富安陽子作品のページ


1959年東京都生、和光大学人文学部文学科卒。「クヌギ林のザワザワ荘」にて日本児童文学者協会新人賞・小学館文学賞、「小さな山神スズナ姫」にて新美南吉児童文学賞、「空へつづく神話」にてサンケイ児童出版文化賞、2011年「盆まねき」にて第49回野間児童文芸賞を受賞。


1.盆まねき

2.博物館の少女−怪異研究事始め− 

3.猿の手 

4.博物館の少女−騒がしい幽霊− 

 


           

1.
「盆まねき」 絵:高橋和枝  ★★☆        野間児童文芸賞


盆まねき画像

2011年07月
偕成社
(1000円+税)



2012/01/07



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毎年夏になると、なっちゃんの家には笛吹山のおじいちゃんから一通の手紙が届きます。
両親曰く、「盆まねき」の手紙。8月のお盆の三日間に親戚の人を集めてご先祖様の供養をする行事への招待状です。
なっちゃんはいつも笛吹山の祖父母の元へ行くのが楽しみ。

お盆の行事の最中、ちょっとした機会になっちゃんは、ヒデじいちゃん、ミチおばあちゃんにお話をねだります。第1章から第3章までは、そんな章。利口ななめくじ、うさぎたちのいる月の田んぼ、河童と、いずれも不思議でファンタジーな話ばかり。
ヒデじいちゃん、ミチおばちゃん2人とも、うそとホラは違うと言い、なっちゃんたちを煙に巻く風。
しかし、なっちゃん自身も本当に不思議な体験をして・・・。

親族が大勢集まっての賑やかなお盆、語られる“お話”を聞く楽しさ。そして読者によっては勿論“お話”自体の魅力。
今や失われつつあるそんな光景にノスタルジーを思わず感じてしまいますが、本書が伝えようとするのは、亡くなった人たちとの繋がりを大切に、ということにあるようです。
最初からそうした作品と思うと、重たく感じてしまいますが、楽しくファンタジーなお話を通じて徐々にそうした処へ導いていく構成になっていますから、心温まりこそすれ、重たいところは少しもありません。お薦めできる一冊です。

盆まねき/1.おじいちゃんの話8/12−ナメクジナメタロウ/2.フミおばちゃんの話8/13−月の田んぼ/3.大ばあちゃんの話8/14−かっぱのふしぎな玉/4.8/15−盆踊りの夜/もうひとつの物語

                     

2.
「博物館の少女−怪異研究事始め− A Girl at the Museum ★★


博物館の少女

2021年12月
偕成社

(1400円+税)



2022/05/19



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読み始めからワクワクする楽しさを感じた作品。
刊行時見送っていたのですが、思い直して読んで良かったァ。

明治16年、大阪の古物商<
花宝堂>の娘だった花岡イカル・13歳は、両親が相次いで死去したことから、母親の遠縁だという大澤老夫婦を頼って東京にやって来ます。
その大澤夫婦の孫だというトヨの案内で上野の博物館に出掛けたイカルは、幼い頃のイカルを知っているという
館長の田中に出会い、その目利きの力を評価され、博物館の古蔵で怪異研究を引き継いだという織田賢司(通称「トノサマ」)の助手として雇われることになります。
さっそく台帳と収蔵品を突き合わせる作業をすることになったイカルは、黒手匣という寄贈品が無いことに気づきます。
何者かによる盗難か? そしてその黒手匣、何やら曰くのある品物らしい。
何時の間にかイカル、その事件に巻き込まれ・・・。

孤児となった少女、でも目利きの力はなかなかのもの、事件解決に大きく貢献するというストーリィ、明治の世という背景もあってすこぶる魅力的。
さらに、トヨは
河鍋暁斎の娘のとよ、田中館長は博覧男爵田中芳男、そしてイカルが仕えることになる織田賢司は織田信長直系の末裔であり実在の人物であるというのですから、楽しくなってくるのも当然という処。

明治の世を切り開いていく少女の成長&冒険譚(アンパレアナを彷彿とさせる処あり)。次作以降が楽しみです。

        

3.
「猿の手 The Monkey's Paw ★★


猿の手

2023年02月
ポプラ社

(1400円+税)


2023/03/29


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名作ホラー作品を児童文学作家が新たに再話するという、ポプラ社“ホラー・クリッパー”シリーズの中の一冊。

名作短編を、こうして子どもたちが手に取りやすいシリーズ本として刊行する企画、素晴らしいと思います。本を読む楽しさを少しでも多くの子どもたちに知ってほしいですから。

「猿の手」:単純なお話ですけれど、待ち受けているもの、近づいてくるものの存在が恐ろしい。戦慄してしまいます。
 
William Wymark Jacobs  863-1943 英国

「不思議な下宿人」:ある夫婦の家に下宿した紳士、とても幸運続き。その理由は、紳士が決して触ってはいけないという鳥かごにあるらしいのですが、その中にいるのは・・・。
何とも言えない結末、是か非、どちらなのでしょうか。
 
Henry Kuttner 1915-1958 米国

「魔法の店」:父親と息子がふと入った店の店員は、二人に正真正銘のマジックを披露する。
いっとき楽しんだ父子でしたが、そのままで済むのか・・。

 
Herbert George Wells 1866-1946 英国

・「猿の手」・・・・・・ウィリアム・ワイマーク・ジェイコブズ原作
・「不思議な下宿人」・・ヘンリー・カットナー原作
・「魔法の店」・・・・・H・G・ウェルズ原作

                       

4.
「博物館の少女−騒がしい幽霊− A Girl at the Museum ★★


博物館の少女 騒がしい幽霊

2023年09月
偕成社

(1400円+税)



2023/10/11



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シリーズ第2弾。
明治の世、両親を亡くした13歳の少女=
花岡イカルが、個性的な面々に揉まれながら成長していく姿が、何と言っても本シリーズの魅力です。

本巻冒頭でイカルが新たに知り合ったのは、
山川捨松、陸軍卿である大山巌とまもなく結婚し大山捨松となった女性。
11歳で米国留学し、11年間を米国で過ごした先進的な考え方を持つ女性であり、働く女性としてイカルに好意を寄せます。

捨松が結婚したその大山家で
“ポルターガイスト”現象が起きており、怪異研究所にその解決を頼んできたのが、捨松の次兄で東大理学部の物理学教授である山川健次郎
トノサマの判断で、さっそくイカルが捨松の義理の娘=信子と芙蓉子の勉強相手として大山家に入り込むことになります。

イカルと捨松の交流、捨松が義母となった先妻の娘=
信子芙蓉子姉妹とイカルの親交、大山家で起きる怪異現象と、凶悪事件の発生と、ストーリィ要素たっぷり。
また、脇ストーリィですが、イカルと
アキラのやりとりも見逃せません。
次作も楽しみです。

        


   

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