笹生陽子
(さそうようこ)作品のページ


東京都生、慶應義塾大学文学部人間関係学科卒。1995年「ジャンボジェットの飛ぶ街で」にて講談社児童文学新人賞佳作。96年「ぼくらのサイテーの夏」にて第30回日本児童文学者協会新人賞および第26回児童文芸新人賞、2003年「楽園のつくりかた」にて第50回産経児童出版文化賞を受賞。


1.
ぼくらのサイテーの夏

2.楽園のつくりかた

3.ぼくは悪党になりたい

4.バラ色の怪物

5.サンネンイチゴ

6.世界がぼくを笑っても

7.今夜も宇宙の片隅で

8.家元探偵マスノくん

9.空色バトン

 


     

1.

●「ぼくらのサイテーの夏」● 絵:やまだないと  ★★☆
               日本児童文学者協会新人賞・児童文芸新人賞


ぼくらのサイテーの夏画像

1996年06月
講談社刊
(1262円+税)

2005年02月
講談社文庫化
青い鳥文庫化

  
2004/07/10

 
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階段落ちゲームで意地になって腕をねんざし、ギプス固定。さらに危険な遊びの罰として、夏休み4週間のプール掃除を命じられる。おかけに、プール掃除のコンビ相手が、怪我の原因となったノッポの栗田とは。
小学校6年生のぼく(桃井)の夏休みは、サイテーと言いたくなる状況で始まります。
栗田の家庭状況は、カテイホウカイ、ハハイエデ、デッカイヤシキにネズミウジャウジャ、という噂。しかし、ぼくの家も、優等生だった兄貴が引きこもりとなり、それ以来母親も年中具合が悪いし、問題ないとは言えない状況。

そんな主人公が、最初は嫌っていた栗田と夜の散歩中に偶然出会って以来親しくなり、栗田との付き合いを通じて一歩成長するストーリィ。
精神的な病気を抱える妹のぞみを面倒をみている栗田。彼ら兄妹と付き合ったことで、主人公の兄も現状から脱出する機会を得るに至います。
家族の状況に影響されることなく、また背伸びすることもなく、自分の道をしっかり歩んでいる主人公、栗田少年の姿に好感を覚えます。
そして2人が友情を築き、サイテーになる筈だった夏が、お互いの兄弟にとって貴重な夏になったことが素晴らしい。
そんな夏を手に入れることができたなんて、素敵なことではありませんか!
※大人が読んでも充分納得できる作品です。

        

2.

●「楽園のつくりかた」● ★★☆       産経児童出版文化賞


楽園のつくりかた画像

2002年07月
講談社刊
(1200円+税)

2005年06月
角川文庫化

 
2004/08/23

 
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東京から転校した先は村の分校。しかも、同級生3人はヘンな奴ばかり。そんな中学2年生、星野優の孤軍奮闘を描いたストーリィ。
東京で進学校に通う優は、両親の突然の決断により、父親の故郷へ引っ越すことになります。一人暮らしの祖父が呆けてきて放っておけないというのがその理由。有名校合格を目指す優は抵抗しますが、軽く一蹴されてしまう。商社マンである父親は外国赴任中のため、とりあえず母親と優の2人で田舎行き。
いざ転校してみると、分校の同級生は3人だけ。しかも、バカ丸出しの地元っ子と、だんまりとオカマの山村留学生2人という最悪の組み合わせ。
そんな分校生活の中、優の振舞いは都会風を吹かして鼻につくばかりですが、意に反して田舎生活に放り込まれた優の気持ちも判らないではない。半ば同情を感じます。
ところが、そんな同情が吹き飛んだのは、分校内でのふとしたいさかいから。あまりのショックに、私自身呆然としてしまいました。
その後紆余曲折がありますが、都会生活で行き場を失った3人+1人に、此処では優しさ、明るさが感じられることが嬉しい。
どんなところが楽園なのか、改めて考え直してみた方が良いのかもしれません。
本書は、大人にとっても読み甲斐のある児童向け小説です。

    

3.

●「ぼくは悪党になりたい」● ★★☆


ぼくは悪党になりたい画像

2004年06月
角川書店刊
(1300円+税)

2007年06月
角川文庫化

  
2004/07/18

 
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主人公の兎丸エイジ17歳はごく普通の高校生。
その母親ユリコは、未婚で父親違いの子供を2人産み、今は輸入雑貨のバイヤーとして長期の海外出張も度々という奔放な女性。必然的にエイジは、小学生の弟ヒロトの面倒を見つつ、家事全般をこなしている。これって普通?
モテ男の友人・羊谷と違い、エイジは小心で要領も極めて悪い。ヒロトが病気になって母親のアドレス帳から助けを求めた相手、杉尾がヒロトの実父ではないかと余計な推測をめぐらす。
その一方で、同じマンションの人妻に想いを寄せたり、羊谷と元彼女とのトラブルに巻き込まれ、抜き差しならぬ羽目に陥ってしまったり。

そんなエイジの気持ちにスッと共感できる。そこに本作品の良さがあります。
不器用な自分を持て余し、悪党になりた−いという気持ちも判るし、手玉に取られた挙句の惨めな気持ちも、自分のことのように感じられます。そんなエイジの不器用さが愛おしい。
等身大の高校生を描き、読み手の気持ちをホッとさせる、良質の青春小説。
エイジのみならず、母親ユリコ、弟ヒロト、杉尾、友人・羊谷、その元彼女・アヤと、各々の人物造形が良く、楽しい。
なお、本作品の健やかさは、これまで児童文学を書いてきた笹生さんだからこそのものでしょうか。

    

4.

●「バラ色の怪物」● ★☆


バラ色の怪物画像

2004年07月
講談社刊

(1300円+税)

2007年07月
講談社文庫化

2004/08/24

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主人公は、母子家庭の中学2年生、遠藤トモユキ
とくに成績優秀でも運動神経が良い訳でもなく、漫然と学校生活を過ごしている、背が高いだけが取柄という中学生。
その彼がひょんなことから2人の風変わりな中学生と関わりあうことになります。
ひとりは、奇行の繰り返しで校内一有名な吉川ミチル。彼女は遠藤が始めた奉仕活動の温室に入り浸ってきます。もうひとりは、他校の上級生で、トレーディングカードとプライムグッズのネット販売事業を立ちあげた三上ハルヒコ
壊した眼鏡の購入代を稼ぐため、遠藤は三上のボディガードのバイトを始めます。
ストーリィ展開は、もうひとつ判然としないままという印象があるのですが、要は「バラ色の怪物」とは何か?が鍵。
明確な自覚のないまま重大な殺傷事件を引き起こしてしまう、現代の中学生像を背景にした作品ではないかと思います。

他の作品に比べてもうひとつすっきりしないストーリィですが、主人公の遠藤、吉川ミチルの伸びやかさが好ましい。
また、読み手の気持ちをぐいぐい惹きつける力は流石です。

 

5.

●「サンネンイチゴ」● ★★


サンネンイチゴ画像

2004年10月
理論社刊
(1260円+税)

2009年06月
角川文庫化

2004/10/25

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本書の主人公は森下ナオミ、中学2年生の女の子。
ムッとすることがある時、心の中でははっきりと自分の意見を主張するが、現実は・・・。
小心者、言いたいことがあっても自分の胸の中にしまいこんでしまう、ごく普通の大人しい女の子。
そんなナオミの交友関係が突然変わったのは、学校一のトラブルメーカーとして有名な柴咲アサミが隣の席に座ってから。

学校や自分の家の中でも縮こまってばかりのナオミが目を丸くしているうちに、アサミやヅカちん、アサミの兄のシュウスケにまで及ぶ友人関係の中に巻き込まれます。
そのアサミやヅカちんとの交際、町で連続して起きているマスコット狩り事件を通じて、ナオミの成長を描いたストーリィ。

成長物語と一口に言ってしまうとありきたりかもしれませんが、ナオミにおける内心の言葉と現実のギャップ、ナオミとアサミ、ヅカちんという3人の関係がとても楽しい。
伸びやかな中学生ストーリィです。

 

6.

●「世界がぼくを笑っても」● ★★


世界がぼくを笑っても画像

2009年05月
講談社刊
(1200円+税)

2014年03月
講談社文庫化

 

2009/07/09

 

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3歳の時に母親が家出して以来父子家庭。そのうえ、その父親がいい加減な男だったために貧乏家庭。おかげで友達付き合いもろくに出来ず、主人公の北村ハルト(温人)は一匹狼タイプ。
そのハルトが中2の新学期、D組に振り分けられたところから始まるストーリィ。

前年“浦沢中の破壊神”を自称する問題児のおかげで女性教師が長期休養となり、代わりに担任となった臨時教員は、噂と違ってどうしようもなくやぼったく、ドジのうえに頼りない。
おかげで2年D組は、1年生にまでバカにされる程、堕ちに堕ちる。
ドシロウトのような担任教師に、特撮マニア&鉄道マニア、保健室登校という同級生たち。そんな中でハルト、さぁどうする?

もうどうしようもない、というところまで落ちた、と感じる。
それでも少年少女たちに、少しでも前へ進もうとする気持ち、意欲があるのなら、自ずと道は開けていくのかもしれない。
本書を読むと、そんな少年少女たちの奥底に潜む可能性、将来性に期待をかけてみよう、という気になります。そんな一冊。

孤高タイプのハルトを主人公にしたことから、キリリと小気味良いストーリィになっているところが、本書の魅力。
それだけでなく、ハルトら中学生同士の視点とは別に、大人の視点から彼らを眺める部分をきちんと抑えている点が、本作品の秀逸なところ。

一応児童向け作品なのでしょうけれど、大人が読んでも気持ち良く面白い。お薦めです。

  

7.

●「今夜も宇宙の片隅で」● ★★


今夜も宇宙の片隅で画像

2009年07月
講談社刊
(1300円+税)

 

2009/08/08

 

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主人公はバラバラだし、ストーリィもこれといって繋がるところはないし、何ともつかみどころのなく、これって?と思ったのですが、幻が次第に実体をまとっていくように、読み進むにつれ各ストーリィに共通するものが見えてきます。
その共通点とは・・・・。

てんでバラバラな人間たちなのに、ちょっとしたことで繋がっている。そんな仕組みが判ると、世界全体が楽しく感じられるようになるから不思議です。
宇宙の片隅であっても、宇宙に繋がっていることに違いはない。考え方の問題かもしれませんが、少し考え方を変えるだけでこれだけ広い世の中に繋がっていけると感じられる、そうした発想への上昇気流が本作品の魅力。
現代においてネットとは、まさにそれを可能にする道具なのかもしれない。
シュンが小学校時代は敬遠していた問題児と繋がったのも、城田マコトが山口県の小学生と出会ったのも、原田がかわいくもない同学年の女子と思いがけず親しくなったのも、そこにネットがあったから。

どうしてこの組み合わせ?と皆が驚くシュン・相沢・御園の3人組も好きですが、妖精が見えるという向井ハルカ&その家族と原田との遭遇的な関わりも楽しい。
人と人が思いもかけない繋がりを広げていくのって、何と素敵なことでしょう。
※読み始めたら最後まで読み通すことをお薦めします。

              

8.

「家元探偵マスノくん−県立桜花高校★ぼっち部− ★☆


家元探偵マスノくん画像

2010年11月
ポプラ社刊

(1300円+税)

2014年05月
ポプラ文庫化


2014/07/27


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高校入学式の夜、自宅でのお祝いメニューに食あたり、数日後やっと登校した頃には既にクラスの女子グループ分けは終わっており、倉沢チナツは外れ者。
仕方なくいつも裏庭にある用具置き場の屋根の下で弁当を食べていたところ、声を掛けてきたのはやはり一年生の
マスノくん

彼の招きに応じて出向いた先の地下室にいたのは、第二演劇部の一人部長=
西園寺ユリヤに、戦士部の一人部長=田尻サトシ
そして中心人物というべき
増野シンイチロウは“いけばな雪宝流”の次期家元にして探偵部の一人部長。
さらに自称=架空の生命体、実はパソコン越しに仲間として参加している“スカイプ”にチナツも加わって、
“★ぼっち部”の全メンバーという次第です。

どちらかというと、ごく普通の中学生仲間からはぐれた個性的な生徒たちが集まっての、愉快な迷探偵&迷活躍ストーリィ。
花形みつる「アート少女−根岸節子とゆかいな仲間たち−を思い出しますが、本作品ははるかに穏やか、地味で密やかという印象です。
そんな彼らでも、一緒にいてくれる仲間たちがいれば、高校生活も楽しいと言えるかも、といったストーリィ。

1.友だちがいない五月/2.マスノくん最初の事件/3.歓迎されない三通のメール/4.ぼくは行間が読めない/5.秋の通り道/6.マスノくん最後の事件/7.後日談的ななにか

     

9.

「空色バトン」 ★★☆


空色バトン画像

2011年06月
文芸春秋刊
(1200円+税)

2013年12月
文春文庫化

  

2011/07/03

  

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高校生セイヤの母親ショーコが、40歳で突然人生終了。
母親の葬儀に現れた小中時代からの仲間だという3人のオバサンは、地味な存在だったオカンとの共通性が見いだせないような、いかにも学級委員、ギャグ要員、女王様という個性的な面々だった。そこからセイヤは、それまで興味も持たなかった母親の一面を知ることになります。

ずっと児童向け小説を書いてきた笹生さんとしては初の大人向け、ただし中高生も楽しめる、といった作品だろうと思います。
いわば、大人と子供たちの間に橋を架けるようなストーリィ、そんな印象です。
小学5年の時の
樹村ショーコと女王様風陣ノ内アキとの出会い、中学時代に吉野カオリ森川ヒロミと4人で結成したマンガ同好会に男子2人を加えて文化祭にチャレンジした思い出、大学時の芹沢とヒロミの再会、後年アキの個展を機にした4人の集まりと、時代を追って、語り手を変えながら綴られる連作短篇集。

性格も歩む道も全く異なる4人が、お互いの繋がりを育て、かつ守ってきた姿が楽しい。
そしてそれは、ショーコから息子セイヤに、カオリから娘のミクへとバトンが渡され、親子の間にも仲間意識が生まれる辺り、本作品でも笹生さん、良いポイントを衝き、そして良い味を出しているなぁと感じます。
親子という世代間の断絶は必然的な結果ではなく、要は語り合う機会を設けていなかっただけのことかと、考えさせられます。

セイヤ、妹のマドカ吉野ミクの姿がそれぞれ清々しく、読了後の気分は青空のように爽快です。      

サドルブラウンの犬/青の女王/茜色図鑑/ぼくのパーマネントイエロー/パステル・ストーリー/マゼンダで行こう

    


   

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