
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三羽さんの警察小説とは、意外や意外。大丈夫かなぁと思うのと同時に、どんなストーリィを紡ぎ出すのかと興味も湧きます。 警察庁でキャリア警視である兄の高岡剣が、県警本部のある疑惑を調査するため同県警に異動となり、故郷である津之神市に単身赴任で戻ってきます。 一方、3歳下の弟である高岡守は、津之神西署の強行盗犯係に所属するノンキャリの巡査部長。 折も折、地域暴力団である志道会の準構成員らしい若い男が殺害されて発見されます。すぐに県警主導で捜査本部が設置されますが、捜査は中々進まず。 剣と守の父親は叩き上げの刑事。在職中に癌で死去したが、その死去後に何故か汚職の噂が広まったという出来事あり。 兄の剣はこの異動を機会として、父親が汚名を負うことになった真相を明らかにしようとする密かな目的があった。 やがて兄弟2人の捜査は、一つの流れに収斂されていく・・・。 殺人事件の捜査、そしてその背後にある犯罪の解明という流れはまさに警察ものですが、本書はそれ以上に警察官による家族小説という印象が深い。 亡き父親への兄弟それぞれの思い、そりが合わなかった兄弟ですが捜査となれば協力もする。 その2人の行動に、元警官の女房である母親の春江も協力し、また守、剣には彼らを支えるそれぞれの家族の存在がある、といったように。 そして事件の原因も、家族を大事にしたいという思いから生じたものだった。 ストーリィのテーマは十分理解できるし、面白い着目点とも感じましたが、警察小説としては今一つ物足りず、という感想。 |
9. | |
「俺達の日常にはバッセンが足りない」 ★★☆ |
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2023年06月
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主人公のシンジ、専門学校を出て就職するものの2年でコケ、実家の犬塚土建に入社して専務、とは言いつつやっていることは何の役にも立っていない電話番のみ。 そのシンジの、中学以来のダチが兼石エージ。高校中退後はフリーターとなり、思いつくままに様々な商売に手を出してはすぐ放り出すことの繰り返し。今回は暴行傷害事件を起こして帰る場所を失い、今は犬塚土建の寮に居候中、という具合。 そのエージ、突然「俺達の日常にはバッセン(バッティングセンター)が足りない」と言い出し、シンジだけでなくかつての仲間=元ホストで今はメンキャバの雇われ店長である葛城ダイキ、信金で窓口担当の阿久津ミナらも巻き込んで、新たなバッセンを作るため動き出します。 いつもヘラヘラしてくだらないことばかり口にしているエージですから、ロクデナシでいい加減な奴、とつい思ってしまいます。 でもシンジの祖父と母親は、何故かエージを気に入っているらしい。 ストーリィが進んでいくうちに、エージはそんな簡単に見下げていい人間ではない、ということが明らかになってきます。 そこからが本作の読み処。 自分たちが中学生だった頃のような、自分の居場所作り・・・エージが考えていたのは、そんな安易なものではなく、また決して自分のことだけを考えていた訳ではない、ことが明らかになっていきます。 最後は、何やら明るく、楽しくなってくる気がします。 まずは、騙されたつもりで読んでみてください。予想外の思いがこみ上げてくる筈です。・・・お薦め。 1.気になるあいつ/2.二人だけの秘密/3.男の約束/4.消えない鈍痛/5.変わらねぇ |