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1.高瀬庄左衛門御留書 2.黛家の兄弟 |
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「高瀬庄左衛門御留書」 ★★ 野村胡堂文学賞・船橋聖一文学賞 |
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2年前に家付き娘だった妻が死去。そして自らと同じ郡方として出仕し始めた息子の啓一郎が郷廻り中に転落死。 啓一郎に同行した小者の余吾平までもが責任を感じて高瀬家を去り、老いを迎える身で高瀬庄左衛門は寂しい一人暮らしとなってしまいます。 その寂しさを紛らわせてくれるのは、再び忙しくなった郡方の仕事、そして庄左衛門に絵を習いたいと、戻った実家の秋本家から高瀬家に弟連れで度々足を運んで元嫁の志穂。 そうした境遇となった庄左衛門の淡々と過ごす日々が描かれていく長編時代小説。 ただ、本人は淡々と過ごすつもりでも、周辺で起きた揉め事に否応なく巻き込まれてしまい、ついには藩内を揺るがす異変の渦中にまで。 一方、そうした過程で江戸留学から戻り藩校の助教となった立花弦之助や、訳ありらしい夜鳴き蕎麦屋の半次という知己を得ることになります。その辺りは庄左衛門の裏表のない人物ぶりが慕われてこそなのでしょう。 本作、どうも藤沢周平作品と比較されるようですが、私としてはそうした印象は余り受けず。 たしかに「風の果て」や「隠し剣」等、幾つかの作品を組み合わせて繋ぎ合わせれば似たようなストーリィになるかもしれませんが、あくまで砂原浩太朗作品であり、高瀬庄左衛門の世界と思うからです。 本作における高瀬庄左衛門の姿には、人は運命にしたがって生きるしかないという諦念がそこには感じられます。それと同時に、だからといって諦めるということではなく、自分の出来ることを果たしていくという覚悟もある。 それは庄左衛門だけでなく、志穂、弦之助、半次らにも感じられることです。 本作は、庄左衛門の淡々とした歩み、語り口が魅力。 何となく、高齢者再雇用を受けた現代社会サラリーマンに通じるものを感じる次第です。 なお、ストーリィ展開に幾つか納得感を欠くものがある点が、惜しまれるところ。 【一年目】おくれ毛/刃/遠方より来たる/雪うさぎ/夏の日に/ 【二年目】嵐/遠い焔/罪と罠/花うつろい/落日 |
2. | |
「黛家の兄弟」 ★★ 山本周五郎賞 |
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読み終えて面白かった、と思うと同時に、少々物足りなかったとも感じてしまう時代小説、「高瀬庄左衛門御留書」に続く“神山藩”もの第2弾。 主人公の新三郎は、代々筆頭家老の家柄である黛家の三男。父親の清左衛門は筆頭家老を務め、長兄の栄之丞は英邁、次兄の壮十郎は剣術の腕達者という家族構成。 一方、次席家老を務める漆原内記、娘が藩主の側室となり、生まれた次男を藩主が可愛がったことから、孫を世子にし自分は筆頭家老の座を奪うという野望を抱く。 昔の時代小説であれば即<お家騒動>の定番と言うべき舞台設定ですが、争いは代々筆頭家老と家柄である黛家と、代々次席家老の家柄である漆原家との闘いという様相を呈します。 周到な内記の悪計により崖っぷちまで追い込まれた黛家、その時清左衛門が取った選択は・・・。 そして第二部は、内記が筆頭家老の座にある13年後・・・。 ストーリィは、思わぬ展開が次々とあって起伏も大きく驚かされること度々なのですが、それに対して主人公である新三郎の積極的な行動が余り感じられない、という印象。 いや、そうではなく、淡々と描くところが砂原さんの味わいなのかもしれませんが。 内心では色々に思いを巡らせながら表面上はそれを隠し、いずれ訪れるであろう時節の到来を待っている、ということかもしれませんが、新三郎、並びにその周辺人物との関係等々が今ひとつ物足りず。 最初こそ、藤沢周平さん的な手触りを感じたのですが、ある出来事を切っ掛けに山本周五郎「ながい坂」を思い出し、新三郎と阿部小三郎=三浦主水正をつい比べてしまうようになりました。新三郎に対する物足りなさは、その所為かもしれません。 ストーリィとしては面白く読めましたが、人間ドラマとしては書かれるべきことが書かれないままに終わってしまったという印象で、不足感もまた残りました。 第一部 少年 花の堤/闇の奥/宴のあと/暗闘/逆転/夏の雨/虫 第二部 十三年後 異変/襲撃/秋の堤/闇と風/冬のゆくえ/春の嵐/熱い星 |