榊 邦彦作品のページ


1963年埼玉県生。「100万分の1の恋人」にて第2回新潮エンターテイメント新人賞を受賞(選考委員:浅田次郎氏)し作家デビュー。現在、都内の
私立高校教諭。

 
1.
100万分の1の恋人

2.もう、さよならは言わない

  


 

1.

●「100万分の1の恋人」● ★★☆    新潮エンターテイメント新人賞




2007年01月
新潮社刊
(1300円+税)

2013年07月
新潮文庫化

 

2007/02/04

 

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題名からすると綺麗なラブ・ストーリィを想像しがちですが、予想とは違ってシリアスなラブ・ストーリィ。
大学院を修了して就職が決まったら結婚しようと約束していた恋人ミサキ。教員採用が決定したことを電話で知らせたミサキから告げられたのは、父親が遺伝性の難病=ハンチントン病を発症していることだった。

主人公とミサキの出会いは幼稚園の頃。そして、私立中学に進んだ主人公がミサキと再会したのは、大学に入ってからのこと。
幼稚園でのミサキとの思い出を途中幾度も挟みながら、現在の主人公とミサキの関係が語られていきます。ミサキが将来ハンチントン病を発症する確立は50%だという。
恋人が難病を患うというストーリィは数え切れないくらいあります。私が忘れられないところでは、スパークス「奇跡を信じてがあります。しかし、それらと違って本書の場合は、発症するか否かが不明だというところが厄介なのです。

告白された後の主人公の迷いが、順々と丁寧に書き綴られていきます。その静かで少しずつ積み上げていくような語り口が、私には好ましい。
主人公が向かい合うことになった苦悩は何と大きなものか。しかし、それは主人公だけのことでなく、実はミサキにとっても同様に大きな苦悩であると知れたのは、最後近くになってからです。
語らい、思い、繋がり、それら一つ一つがとても愛しく感じられます。
静かな感動が残る、気持ち良いラブ・ストーリィです。

  

2.

●「もう、さよならは言わない」● ★★




2008年05月
新潮社刊
(1400円+税)

 

2008/06/08

 

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幼い息子を残して愛する妻が1年半の闘病後、癌で逝く。
残された父親と息子はお互いに気遣い合いながら、妻そして母親のことを想いながら2人だけの生活を続ける。やがて2人に新しい出会いが訪れ・・・、というストーリィ。

何度も語られるようなストーリィで、ありきたりな物語かもしれませんが、そこから感じ取れるメッセージには新しいものを感じます。
愛した人のことはどうあっても忘れることはできない、と言う。そう、忘れる必要などないのです。大切なのは、その思い出を忘れずに、新たな道に歩み出すこと。
このメッセージ、ちょうど本書の前に読んだ湯本香樹実さんの絵本くまとやまねこと全く同じ。そんな偶然が、このメッセージをさらに忘れ難いものにしてくれたような気がします。

本書は、残された側だけのストーリィではありません。
奈緒子が亡くなって2ヶ月後、俊一の元に奈緒子からのメールが届く。それは生前に奈緒子がプログラムして記念日に自動的に送信されるように仕組んだメールだった。
自分亡き後の夫に送る奈緒子のメッセージ、想い。また、逝ってしまった後も決して忘れることのできない妻にどう返信しようかと思う、俊一の想い。
そんな2人の想いが交錯するように描かれていくのは、俊一と息子の、闘病中の奈緒子という側から交互に語られるから。
そしてもうひとつ、5年付き合った恋人との別れを決断した洋子という女性の物語も、それに寄り添うように語られます。

純なラブ・ストーリィ。
幼い子供の翼が出来過ぎ、ストーリィがきれいごと過ぎるという面はありますが、私はこうした物語、好きです。

  


  

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