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1.それでも、警官は微笑う−武本&潮崎シリーズNo.1− 2.鎮火報−消防シリーズNo.1− 3.そして、警官は奔る−武本&潮崎シリーズNo.2− 4.埋み火−消防シリーズNo.2− 5.ギフト 6.ロード&ゴー−消防シリーズ・外伝− 7.やがて、警官は微睡る−武本&潮崎シリーズNo.3− 8.啓火心−消防シリーズNo.3− 9.ゆえに、警官は見護める−武本&潮崎シリーズNo.4− 10.濁り水−消防シリーズNo.4− |
ヒマかっ! |
●「それでも、警官は微笑う」● ★★☆ メフィスト賞 |
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2006年07月 2011年01月
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すこぶる出来の良い警察小説。 これがデビュー作だというのですから、驚きます。ストーリィ展開の確かさ、登場人物の造形、全くお見事という他ありません。 ストーリィは、不法拳銃の出所を追跡する池袋署の刑事に、麻薬取締官の捜査が交錯するという、本格的な警察サスペンス。 この2人が登場する冒頭場面から、呆気に取られる程の、緊迫感+堪えきれない滑稽さがあって、たちまちのうちに本作品の魅力に取り込まれてしまいます。 新米ながら、後半、武本に勝るとも劣らない対照的な活躍ぶりを見せ、見事なコンビ、配役の妙と賞賛せざるを得ません。 最終、武本刑事と犯人による対決場面は、ドラマをみるような迫真性があって、お見事。また、エピローグ部分でのオチは、洒落っ気たっぷりで実に楽しい。 |
●「鎮火報 Fire's Out」● ★★☆ |
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2010年11月
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日明恩さんの2作目は、消防士を主人公とするストーリィ。 消防士というのは珍しく、ちょっと面喰った気がしますが、結果的には前作同様、すこぶる面白い作品に仕上がっており、期待を裏切りません。 消防士が題材だけに、消防署の活動にかかる基礎的な説明部分が多く、多少煩わしいところもありますが、第一人称という設定、前作に変わらないストーリィ運びのテンポの良さから、あまり気になりません。 不法外国人労働者の住む古アパートで連続して火事が発生するという事件に、入国管理官、警察、消防士が三つ巴に絡み、その中で主人公が消火、人命救助に奮闘しながら人間的にも成長もするというストーリィ。 |
●「そして、警官は奔る」● ★☆ |
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2008年08月 2011年05月
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「それでも、警官は微笑う」の続編。 無骨で生真面目なタフガイ刑事・武本正純と、茶道家元の次男坊で饒舌な潮崎哲夫という好対照な2人のコンビによる警察ストーリィです。といっても、前作の最後に警視庁を退職した潮崎は、国家公務員T種試験に合格して警察庁入庁が内定したばかりという設定。 蒲田署に異動した武本、再会した潮崎の2人が今回立ち向かうことになったのは、児童ポルノ販売事件、それに加えて東南アジアからの不法滞在外国人の子供たちの問題。 とくに後者の問題の比重が本書では高く、満足な生活が得られないどころか国籍すらもたない子供たちという、社会問題をテーマにしたような観のあるストーリィ。 ただ、上記問題に力を入れ過ぎて、ストーリィとしてのバランスを欠いた観あり。 なお、本作品は、武本・潮崎2人にとって成長途上の事件というべき色合いをもっています。そうとなれば、シリーズ第3作を待ち望まない訳にはいきません。 |
●「埋み火(うずみび) Fire's Out」● ★★ |
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2010年11月
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「鎮火報」の続篇。 日明さんのこれまでの3作、いずれも読み応えがあったため4作目となる本書はどうか?という思いがありましたが、予想と異なる内容でかつ予想以上の読み応え。 丹念に主人公のいる業界を説明すると共にたっぷりとした読み応えがあるという点で、日明さんの作品はかなりアメリカ小説的です。 本書でも前作に続き、消防士の課題や苦労といった内輪話が具体的かつ克明に描かれています。見知らぬ業界であると同時にいざとなったらお世話になる業界だけに、つい真剣になって読んでしまう。その点も読み甲斐があるところ。 主人公は前作と同様、売り文句に買い文句で消防士になった大山雄大。前作から2年経って22歳となった雄大ですけれど、消防士の仕事は「給料貰える仕事としてやっているだけ。早く事務職に回りたい」と言うのが常なのは相変わらず。 前作ではそれなりに派手な事件が主ストーリィでしたけれど、それに比べて本書ストーリィは極めて地味。しかし、本作品はそうである点が実に良いのです。 親友・裕二、失火事故を調べる過程で知り合った中学2年生・裕孝、雄大の母親・民子や赤羽台出張所の消防士仲間も良いですけれど、やたら雄大を敵視する同僚・香川、我が儘な高橋老人というマイナス側の人物像も現実感があって実に良い。 ※なお、本書ストーリィは東京都北区の赤羽〜赤羽台が舞台。実は私の生まれ育った地域で、何となく面映い気分です。 |
●「ギフト」● ★★ |
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2011年12月
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死者が見えてしまう少年=明生。おかげで死者に付きまとわれ、苦しんでいることが多い。おかげで友達もいない。 日明恩さんと言えば「それでも、警官は微笑う」や「鎮火報」シリーズの印象が強かったので、それらと異なる趣向のストーリィと聞いて手を出しあぐねていたのですが、やはり読んで正解。予想外に好い作品でした。時にこうして予想をくつがえさせられるのも嬉しいこと。 明生の身体に触ると須賀原にも死者の姿が見え、その話を見聞きできるというところがミソ。明生を仲介役あるいは助手とし、須賀原が元刑事の経歴を生かして死者の事件を解決していくというストーリィ構成は、中々に味わいがあって楽しい。 死者といっても老若男女、年齢、死んだ時期も様々。果ては動物まで。 第2話の犬にまつわる話も心温まる愛おしいストーリィなのですが、何と言っても「氷室の館」。幼くして死んだ少女の美沙が、健気にも弟の身を案じて19年もの間現世に留まっていたその愛の深さは圧巻です。 とおりゃんせ/秋の桜/氷室の館/自惚れ鏡/サッド・バケイションズ・エンド/エピローグ |
●「ロード&ゴー LOAD & GO 」● ★☆ |
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2012年09月
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警察(「それでも、警官は微笑う」)、消防隊(「鎮火報」)と来て、今回は消防署に属する救急車を題材にしたストーリィ。 渋谷消防署恵比寿出張所に所属する救急車が、出動を終えて出張所に帰還する途中、血を吐いて倒れる通行人を救助します。 本篇で主人公となるのは、「鎮火報」「埋み火」で主舞台となった赤羽台出張所で消防車の機関員(運転手)を務めていた生田温志。2ヶ月前に恵比寿へ異動となり、現在は救急車の機関員。 生田、筒井、モリエリ、さらに途中登場の、元暴走族だった生田に対し元交通課の婦人警官だったという生田自慢の愛妻=冴子、等々、各々のキャラクターも充分楽しめますが、大山雄大らに比較すると、スケールの点で見劣りするのは否めない。やはりそこは、前の作品で脇役人物だったのですから。 犯人の真の目的は? 真犯人は誰?というサスペンスの肝心どころは置いといて、とにかく危険を抱えたまま都内を驀進する救急車、その救急車内での迫真ストーリィが見所。 |
7. | |
「やがて、警官は微睡(ねむ)る」 ★★ |
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2016年02月 2022年09月
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「そして、警官は奔る」に続くシリーズ第3作目。 前作から9年経過という久々の所為か、読み始めた冒頭から楽しいことしきり。 ことに入り出しが、あの武本正純巡査部長のお見合いなのですから。そしてそのはるか階上では、信じ難い犯行計画を実行し始めた犯罪グループが登場。その一味と武本がどう遭遇するのか、胸がワクワクします。 場所は桜木町駅前に新規オープンしたばかりのホテル=ハーヴェイ・インターナショナル横浜。 周到かつ大胆な手口でホテルの20階に潜入した犯人グループ。目的を達成して意気揚々と引き上げれば済むはずでしたが、その計画を台無しにしてしまったのが武本。 警察官という仕事にこれ以上ないというくらい真摯に取組み、諦めるなどという言葉はその辞書にない武本の行動により、事件は犯人グループによる従業員ならびに客を人質をとってのホテル立て籠もり事件へと発展していきます。 ホテルに閉じ込められた中でただ一人、武本は犯人グループと対決し傷を負いながらも懸命に警察官としての責任を果たそうと孤軍奮闘し続けます。 最初から最後まで、どの頁もハラハラドキドキ、そして胸躍るアクションエンターテイメント、頁を繰る手が止まりません。 そしてついに神奈川県警の対策本部側に、武本のかつての相棒=潮崎哲也警視がのほほんと登場。場所は隔たっているといえども武本&潮崎コンビの復活です。 いやー、面白かった。できれば間を開けずにシリーズ第4弾を読みたいものです。武本のその後も気になりますし。お薦め! ※似たような話で、OLが大活躍するアクションエンターテイメント作に五十嵐貴久「TVJ」があります。ご参考まで。 |
「啓火心 (けいかしん) Fire's Out」 ★☆ | |
2018年06月
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10年ぶりの“消防”シリーズ第3弾。 主人公である大山雄大は、本篇では港区にある飯倉消防出張所勤務。首都高の高架下という劣悪な場所ですが、「高度な知識と技能を兼ね備えた隊員で編成され、最新鋭の資機材を駆使して火災に立ち向かうべく消防に特化された」特別消化中隊所属。 今もなお「一日も早く日勤の事務職に異動し、あとは定年までのんびり過ごす。地方公務員の給料と社会的な保障と福利厚生、ゆくゆきは年金までがっちり貰う」という入庁来の目標を捨てず、毎回日勤への異動希望を出しているものの、それとは逆に現実は最前線の消防士として着実にステップアップしているという主人公のキャラクターが楽しい。 冒頭、火災発生通報を受けて駆け付けると、普通の火災事故とはちょっと違う。どうも雑居ビル内で違法薬物を精製していたらしいと判明します。そしてその周囲には、燃えやすいものが大量に置かれていた。何故? あろうことか雄大は、偶然にも純度の高いメタンフェタミンを精製していた向井と、それを密売して利益を上げていた暴力団の田島・柏木に関わることとなり、消防士の立場を逸脱して猪突猛進し始めます。 自分の立場、危険度を無視して突っ走ってしまうのは、雄大をよく知る人間たちが言う“馬鹿さ加減”故ですが、それを補って雄大を助け活躍してみせるのが、雄大のダチである裕二と守。 とはいえ、本来の消防士の責任を忘れて暴力団の薬物事件に飛び込んで行ってしまう辺り、幾ら何でも“消防”シリーズを逸脱し過ぎ、と感じます。 まぁ結果オーライですが、折角の特別消化中隊所属ということもあり、本来の“消防”での活躍をもっと読みたかったのに、というのが思う処。 なお、雄大の予想しないところで仁藤が顔を出し、あれこれと雄大に口を出すのはいつものこと。でも、仁藤の雄大に対する考え方にも多少変化が生じているようです。 ※題名の「啓火心」とは、火は危険なものであると同時に大切なものであり、消防士たる者、常にきちんと火に対しての心構えをもたなければならない、という意味らしい。 |
「ゆえに、警官は見護る(みつめる)」 ★★ | |
2022年10月
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5年ぶり、“武本正純&潮崎哲也”シリーズ第4弾。 冒頭、武本は警部補に昇進しているものの、現在の配属は新宿署の留置管理課で、業務は留置者の監視およびその面倒を見るというもの。何と勿体ないとファンなら思う処ですが、そこから今回のストーリィは始まります。 その武本、酔っ払って暴力を振るったとして留置された柏木という人物にどこか引っ掛かるものを感じます。 一方、それと時期を同じくして、死体を重ねたタイヤの中に入れて燃やすという事件が連続して発生する。 新宿署に合同捜査本部が設置され、その応援メンバーとして派遣されてきたのが、武本を信頼して慕う潮崎警視。 武本と潮崎を一緒にすると何をしでかすか分からない最悪のコンビ、というのが今や警視庁の定説らしい。 それなのに武本のいる新宿署に潮崎が送り込まれたのは、目の届くところに置いた方がまだマシという上層部の判断らしい。 その潮崎の監視役として一緒に送り込まれて来たのが、やはり変人として名高い財務捜査官の宇佐美圭巡査部長と、捜査一課に配属されてまだ日の浅い女性警官の正木星里花(せりか)巡査。 ストーリィ展開、これまでと違って地味な印象。 何しろ武本の所属が留置管理課という部署なのですから。でも、その武本がきっかけとなり、行動するのはもっぱら潮崎+2人という構成にて、捜査がちっとも進捗しない捜査本部の片隅で、密かに、それでも着実に道を開いていきます。 警察の事件捜査というのはとかく地道なもの。それに対して潮崎は、突拍子もない発想により難解な事件をこじ開けていくのですから、う〜ん、やはり面白いんだよなァ。 他の警察ものにはない面白さが本シリーズにはあります。 まだまだ本シリーズ、見逃せません。次の巻では是非、宇佐美と正木の2人にも再び登場してもらって(本人たちは嫌がるでしょうけれど)活躍をして欲しいところです。 |
「濁り水 Fire's Out」 ★☆ | |
2024年02月
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「啓火心」に続く、“消防”シリーズ第4弾。 主人公の大山雄大が今回配属されているのは上平井消防出張所。 地域が葛飾区とあって、台風等の場合には冠水等の被害が生じることが多く、上平井消防出張所としてもそれらへの対応が求められることが多い出張所。 そうした悪天候の日、冠水した駐車場の車の下から引き出されたという老女の救助要請が上平井消防出張所に届きます。迅速に駆けつけたものの、間に合わず。 その結果、50才位のその娘の消防隊員たちへ批判の言葉に、全員が凍りつく、という顛末に。 しかし、以前雄大が豪雨の中で助けた老人とすれ違ったとき、老人は「何をどうしたって助けられなかったんだ」という言葉を呟く。その言葉の意味は? 一方、悪徳リフォーム業者が出現し・・・。 雄大のダチの裕二や守が登場し、それに伴い面白さも増していきますが、今回は火災現場での活動がなく、犯罪の摘発がストーリィの中心になっている処が今ひとつ、という感じ。 いや、物足りなさの原因は、雄大が苦手とする先輩消防隊員=仁藤の登場がなかった所為だったかもしれません。 |