島本理生
(りお)作品のページ No.2



11.君が降る日

12.真綿荘の住人たち

13.あられもない祈り

14.アンダスタンド・メイビー

15.七緒のために

16.B級恋愛グルメのすすめ

17.よだかの片想い

18.週末は彼女たちのもの

19.Red

20.匿名者のためのスピカ


【作家歴】、シルエット、リトル・バイ・リトル、生まれる森、ナラタージュ、一千一秒の日々、大きな熊が来る前におやすみ、あなたの呼吸が止まるまで、クローバー、CHICAライフ、波打ち際の蛍

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夏の裁断

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11.

●「君が降る日 ★☆


君が降る日画像


2009年03月
幻冬舎刊

(1300円+税)

2012年04月
幻冬舎文庫化



2009/05/04



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表題作である中篇「君が降る日」は、恋人の死をテーマにした作品。島本さんにとってハードルが高く、これまで挑戦を避けてきたテーマだそうです。
恋愛小説の名品ナラタージュの後に来る本格的な恋愛小説、そう感じます。
ただ私は、いつまでも想いを引きずる、それも他人を巻き込んでまで、という在り方は好きではありません。

中学生時代に知り合ってずっと恋人関係にあった降一。その彼は大学で一歳年上の友人=五十嵐とドライブ中、飛び出してきた幼児を避けようとした事故で突然に死んでしまう。
その喪失感からいつまでも抜け出せない志保は、事故の責任を抱える五十嵐との関係を急速に近めていく。
しかしそれは、恋愛感情ではない、五十嵐との間に亡き恋人の姿を感じられるからこその関係だった、という切ないストーリィ。

「野ばら」は、恋人未満友人以上の関係がついに発展することのなかった、佳乃という2人の青春期ストーリィ。
男女の間に友情は成り立つのか、というのは永遠の命題ですが、男と女が揃って同じように考えているとは限らないという、更に問題を深めた観ある作品。場合によってそれはとても残酷なことにもなると主人公が理解できたのは、もう少し後になってから。

3篇中では一番軽い作品となるのでしょうけれど、私が一番好きなのはその「冬の動物園」
長く付き合っていた恋人に突然振られて悄然中のOL・美穂。その美穂に親しげに声をかけてきたのは、同じ英会話塾に通う高校生の森谷君。
振られて終わった恋を笑って吹き飛ばすような、そんな前向きな姿勢が私は好きです。

君が降る日(長き夜の章・浅き春の章)/冬の動物園/野ばら

             

12.

●「真綿荘の住人たち ★☆


真綿荘の住人たち画像


2010年02月
文芸春秋刊

(1400円+税)

2013年01月
文春文庫化



2010/03/03



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さる下宿を舞台にした、住人達の様々な“恋愛のようなもの”を描いた連作風小説。
ナラタージュを思うと、かなりさらりとした印象です。

東京の大学に入学するため北海道から上京した大和葉介が住むことになったのは、朝夕賄い付という古風な下宿、真綿荘
住人は大家の女性と大和を含めても僅か5人、その内3人が若い女性という真に居心地良さそうな下宿なのですが、3人が3人とも恋愛にトラウマを抱えているという、意外と厄介な住人たち。
女子高生との同性愛にもうひとつ踏み切れない山岡椿、いつも女性として見られることのない鯨井小春、17年前にたった一度だけ関係した男=真島晴雨を内縁の夫扱いする大家の綿貫千鶴
女性への気遣いに極めて鈍感な大和は、本作品における狂言回しといった役回りなのですが、大和もまた自分勝手な部活の先輩美女=三宅絵麻に引きずり回されるという一篇もあり。

恋愛のようなもの、という言い方をしたのは、恋愛に行きつく以前の状況に彼女たちが留まっているから。恋愛に関して未成熟、と表現するのがもっとも適切のように感じます。
そんな彼女たちのストーリィに、感情移入することは余りありませんでした。差し詰め、このアパートの前を通り過ぎる通行人のように、通り過ぎがてらに傍からちょっと覗き知った、という感じです。
でも、この連作風小説には惹かれるところがあります。それは何かといえば、こんな下宿に一度くらい住んでみたい、という邪まな関心をつい抱いてしまうからでしょうか。

青少年のための手引き/清潔な視線/シスター/海へ向かう魚たち/押し入れの傍観者/真綿荘の恋人

 

13.

●「あられもない祈り 


あられもない祈り画像


2010年05月
河出書房新社
(1300円+税)

2013年06月
河出文庫化



2010/05/27



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帯にある推奨文を読むと、絶賛という他ない評価。
ただそれは、やはり恒例の宣伝文ですから、それに縛られる必要はないのですが、自分の感想がそれらと余りに隔たると、得てして感想を書きにくくなる、というのは仕方ないこと。
私自身、元々島本さんは好きな作家であり、実力も十分評価している作家でもありますし、ましてサイン会で本にサインまで貰っているので、なおのこと描きにくいです。でも、敢えて・・・

端的に言ってしまえば、既婚男性との不倫愛。
ただし、不倫は主題ではなく、行き場所がないにもかかわらず嵌ってしまい抜け出すことのできないという、男女愛関係が主題。
島本さん自身、「社会的に肯定されないことを書くのは、やはり難しかった」と語っていますが、冒頭部分、無理に書いているような印象を受けたのは、私だけでしょうか。

小説作品としての評価は別にして、どうも私は、こうしたストーリィは生理的に受け入れられないのです。
まず、何でそうした恋愛状況にはまり込んだのか、その必然性が語られている部分がない。また、相手の男性(終始「あなた」と記される)のどこに魅力があるのか、語られている部分がない。
前提が無くいきなりトップモード。そして、女性側の抑えきれない本能的な愛を描いている。
元々そうした、まともには進まない恋愛関係に落ち込むなりの状況がヒロインにはあるのですが、だからってなぁ。恋愛ドラマも2人の人物があってこそなのですから。

最後ようやくヒロインが、自分の道を歩みだそうとする結末はホッとするのですが、結末は小説の最後の部分に過ぎませんから。

        

14.

●「アンダスタンド・メイビー ★★☆


アンダスタンド・メイビー画像

2010年12月
中央公論新社
上下
(各1500円+税)

2014年01月
中公文庫化
(上下)



2011/02/11



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隙あらば少女たちを餌食にしようとする男たち。
主人公である
藤枝黒江は、自分がそんな危うい縁にいることを少しも感じていないというか、鈍感というか、わざわざそこに足を踏み入れている、という観があります。
黒江、結果的に次々と付き合う相手を乗り換えては、ますます危うさの中に嵌まり込んでいく風。そんな展開、私は嫌でたまらないのです、思わず逃げ出したくなります。それなのに、一方では強く惹きつけられます。本書はそんな作品。
本書には、これまでの島本作品にはなかったエンターテイメント性があります。だからむさぼり読んでしまう。その点、ある意味で、桜庭一樹作品に似たところがあります。
上巻は、主人公=黒江のそんな中学〜高校時代。

下巻は、住んでいた街にいられなくなって家を飛び出したまま、カメラマンの住み込みアシスタントになった黒江の、2年半後からのストーリィ。
自立して成長したというより、黒江の心の中の歪みは小さくなるどころかますます大きくなっているという印象です。実の母親との断絶、帰れる場所を何処にも持っていない、というのがその原因でしょうか。

母親と断絶したことにより、たった一人、もがくようにして自分の居場所を見つけようとする少女の、年代記と言ってもよいストーリィ。そんな中、性に翻弄されるような部分は、いかにも島本さんらしい要素。
何もそれは、黒江だけのことではなく、本書中には他にも同様の断絶を抱えた少女たちが複数登場します。
本書は、島本さんの集大成と言って良い作品でしょう。
もしかしたら、本書を読んでもう島本作品を読むのは止めよう、と思う人がいるかもしれません。そう決めるにしても、まずは本書を読みきってから、とお勧めします。

          

15.

●「七緒のために ★★


七緒のために画像

2012年10月
講談社刊
(1300円+税)



2012/11/23



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島本さんとしては久しぶりの中篇小説2篇。

「七緒のために」は、互いに孤立を深める女子中学生2人の微妙な友人関係を描いた作品。
主人公の
只野雪子は、訳有りで神奈川の女子校から都内の共学校に転校してくる。その雪子がさっそく友人になったのは、合田七緒という煌めきをもった同級生。しかし次第に雪子は、七緒がクラスから浮き上がっているばかりか、話に嘘の多いことに気づきます。

友情、孤立、嘘、友人のために何かしたい気持ち、というストーリィ要素は、割りとよくあるものではないかと思います。
しかし、問題は七緒より、主人公自身にこそあったのではないか、という急転回に目を瞠らせられます。
風が吹いておきる湖面の波立ちのような、心のざわめき、そんな心象風景を鮮やかに描き出しているところが、流石。
中篇作品ですからさらっと読み終わってしまいますが、それに反して読後の余韻は深いものがあります。

「水の花火」は、高校生男女2人の友情以上恋愛未満の関係を描くストーリィですが、2人の前からいなくなったある同級生の存在が大きなインパクトになっています。

青春期における心の欺瞞と揺らぎを鮮やかに描き出した2篇、共に秀作です。

七緒のために/水の花火

           

16.

「B級恋愛グルメのすすめ」 ★☆

B級恋愛グルメのすすめ画像

2013年01月
角川書店刊
(1400円+税)

2016年01月
角川文庫化

2013/02/27

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CHICAライフに続く、2冊目のエッセイ集。

食べ物、酒、恋愛、男女関係等々、日常生活を自然体で語っているところは「CHICAライフ」と変わりなし。
島本さんのエッセイ集を初めて読むと、作品から抱く島本さんのイメージとの大きなギャップに皆さん驚くと思うのですが、1冊目のエッセイ集で既にその洗礼は受けていますので、本書についてはすんなりと島本さんの語りに馴染んでいました。

エッセイ各篇の楽しさ、面白さは実際に読んでもらえば良いことですが、ファンにとって見逃せないのは、元夫さんとの再婚経緯がさらりと語られているところ。

また、学生時代の後輩だという「柴君」について語ったエッセイにも注目。男女の恋愛関係には私も疎いのですが、そんな私でも呆れてしまうのがこの柴君。日本の将来が心配になるなァ。

             

17.

「よだかの片想い」 ★★☆


よだかの片想い画像

2013年04月
集英社刊
(1300円+税)

2015年09月
集英社文庫化



2013/05/15



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島本さんというと恋愛小説、というイメージが強いのですが、まず「片想い」という表題にいつもの作品とは違うのかと、読み始める前から少々困惑する思いがありました。
実際に読み始めてからも、これまでの島本作品とは異なる雰囲気が感じられました。

ひとつは、主人公である前田アイコ24歳が引っ込み思案で地味な女性であること。またこれまで特に恋愛経験もなく、極めて奥手の女性。どちらかというと強い自我を持ったこれまでの主人公像と対照的な位置にある女性です。
その理由は、生まれた時から頬にアザがあり、そのことが引け目となって広く人と接するのが苦手。今は大学院で物理を専攻中という女性。
そんなアイコがある縁で映画監督の
飛坂と知り合い、彼に恋するところから、彼女の身に変化が生じます。しかし、派手な業界に身を置く飛坂と地味なアイコとの間に恋愛は成立しうるのか。

恋愛を差し置き、恋愛を梃子にアイコが人間的に成長する姿を描いているところが実に良い。恋愛と成長、どちらが重要かといえば、恋愛が永遠のものとは限らないのに対し成長は一生のものという点で、自ずと答えは決まっているようなものです。
主人公アイコのみならず、著者の島本さんとしても、一つの山を越えた作品と言って良いと思います。お薦め!

なお、題名の「よだか」は、宮沢賢治の短篇「よだかの星」から。同作品に登場するよだかは実に醜い鳥で、誰からも目を背けられる存在という設定です。

                

18.

「週末は彼女たちのもの」 ★☆


週末は彼女たちのもの画像

2013年08月
幻冬舎文庫刊
(457円+税)


2013/11/24


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LUMINEのホームページに連載されていたショートストーリィに、3篇を追加書き下ろしてまとめた一冊。
写真に合わせてLUMINEを舞台にした物語を書く、という企画だったそうです。
何人もの男女が街中で様々に交錯するように、各篇で主人公を入れ替えながら、繋がるストーリィを交互に入れ混ぜながら、男女が新しく出会い、恋が芽生える模様がアラベスクのように語られていきます。

いかにも都会的な洒落たロマンス・ストーリィ。
洒落たショートストーリィという点で共通する片岡義男作品を連想しますが、片岡作品が洒落た雰囲気が優先している印象であるのに対し、本短篇集は女性作家らしい優しさに満ちているように感じます。

誰よりも美しい彼女/スポットライト/急降下/小さな紳士/同窓会/Your Days/Color/ショート・トリップ/甘くない男/再会 sideA/再会 sideB/タイムリミット/奇妙に美しかった夜/忘れ物/偶然の家族/一番似合う相手/変身/横顔/男同士/秘密の後で/夜を分け合う/クリスマスはあなたと/午前0時のクリスマスツリー

      

19.

「Red」 ★★         島清恋愛文学賞


Red画像

2014年09月
中央公論新社
(1700円+税)



2014/10/13



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島本理生さん初の官能小説、とのこと。
主人公は30歳過ぎの専業主婦、
村主塔子。家庭は夫の義父母と同居。姑は友達感覚でいられる相手、というのが塔子本人の位置づけ。
世間からみると申し分のない家族関係のように見えますが、塔子が密かに抱える不満は、3年間も夫とセックスレスであること。そんな塔子、友人の結婚式で偶然、10年前に塔子が愛人(不倫)関係を結んでいた相手=
鞍田秋彦と偶然に再会します。
今は離婚して独り身となっている鞍田は、塔子が人妻であることなどまるで関係ないとばかりに、すぐさまセックス関係の復活を仕掛けてきます。そんな鞍田に対し嫌だと抵抗するものの、身体が正直に反応してしまうのを塔子は抑えることができません。
そして鞍田から勧められ鞍田が役員をしている会社で契約社員として働き始めると塔子は、あぁ自分は働きたかったのだと気づきます。そして・・・・

官能小説という紹介文句、本ストーリィの滑り出しから、官能に目覚めた塔子がどう姿を変えていくのかを描いた作品とてっきり思っていました。しかし、あにはからんや。セックスは単なるきっかけ、一部のことに過ぎず、本ストーリィの根本は塔子が自分を取り戻す過程を描くものである筈。
なお、塔子の夫である真、いくら小説とはいえなんと鼻持ちならないマザコン男であることか。

本書は、自分を抑えて専業主婦に甘んじているかもしれない女性たちへ、新たな道を切り開いて見せた作品と感じます。

    

20.

「匿名者のためのスピカ 


特命者のためのスピカ

2015年07月
祥伝社刊

(1500円+税)


2015/08/12


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法科大学院へ通う主人公=笠井修吾の目の前で、付き合い始めていた同級生の館林景織子(きょうこ)が暗い目をした不審な男に拉致されてしまう。
その男は、景織子が高校生の時に彼女を監禁し逮捕歴のある
高橋稔。しかもその際、景織子の弟が高橋に金槌で頭を殴られ重体。
ストーカー事件の再発かと思われたが、何故か景織子は進んで高橋の車に乗り込んでいったように見えた。
笠井のやはり同級生である
七澤拓は、2人が波照間島へ向かったに違いないと断言し、笠井と七澤は2人の跡を追いかけ波照間島へと向かいます・・・・。

率直に言ってこうしたストーリィ、好きではないなァ。事件ものストーリィでもなく、スリリングでもなく、やりきれない思いばかりがストーリィ全体を覆っている印象を受けるので。
景織子の行動を何故七澤が推測できるのかと言えば、お互いに親子関係が破綻しているという共通点があるためか。

本作品の狙いがどこにあるのか。親子関係が健全ではないとこういう結果が起こりかねない、ということへの警鐘でしょうか。
登場人物も少なく、ストーリィも中途半端に終わってしまった観が否めず、残念。

  

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