白石一郎作品のページ


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931年韓国・釜山生、早稲田大学卒。87年「海狼伝」で第97回直木賞、92年「戦鬼たちの海」にて第5回柴田錬三郎賞および98年海洋文学大賞特別賞、99年「怒涛のごとく」にて第33回吉川英治文学賞を受賞。2004年09月死去。


1.海狼伝

2.海王伝

3.風雲児

4.投げ銛千吉廻船帖

5.怒涛のごとく

6.南海放浪記

7.航海者

8.横浜異人街事件帖

9.十時半睡事件帖 東海道をゆく

         


 

1.

●「海狼伝」● ★★★           直木賞



1987年02月
文芸春秋

1990年04月
文春文庫

1994/03/27

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日本の時代小説の中に、こんなにも壮大で面白い世界があったのかと、驚く思いでした。
海という果てしなく広い世界、その雄大さ。小説云々ということだけでなく、日本の歴史を見直さなくては、という思いに駆られます。

この作品のストーリィは、海賊の物語。主人公は、対馬で生まれ育った笛太郎。そして笛太郎と良いコンビになるのが、南宋出身の奴隷・雷三郎。そして、二人を仲間に加える海賊頭領の一人が小金吾

当時の海賊衆の在り方を描いているのも興味深い点ですが、何しろ海戦の描写がリアルで、興奮するような面白さがあります。
また、登場人物達それぞれの個性も豊かですが、何より青春の旅立ちという性格があるのが、何と言っても魅力です。

 

2.

●「海王伝」● ★★




1993年07月
文春文庫

1994/03/27

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海狼伝の続編。前作が日本国内でのストーリィであったのに対し、本作品における 舞台は、琉球、明国、さらにタイのバンコク・アユタヤにまで広がります。

ストーリィの主軸は、笛太郎の行方不明となった父親を訪ねる航海。
ただ内容としては「海狼伝」のエピローグのような印象は否めません。海戦の面白さは再び付け加えられていますが、笛太郎、三郎の人間としての成長を感じさせる面白さは殆どないと言えるでしょう。

振り返ってみると、「海王伝」の面白さは相次ぐ海戦の様子にあるようです。その意味で、ストーリィとしては単調だったように思います。

 

3.

●「風雲児」● ★☆

 

1994年12月
読売新聞社
上下2冊

1998年01月
文春文庫化
上下2冊

 

1995/03/08

シャムにおいて王族に次ぐ地位まで登った 山田長政を描く作品。
これまで山田長政という名前は知っていたものの、具体的なことは何も知らなかっただけに、興味を惹かれました。
仁左衛門(長政)が幼友達の長九郎と共に、長崎から台湾へ交易の為出国し、その後シャムへ至り、日本人町の頭領として活躍するあたり、海狼伝」「海王伝と同様の爽快さ、夢があります。しかし、後半、アユタヤの王位をめぐる政争に巻き込まれていく部分には、断腸の思いを感じます。
「海狼伝」がフィクションであり、自由にストーリィを展開できたのに対し、本書は史実に縛り付けられているだけ、窮屈です。
こんなにも多くの日本人が、あの江戸時代に海外に移り住んでいたのかと思うと、信じられない思いがします。また、同時に、日本人という外国人が異国の地で繁栄し続けることの難しさを知らされた思いがします。

 

4.

●「投げ銛千吉廻船帖」● ★★

 
 
1997年08月
文春文庫

1997/09/23

気楽に楽しめる連作短篇集。
とにかく、魅力なのは主人公・千吉のキャラクター。

雇われの沖乗船頭というところが異色。
船頭というだけあって、しばしば活躍の場が海の上になるのが、なんといっても魅力です。
武器は、題名どおり投げ銛。いつ、どんな風に使う場が生じるのか、読みながらも楽しみです。
性格設定は、これまたハードボイルド。初登場の折も颯爽としていて恰好良く、また最後もニヒルで、なんとも言えない味わいを感じます。

  

5.

●「怒涛のごとく」● ★★   第33回吉川英治文学賞



1998年12月
毎日新聞社
上下2冊
(各1500円+税)

2001年12月
文春文庫化
上下2冊

1999/06/08

徳川政権初期の平戸で生まれた日中の混血児・ 鄭成功を描く、スケールの大きな海洋歴史小説。

主人公が誕生した時期は、父親である明国人の鄭芝龍が新たに海上王として躍進する時期であり、日本から台湾、中国と広い舞台を背景に、胸躍るような面白さがあります。
しかし、その後は一気に鄭芝龍の明国における出世、次いで満州族・清による明の滅亡と、年月を飛んでしまうため、一番面白い部分を省かれたような興をそがれた思いがあります。
そして、再び鄭成功が物語の前面に出てくるのは、かなり後半になってからです。

本書は、明から清へと時代が移る過渡期にあって、国姓爺(こくせんや)と呼ばれた主人公が水軍力をもって清に立ち向かった史実を描く小説ですが、 落日の輝きを思わせるような物語でもあります。
残念なのは、主人公の魅力が冒頭部分にとどまったこと。そして、中国の歴史をなぞったという印象が強いこと。その一方で、知られざる東アジアの海洋史に触れたという面白さもありました。

    

6.

●「南海放浪記」●

 

1996年10月
集英社

1999年12月
集英社文庫化

 

1999/07/17

軽く読み流すのがふさわしい連作短編集。
岡野文平、23歳という青年を主人公に仕立て、鎖国直前の時期の東南アジアを転々とさせるストーリィ。
当時の東南アジア、そしてそれらの地で日本人たちがどのように生きていたか、についての見聞記と言って良いでしょう。白石さんのアジア旅行体験から生まれた作品のようです。
長崎から出帆、まずは高山国(台湾)マカオ安南(ベトナム)とめぐり、アユタヤ(タイ)では山田長政ゆかりの娘と知り合う、という展開。まさに題名そのままのストーリィ。
鄭成功山田長政の名前が出てくるのが懐かしいと言えます。

御朱印船/馬上の女/海賊船/うらぶれ切支丹/日本人町/長政の肖像/文平の恋

  

7.

●「航海者」● ★★★




1999年07月
幻冬舎刊
上下
(各1700円+税)

2001年08月
幻冬舎文庫化
上下

2005年04月
文春文庫化
上下

  
1999/07/18

大西洋、太平洋を横断する大航海を経て日本に辿り着き、家康の元で旗本に取立てられた英国人、三浦按針ことウィリアム・アダムスの物語。

最初から最後まで、惹きこまれるまま一気に読み通しました。
上巻・前半は、オランダを経て日本に辿り着くまでの苦難の航海のことが語られます。まさに、不運、悲惨としか言いようの無い航海を経て、アダムスは日本に辿り着きました。
そして、本人の望む望まないに拘らず、アダムスはその後の生涯を日本で送らざるを得なかった人物です。家康が外交に興味をもち、その寵愛を受けたことは、彼にとって幸運だったと言えるでしょう。

本書は、海洋歴史小説として、大きな魅力を持った作品です。まず、当時の大航海へ乗り出した人々の勇敢さに感嘆します。そして、アダムス自身の航海者としての強固な精神力に驚嘆します。歴史の先駆者たちの苦難を知る思いです。
さらに、アジアにおける当時の外国勢力の盛衰、日本の外国通商史、家康政権の外交政策等を知る面白さがあり、興味尽きません。
本書の何よりの魅力は、ストーリィが航海者であるウイリアム・アダムスという人物の視点から描かれていることです。したがって、ストーリィ展開に広がりが感じられます。

隆慶一郎「見知らぬ海へは、本作品でも重要な登場人物となる御船手奉行・向井兵庫を描いた作品ですが、ちょうどアダムスの漂着のところで絶筆となりました。その続きへの欲求が、本書で満たされたような思いがします。
「航海することが必要なのだ。生きることは必要ではない」 
アダムスが時に応じて口にする言葉ですが、この印象的な言葉が本作品を力強く貫いていて、忘れ難い作品です。

 

8.

●「横浜異人街事件帖」● 



 
2000年11月
文芸春秋刊
(1333円+税)

2003年09月
文春文庫化


2000/12/01

明治維新前夜の横浜が舞台。外国人が多く居住し、異国情緒が混じり込んだ土地故に起きる様々な事件を描いた短編集。
主人公は、元南町奉行所同心で剣術、柔術とも腕が立ちますが、今は沖仕の差配をしている衣笠卯之助。その卯之助に、元同僚で今は神奈川奉行所与力の塩田正五郎、横浜まで卯之助を追ってきて今は小鳥屋の女主人となった娘おゆみを加え、3人が狂言回し役となっています。
「事件帖」という題名が語るように、捕物帖というミステリ・サスペンスでなく、大きな事件が起きるというストーリィでもありません。途中生麦事件が起きますが、本作品の中ではあっさりと片付けられています。
即ち、上記3人の見聞きする範囲内で起きた事件が語られるという構成。その意味では“十時半睡事件帖”シリーズに似ていると言えるでしょう。
面白味としては、維新前夜の横浜が持つ雰囲気を味わえる点。気軽に読める短編集、という印象です。

岡っ引/ハンカラさん/わるい名前/南京さんとんでもヤンキー/阿片窟/エゲレスお丹

   

9.

●「十時半睡事件帖 東海道をゆく」● ★★




2002年02月
講談社刊
(1700円+税)

2006年02月
講談社文庫化

 
2002/04/03

TVドラマにもなった人気シリーズ“十時半睡事件帖”の第7巻目。
このシリーズの魅力は、福岡・黒田藩で総目付の役職を勤める十時半睡老の、飄々としたところにあります。「半睡」という名前自体、半分眠りながらという、気楽な雰囲気を漂わせています。
その半睡老が、江戸藩邸の風紀を正すため、江戸総目付に命じられて江戸へ単身赴任してきたのが、前巻のストーリィ。
本巻は、国許の息子が重病で命さえ危ぶまれる状態の為、半睡老は江戸を発ち、国許へ向かいます。我が子の運命を問うべく、あえて船旅を避け、東海道をゆくという趣向。
したがって、本書の面白味は、藩内で起きる事件への半睡老の裁きぶりではなく、道中の風情を半睡老と共に味わうところにあります。
旅の理由はともかくとして、旅といえばそれなりに楽しい雰囲気が膨らみます。
半睡一行の顔ぶれがなかなかお見事。江戸から一歩もでたことがないという江戸詰め藩士・二宮三大夫が、とかく読者の笑いを誘います。また、途中道連れとなる武家の寡婦・柏木のぶの存在がとかく気になります。
シリーズの中では異色の、東海道中記が味わえる、半睡ファンにとっては楽しい一冊です。

旅立ち/泉岳寺/東海道/小田原/箱根越え/薩埵峠/大井川越え

      


 

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