白石一文作品のページ


1958年福岡県生、早稲田大学政治経済学部卒。父は時代作家の白石一郎、双生児の弟はやはり小説家の白石文郎。文芸春秋での週刊誌記者を経て、2000年「一瞬の光」にて作家デビュー。2009年「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」にて第22回山本周五郎賞、10年「ほかならぬ人へ」にて 第142回直木賞を受賞(実父・白石一郎氏と初の親子受賞)。


1.どれくらいの愛情

2.光のない海

3.君がいないと小説は書けない

  


    

1.

「どれくらいの愛情」 ★★


どれくらいの愛情画像

2006年11月
文藝春秋刊
(1714円+税)



2007/02/08



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4篇の中篇ラブ・ストーリィを収録。
どの篇も、私にとっては重たいものがあります。そのため、どんどん読み進むという訳にいかず、久々にじっくり時間をかけて読み終えました。

決して深刻で重苦しい内容、という訳ではありません。要は私の感じ方というだけのことなのですが、一篇一篇が長篇作品なみに独立した重みを備えている、と言ったら良いでしょうか。
4篇とも独立したストーリィですが、ストーリィに物語性があるというより、男女が深く結び付きあうためには何が必要か、そんなメッセージを伝えるためにストーリィがある、といった印象を受けます。

「20年後の私へ」は、結婚するためにはどんな気持ちが必要であるかを。「たとえ真実を知っても彼は」は、結婚生活を守っていくためには何が必要であるのかを。「ダーウィンの法則」は、愛を貫くことの大切さを。そして表題作であり、唯一書下ろしである「どれくらいの愛情」は、相手を信じきることの大切さを。

「20年後の私へ」は比較的私の好みに近いストーリィですが、「たとえ真実を知っても彼は」はちょっとスリリングなストーリィ。隠された事情は容易に察することができますが、裏を深読みしようと思えば、所詮夫婦だろうとどんな駆け引きがあるのか油断はできない、という代物。
「ダーウィンの法則」は、妻子ある中年男性と深い付き合いをしている独身女性のストーリィですが、正解はないんだよなぁ。

上記3作も読み応えありましたけれど、やはり表題作の「どれくらいの愛情」が圧巻です。どんな風に展開していくのか、ついつい先を飛ばすようにして読みふけりました。
主人公となる正平、晶の男女像がとても忘れ難い。
たとえ他の3篇に手が出ないとしても、「どれくらいの愛情」だけは是非お薦めしたい作品です。

20年後の私へ/たとえ真実を知っても彼は/ダーウィンの法則/どれくらいの愛情

              

2.
「光のない海 ★★☆


光のない海

2015年12月
集英社刊
(1750円+税)

2018年05月
集英社文庫化



2016/01/21



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中堅建材会社の社長である高梨修一郎が主人公。
先代社長でかつて義母でもあった
徳本美千代から社長業を引き継いで10年、10年前に離婚して以来ずっと独身のまま。
そんな修一郎は50歳という時を迎えて、これまでの自分の人生に意味があったのか、結局自分は誰も幸せにすることはできなかった、という思いを強くしています。
 
幼い時に父親が女と出奔して母子3人が取り残され、その母も早くに病死。妹と二人、先々代社長の
徳本京介と美千代夫妻の支援を受けて成長、そして修一郎は当然のように徳本産業に就職し、最後には社長職を引き受け会社の為に尽くしてきた。
感謝すると同時にずっと徳本産業に呪縛されてきた思いを禁じ得ないでいる。

これまでの半生と現在を随意に行き来しながら、高梨修一郎という人物を描くストーリィ。
事実を重ねるようにしてそれは淡々と描かれていきますが、これまでの苦労を重ねた半生はそれなりにドラマとして読み応えがありますし、また重要取引先の粉飾決算が明らかになり徳本産業も経営危機に直面するという現在ドラマも息を呑むエンターテインメント性を備えています。
また、彼の不眠症を解消してくれた陶器ボトルの販売員だった
筒美花江の人生と交錯しながらストーリィは進みます

それに加えて、50歳という人生の折り返し時点を迎えた人間のドラマ。主人公ならずとも50〜60歳という年代に至ると、自分の人生にどんな意味があったのか、歩むべき道を歩んできたのだろうか、と振り返る気持ちになります。
その意味では主人公と同じ年代の読者にとっては、共感を覚えるストーリィ。
 
修一郎の半生は肯定できるものだったのか、また今後に向けての修一郎の決断に同意できるのか。
それに対する感慨は、そのまま私たち読み手自身の半生、今後の人生を照らす光となるように思います。お薦め。

            

3.

「君がいないと小説は書けない Can't write a novel without you ★★☆


君がいないと小説は書けない

2020年01月
新潮社

(1900円+税)



2020/02/13



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時代小説家を父に持ち、文芸出版社の編集者となり、その傍ら小説を書いて作家デビュー、その後出版社を退職して作家専業となった小説家=野々村保古が主人公。
個人生活の面では、妻と息子のいる家を飛び出して上京、そのまま別居生活となったところでパニック障害を患う。その後も離婚の応諾を得られないまま新しい妻=
ことりに支えられて、これまで作家として生きてきた。

自伝的な小説とのこと。
編集者時代、作家になってからの日々が切々と語られていきますが、その中心軸になっているのは、自身の足跡ではなく、編集者〜小説家という過程で出会った様々な人々との出会いです。

主人公が編集者であった故に、語られる対象は同じ編集者たちが多い。
名編集者と言われた人も数多く登場しますが、彼らが幸せな人生を送れたかと言うと、必ずしもそうとは言えません。
また、作家の側に立っても、出版されるかどうかは担当編集者の考え方次第、運次第というところが大きく、ままなりません。
そんな人々の姿が一人一人、緻密に語られていきます。

小説好きであれば、そんなものだろうと思うことも、そんなことがあるのかと驚くことも多々あります。そうした処も本作の読み応え。思っていたよりも深く、広いストーリィです。

その中で主人公の野々村、パニック障害という持病を抱えながらよくぞここまで辿り着いたものだと感じさせられます。
しかし、思いも寄らぬ出来事が、野々村の前に立ち塞がります。
そこでようやく野々村が気付いたことが、表題となった事実。

小説家の幸せとは何なのか。本ストーリィの主眼はそこ、野々村が辿り着いた事実にあるのかもしれません。
ただし、それもまだ途中でのこと。これからもまだまだ道は続いていくのだということを感じさせる結末は、自伝的小説に如何にも相応しく、気持ち好い。

   


  

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