坂井希久子作品のページ No.3



21.妻の終活

22.ふうふうつみれ鍋
−居酒屋ぜんや No.7−

23.とろとろ卵がゆ−居酒屋ぜんや No.8−

24.ほろほろおぼろ豆腐−居酒屋ぜんや No.9−

25.さらさら鰹茶漬け−居酒屋ぜんや No.10−

26.雨の日は、一回休み 

27.たそがれ大食堂 

28.すみれ飴−花暦居酒屋ぜんや No.1− 

29.萩の餅−花暦居酒屋ぜんや No.2− 

30.ねじり梅−花暦居酒屋ぜんや No.2− 

【作家歴】、こじれたふたり、羊くんと踊れば、泣いたらアカンで通天閣、迷子の大人、ヒーローインタビュー、ただいまが聞こえない、虹猫喫茶店、ウィメンズマラソン、ハーレーじじいの背中、ほかほか蕗ご飯

 → 坂井希久子作品のページ No.1


ほかほか蕗ご飯、17歳のうた、ふんわり穴子天、リリスの娘、ころころ手鞠ずし、さくさくかるめいら、若旦那のひざまくら、つるつる鮎そうめん、あったかけんちん汁、愛と追憶の泥濘

 → 坂井希久子作品のページ No.2

 


                 

21.
「妻の終活 ★★


妻の終活

2019年09月
祥伝社

(1400円+税)

2022年10月
祥伝社文庫



2019/10/06



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妻が珍しく「明後日、病院について来てくれませんか」と頼んできたが、面倒臭い、どうせ先日手術した虫垂炎のことだろうと拒絶。それがなんと癌宣告、それも余命一年とは。

一ノ瀬廉太郎、70歳。今も嘱託として継続勤務、ただし職場は工場で一応監督者という位置づけ。未だにスーツ通勤で周囲からはすっかり浮いている。
この主人公=廉太郎が、今や化石?と思えるくらい古臭い人物。妻も娘も今があるのは自分のおかげ、感謝しろと家の中では威張りまくり、口を開けば文句ばかり。そして家事はまるでできない・・・。

そんな廉太郎がまず心配したのは、身の回りを世話してくれたいた妻がいなくなったら、誰がやるんだ?ということ。
余命宣告された
68歳の妻=杏子は、こんなにもできない人になってしまったのは私のせいかもしれないと後悔を口にし、これまで父親を無視して口をつぐんできたきた美智子・恵子の娘2人も、これまでの怨念を吐き出すように父親に対し言いたい放題。
癇癪を起して反論するものの、口は動けど、手は動かず、という始末。
それでも、杏子に指示され、少しずつ自治会仕事、庭の手入れ等々をし始めるのですが・・・。

本作の題材は、歳を取れば当然に考えること。ただし、できるだけ自分が先にと思ってしまうのは、家事を妻に頼ってきた亭主族の甘えでしょうか。
それでも、幾ら何でも自分はこんなに酷くはないぞと、主人公の廉太郎には呆れる思いばかり。

最後、そんな廉太郎でも、何とか一人暮らしに踏み出していけそうな姿に、ホッとさせられます。


1.告知/2.斜陽/3.独断/4.予兆/5.献身/6.慢心/7.覚悟/8.尊厳/終章.懺悔

               

22.
「ふうふうつみれ鍋−居酒屋ぜんや− ★☆


ふうふうつみれ鍋

2019年09月
角川春樹事務所
時代小説文庫
(580円+税)



2019/10/30



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あったかけんちん汁」に続く、シリーズ第7弾。

当代一の呼び声高い
林只次郎のうぐいす<ルリオ>、その雄雛3羽が本鳴きを始め、ルリオの後継問題に目途がついたと只次郎も一安心。残る2羽を誰に、どう譲るかという課題も生じるのですが。

一方、只次郎の恋ライバルである
草間重蔵、これからは近江屋の下で監視すると、ぜんやを出て近江屋の用心棒に戻ります。
そのためぜんやに住まうのは、只次郎と
お妙の2人だけという状況に。
既にお妙に対する只次郎の想いは皆が承知済。何とか次の一歩をと思うものの、中々足を踏み出せないのが只次郎らしいところ。ますます只次郎の悩みは深まります。
一方、お妙もまた只次郎に対して思うところはあるようですが、6歳という年齢と家格の差から積極的に出ることはできず、思いは逡巡するばかり。
只次郎とお妙、半歩前進?というところでしょうか。

「春告げ鳥」:ルリオの雛2匹、さて獲得するのは誰?
「授かり物」:愛し子・千寿の子育てを巡って再び升川屋と女房お志乃の間に暗雲?
「半夏生」:只次郎が商才を発揮。蛍見物客に白瓜売り。
「遠雷」:<たださん>に惚れ込んだ三河屋のお浜についに見つかり、三河屋から只次郎の婿養子話が・・・。
「秋の風」:只次郎の婿養子話決着篇。一方、水野越中守罷免の知らせが・・・。

春告げ鳥/授かり物/半夏生/遠雷/秋の風

                

23.
「とろとろ卵がゆ−居酒屋ぜんや− ★☆


とろとろ卵がゆ

2020年03月
角川春樹事務所
時代小説文庫

(600円+税)


2021/05/01


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シリーズ第8弾。
刊行を見落としていたため、最終巻を読んでからの読書となりましたが、面白さが損なわれることはありません。

本巻での大きな事件は、湯島での出火による大火事で、善助から引き継いでお妙が守ってきた大事な店<ぜんや>が焼失してしまうこと。そして、その火事が契機となって、お妙が塞いでいた両親の死にかかる記憶が蘇ること。
その意味では、何のためにお妙が<ぜんや>を続けるのか、転機となる巻と言って良いのでしょう。

・「月見団子」:やせ衰えた少女・お梅をお妙が救います。
・「骨切り」:武士にとっては禁忌の魚料理に只次郎が挑戦。それが転んでお妙、三文字屋の白粉包みの表紙絵になることに。
・「忍ぶれど」:絵師と髪結いがぜんやに押しかけ、お妙に化粧を施し、下図描き。絵師の目はお妙の気持ちを鋭く見抜く。
・「夢うつつ」:火事で店が消失。両親の死に関する記憶を取り戻していくお妙の様子は、まるで虚ろに・・・。
・「持つべきもの」:
升川屋の年の瀬。奉公人たちのために、お妙が餅に合わせる甘味に采配を振るいます。

月見団子/骨切り/忍ぶれど/夢うつつ/持つべきもの

                   

24.
「ほろほろおぼろ豆腐−居酒屋ぜんや− ★☆


ほろほろおぼろ豆腐

2020年09月
角川春樹事務所
時代小説文庫

(600円+税)

2021/07/11

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シリーズ第9弾。
読み洩れしていた最後の巻。これでひととおり最終巻までの全巻を読了したことになり、ようやくストーリィ展開が全て繋がり、落ち着いた気分です。

「薬食い」:新しい代替地で、<ぜんや>再開です。
一方、
只次郎は<鶯指南>と<商い指南>を開始。
「蟹の脚」お妙の両親を殺害した黒幕の手がかりが・・・。
「家移り」:鶯指南のため、只次郎がぜんやを出て別に家を借りると言い出し、お妙は思わず動揺・・・。
「暗 雲」:只次郎、意を決して行動に・・・。
「川開き」花火の夜、お妙がついに自分の気持ちを抑えきれず、只次郎に向かい・・・。

本シリーズの、長い物語の中で重要な展開となるのが「暗雲」と「川開き」の2章。
最終巻に向けての布石となっています。


薬食い/蟹の脚/家移り/暗雲/川開き

            

25.
「さらさら鰹茶漬け−居酒屋ぜんや− ★☆


さらさら鰹茶漬け

2021年04月
角川春樹事務所
時代小説文庫

(600円+税)


2021/04/17


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シリーズ第10弾にして、最終巻。

本シリーズはずっと読んでいたつもりでしたが、迂闊なことに本書を手に取ってはじめて、8巻および9巻を読んでいなかったことに気づきました。
ただ、7巻まで読んできたので、2巻くらい飛んでしまってもストーリィは理解できるもので、特段支障はなかったと思います。

前巻の最後でようやく
お妙と結ばれた林只次郎でしたが、だからといって急に順調に進み出す訳でもなく、お妙には内緒にしながらお妙の両親と元亭主を死に至らしめた犯人捜しを続けます。ところがその結果分かったのは・・・・。

一方、花子という少女が登場。熱中症で倒れた
花子を偶々只次郎が助けたことが契機となり、花子は毎日のように<ぜんや>を訪ねて来るようになります。

まぁ、事件の謎は明らかになったものの事件解決とまではいかなかった点に物足りなさは残りますが、過去に拘るより、これからが大事という意味で、終わりよければすべてよし、と思うところです。


暑気あたり/草市の夜/棘の尾/甘い算段/戻る場所

                    

26.
「雨の日は、一回休み ★★


雨の日は、一回休み

2021年06月
PHP研究所

(1600円+税)



2021/07/05



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社会情勢や周囲の状況変化についていけなくなった中年男性サラリーマンたちの姿を描く、哀切感と共にコミカルな連作短編集。

サラリーマンをめぐる状況変化は、本当に大きかった、と思うのです。私が会社員になったばかりの頃は、毎日のサービス残業は当たり前、ノルマもあり、男女差別もあり、今ならパワハラとされるような上司の振る舞いも普通のこと。それが今や、サービス残業どころか残業を減らせという指示になり、男女平等、パワハラは禁止、という時代になったのですから。
モーレツな働き方を貫いてきたサラリーマン程、意識の切り替えができないのも分かる処がありますが、だからといってそれを是認する訳ではありません。
ふと目を変えてみる、周りを見渡してみる、をしてみたらと思いますから。

「スコール」:セクハラ注意を受けた課長職の喜多川進。心当たりがないだけに途方にくれ・・・。
「時雨雲」:後輩女性に役員レースで敗れ、定年まで8ヶ月という部長職の獅子堂怜一。自分の目に映っていなかったことにようやく気付く。
「涙 雨」:力=男らしさという古い考えを捨てられない役職定年者の佐渡島幹夫、しかし、娘との思わぬ再会に・・・。
「天気雨」:43歳までずっと派遣社員の石清水弘、金のかからないストレス発散法は・・・。
「翠 雨」:定年退職した小笠原耕平・65歳、溜まる憤懣を向けるのは、モラル違反者への怒声。おかげで「世直しオジサン」と揶揄されてしまうのですが・・・

各章の主人公、それぞれ自分は不当な扱いを受けている、というのが不満の原因ではないでしょうか。
でも結局は、自分自身の考え方一つ次第。遅すぎたのかもしれません。でも、今からでも未だ、変われるのです・・・という坂井さんのメッセージを聞く思いがします。


1.スコール/2.時雨雲/3.涙雨/4.天気雨/5.翠雨(すいう)

                

27.
「たそがれ大食堂 ★★


たそがれ大食堂

2021年09月
双葉社

(1600円+税)



2021/11/06



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東京から通勤圏内の歴史ある蔵の町、地元の老舗<マルヨシ百貨店>の最大の特徴は、最上階にある大食堂がまだ自社経営であること。
しかし、売り上げが下落傾向にあることは否定できません。

その大食堂のマネージャーに、懲罰的な意味合いで畑違いの食器・リビング部門から異動させられたのが、本作の主人公である
シングルマザー・38歳の瀬戸美由紀
さらに
ボンクラ若社長が自らスカウトしてきたと料理長に任命したのは、経験豊富なフレンチシェフの前場智子・43歳
「昭和レトロ」を売り物にしてきた大食堂に、古臭い、リニューアルと言い出した前場に、叩き上げの副料理長=
中園が怒りの声を上げ、さてさてどうなることやら・・・。

本作、とても楽しい物語。
不穏要因と思われた前場智子が意外や意外、柔軟な思考の持ち主で、美由紀や中園たちと力を合わせて既存メニューをもっと美味しいものに、と奮闘していく様子が楽しい。
また予想もしなかった協力が助っ人が思わぬ処から現れ・・・。その助っ人が誰なのかは、読んでのお楽しみです。

オムライス、プリン、クリームソーダ、エビフライ、ナポリタン等々、リニューアルの対象となるメニューが高級なものではなく庶民的な料理であるからこそ、親しみやすく、また嬉しい。

しかし、何故美由紀が大食堂のマネージャーを命じられたのか、何故智子がスカウトされたのか・・・そこにはある策略が隠されていた。
そんな策略も、大食堂のスタッフとして働くパート女性たちも力を合わせて皆で乗り越えていこうとする、まるで部活動のようなノリが痛快。

楽しいグルメ&お仕事小説、お薦めです。


可愛いオムライス/懐かしプリンと虹色クリームソーダ/仲直りのエビフライ/追憶のナポリタン/一致団結のちゃんぽん麺/大逆転のお子様ランチ

                 

28.
「すみれ飴−花暦 居酒屋ぜんや− ★☆


すみれ飴

2021年10月
ハルキ文庫

(620円+税)



2022/12/20



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只次郎&お妙から、主人公を若い二人=お花&熊吉に代えての新シリーズ“花暦居酒屋ぜんや”第1弾。
前シリーズで読了というつもりだったのですが、新シリーズはどういった趣向なのか、ちょっと覗いてみようという気分で読んだ次第です。

お花、実母のお槇に捨てられ、只次郎とお妙夫婦の養女となって今は14歳。
一方の熊吉は、相変わらず“ぜんや”に足繁く顔を出すものの、18歳という若さで
薬種問屋“俵屋”の手代に昇進したところ。

お花、元々不器用な性格のうえに不遇な育ちもあって、只次郎とお妙にうまく甘えることもできず、何か二人の役に立たなければという思いばかりが空回りしている風。
一方、手代に昇進した熊吉は奉公人として順調と言えるものの、先輩手代たちから執拗な嫌がらせを受け、これまで同僚だった仲間からは距離を置かれるという風で、もやもやした気分を中々晴らせずにいる、という風。
そんな若い二人が成長していく姿を描いていく、というのが新シリーズの趣向なのでしょう。楽しみです。

そのお花、自分も料理を手伝いたいとお妙に幾度か申し出るものの、お妙は「そのうちにね」と言うばかりでいつもはぐらかされてしまう。
何故?というお花の疑問は、読者の疑問でもあります。
でも最後、その謎がすっきり晴れて、ようやくお花も新しい一歩を踏み出すに至れるようです。
新シリーズの皮切りとなる一冊。それなりに楽しめました。


菫の香/酒の薬/枸杞(くこ)の葉/烏柄杓/夏土用

                

29.
「萩の餅−花暦 居酒屋ぜんや− ★☆


萩の餅

2022年04月
ハルキ文庫

(620円+税)


2023/07/05


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熊吉とお花を代わる代わる主人公とする“花暦居酒屋ぜんや”シリーズになって、まぁ読まなくてもそれはそれで済んでしまいそうなのですけれど、読み始めてみればそこはやっぱり楽しい、というもの。

でもその楽しさは、熊吉とお花によるものではなく、やはり只次郎とお妙の夫婦に負う、と感じます。
とくにお妙の作る料理を読んで味わう、という処が第一。

ストーリィ内容は、薬種問屋<俵屋>の手代である熊吉の、只次郎とお妙夫婦の養女となり<ぜんや>の手伝いに励むお花の、一歩一歩進んでいく成長物語。

熊吉、先輩手代からの悪質な嫌がらせを受けますが、その背後に思わぬ人間の悪意があったことを知り、悄然。
一方、店主が新たに作り上げた薬の販路拡大に、若旦那と共に苦労します。
一方、熊吉と比べるとお花の悩みは、まだ子供っぽい。それでも否応なく成長の徴は訪れます。

熊吉、お花共に、先はまだまだ長いようです。


荒れ模様/花より団子/茸汁/身二つ/人の縁

                   

30.
「ねじり梅−花暦 居酒屋ぜんや− ★☆


ねじり梅

2022年11月
ハルキ文庫

(620円+税)


2023/10/10


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シリーズ第3弾。

今回は、のっけから不穏。
お妙の父親がかつて売って好評を博していた薬<龍気補養丹>を俵屋が復活させ、熊吉と若旦那と共に上方へ販路拡大に出掛けたまま、未だ戻らず。
そうした中、熊吉を騙って俵屋に押し込み強盗に入ろうとした一味が現れます。
一体何者か。何故熊吉の名前を騙ったのか。

事件は解決しないまま、さらに畏怖すべき事態が、<ぜんや>に集まった常連の旦那たちを襲います。

第3弾に至って感じることは、熊吉はますます頼もしく、有能な奉公人に成長する姿を見せる一方で、
お花はその内に抱えているコンプレックスから未だ抜け出せないのか、危なっかしい限りであること。本巻でもその隙を狙われたように感じます。

さて、次の巻で、不可解な事態の真相は判明するのでしょうか。


声はすれども/七色の声/くれない/縁談/時鳥(ほととぎす)

        

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