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41.さよならの儀式 42.黒武御神火御殿−三島屋変調百物語六之続− 43.きたきた捕物帖 44.魂手形−三島屋変調百物語七之続− |
【作家歴】、魔術はささやく、レベル7、龍は眠る、本所深川ふしぎ草紙、火車、とり残されて、淋しい狩人、震える岩、蒲生邸事件、鳩笛草、クロスファイア |
ぼんくら、模倣犯、ドリームバスター、あかんべえ、誰か、日暮らし、孤宿の人、名もなき毒、楽園 |
おそろし、英雄の書、小暮写眞館、あんじゅう、ばんば憑き、おまえさん、ソロモンの偽証(第1〜3部)、桜ほうさら |
泣き童子、ペテロの葬列、荒神、悲嘆の門、過ぎ去りし王国の城、希望荘、三鬼、この世の春、あやかし草紙、昨日がなければ明日もない |
「さよならの儀式 8 Science Fiction Stories」 ★★ | |
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宮部さんには珍しい、本格的SF短編集。 SFアンソロジー“NOVA”に、2010〜18年に掲載された短編を集めての単行本化。 8篇が収録されていますが、各篇のSF趣向は本当に様々。それでも趣向の違いに戸惑うことがないのは、各篇の完成度が高いからでしょう。ですから、篇ごとの読み応えもたっぷり。 私としては、近未来設定ながら、非現実とは思えない「母の法律」と「戦闘員」の冒頭2篇がすこぶる面白かったです。 「わたしとワタシ」は、ごく短いタイムスリップもの。女子高生だったワタシが、現在45歳の私に対して突き付ける言葉に切れ味良いユーモアがあります。 表題作「さよならの儀式」はロボットもの。古くなり廃棄処分されることになったロボットの描き方が上手い! 「聖痕」は、宮部さんの極悪事件ものを彷彿させる篇。 「星に願いを」「海神の裔」「保安官の明日」は、そう持ってくるか、という3篇。 短編集といえども、宮部作品にハズレはないですね。 母の法律/戦闘員/わたしとワタシ/さよならの儀式/星に願いを/聖痕/海神の裔/保安官の明日 |
「黒武御神火御殿(くろたけごじんかごてん)−三島屋変調百物語 六之続−」 ★★ | |
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「あやかし草紙」に続く、シリーズ第6巻。 なお、本巻から第2期とのことで、話の聞き役はおちかから、三島屋の次男坊である「小旦那」こと富次郎に変わります。 「泣きぼくろ」「姑の墓」「同行二人」はこれまで通りという印象ですが、いずれも割とあっさりした小篇。 聞き役が富次郎に変わったことから、肩慣らしという趣向なのでしょう。 事実、富次郎、おちかに較べると、覚悟も肝も未だ未だ据わっていない、という印象です。 まぁ徐々に慣れていくのでしょうけれど。 という訳で本巻の主眼はやはり、表題作である第4章の「黒武御神火御殿」。 博打にのめり込んでしまった札差の三男坊=甚三郎。ふと迷い込んだ先は見知らぬ屋敷。その屋敷で同様に入り込んでいた老人の亥之助、女中らしい女=お秋と出会いますが、それから3人、その屋敷から出られなくなってしまう。そしてさらに・・・。 いやはや何と恐ろしいことか。この屋敷の中は、異世界なのでしょうか。どこまでも逃れられないという臨場感がたっぷり。 読み応えある堂々の中編ストーリィですが、読み終わった後は、結局それだけのことだったのかと、それ以上に思いは広がらなかった感じです。 序/1.泣きぼくろ/2.姑の墓/3.同行二人/4.黒武御神火御殿 |
「きたきた捕物帖」 ★★☆ | |
2022年03月
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久々の捕物帖。 読み始めた端からワクワクします。行間から沸々と楽しさが湧き出てくるようです。 ストーリィは、人望のあった深川元町の岡っ引き=文庫屋の千吉親分がフグの毒に当たって急死するところから始まります。 文庫(厚紙製の箱)売り稼業は、千吉の下でずっと商いに携わって来た一の子分=万作・おたま夫婦に。 千吉の代名詞だった朱房の十手は、生前に千吉も言い置いていたこととして、同心の沢井によって取り上げられることに。 おかげで下っ引きたちは散り散り。 本シリーズで主人公となる北一は、3歳の時に母親とはぐれ千吉親分の下で育てられた末の子分。千吉と昵懇だった深川の差配人=勘右衛門、通称<富勘>のおかげで、長屋に移り引き続き文庫稼業を続けられることになります。 この北一、まだ16歳。素直で真面目な性分ですが、頼りないところも多分にあります。 そんな北一が、周囲の人間に盛り立ててもらいながら、千吉親分の跡を追って文庫屋としても岡っ引きとしても成長していくシリーズになるのでしょう、そこに魅力と楽しさを感じます。 その富勘、「桜ほうさら」に登場した人物。そして北一が一人住まいを始めるのも、同作でお馴染みの富勘長屋、という次第。 周辺人物で特に光るのが、この富勘。さしづめ、あらゆる面での北一の指導役、引き回し役、というところでしょう。 本人はいずれ自立を目指し文庫屋稼業に励むつもりだったのに、様々な事件が起きる度、千吉親分の子分だったからとして岡っ引き仕事を押し付けられます。 しかし、北一の経験、実力不足は明らか。それを補うのが、幼い頃に疱瘡で視力を失ったという、千吉親分の寡婦となった松葉。この松葉が勘と洞察力に秀でていて、まさに安楽椅子探偵役。 それ以外にも、偶然親しくなった、旗本別邸の用人=青海新兵衛という気さくな武士の存在も楽しい。 そして、漸く第三話の「だんまり用心棒」にて、北一の貴重な相棒となるもうひとりの“きたさん”=喜多次が登場します。 これからのシリーズ展開がとても楽しみです。 1.ふぐと福笑い/2.双六神隠し/3.だんまり用心棒/4.冥土の花嫁 |
「魂手形(たまてがた)−三島屋変調百物語 七之続−」 ★★ | |
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聞き手が三島屋の姪=おちかから、次男坊である「小旦那」こと富次郎(本作では22歳)に変わってから2作目、「黒武御神火御殿」に続くシリーズ第7弾。 今回は3篇を収録。 いつも思うのですが、その構成、物語の運び方がお見事。流石は宮部みゆきさん。元々“三島屋変調百物語”は、宮部さんの語りの上手さを存分に発揮してこその面白さ溢れるシリーズと言えますが。 「火焔太鼓」:美丈夫の若々しい侍が語り手。国許に置かれた、火事を防ぐための<火焔太鼓>に纏わる、そして実兄と嫂までが深く関わることになった藩の秘事、<ぬし様>にかかる信じ難い物語が語られます。 この篇で読み手は、三島屋変調百物語の世界にすんなり引きずり込まれます。 「一途の念」:富次郎が贔屓とする、屋台の団子売り=おみよ・16歳が語り手。5年もの間苦しみぬいてやっと死んだ母親と、兄3人に関わる不思議な、そして悲痛な出来事が語られます。 この篇にて、三島屋変調百物語が語り手を救う道になっていることを知らず知らずのうちに得心させられてしまいます。 「魂手形」:表題作の本篇は、本書頁の約半分を占める中篇。 語り手は粋な老人=吉富。55年前、木賃宿の息子だった15歳の時に出会った不思議な出来事について語り出します。 吉富を大事にしてくれた継母のお竹と共に吉富が世話した不思議な旅人=七之助。そして、その七之助が携えていたのは不思議な手形。 七之助、奇妙にも他の客人から離れた部屋が良いといい、吉富たちはその要望に応えるのですが、その泊り部屋を訪ねると何故か空気が冷たくなっている。やがてその理由は、七之助が共に旅していた○○の所為と分かるのですが・・・。 お竹という女性の個性的なキャラクターと、吉富との関わりから始まる篇。その冒頭から面白くてぐいぐいとストーリィに引っ張り込まれます。その所為か、気味が悪いとか思う暇もなく、何時の間にかどっぷりと変調百物語の世界に嵌り込んでいる、という風。 最後の顛末は、流石に仰天。まさか、そんな・・・!と。 ※なお、途中、おちかの近況も伝えられます。そこも嬉しい。 火焔太鼓/一途の念/魂手形 |
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