小川 糸作品のページ No.2



10.
ツバキ文具店


11.キラキラ共和国

12.ライオンのおやつ

13.とわの庭

【作家歴】、食堂かたつむり、蝶々喃々、ファミリーツリー、つるかめ助産院、あつあつを召し上がれ、私の夢は、さようなら私、にじいろガーデン、サーカスの夜に

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10.
「ツバキ文具店 ★★☆


ツバキ文具店

2016年04月
幻冬舎刊

(1400円+税)



2016/05/10



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鎌倉の山の上にある小さな店=ツバキ文具店
主人公の
雨宮鳩子は、自分を育ててくれた先代(祖母)亡き後その店を引き継ぎますが、主ストーリィとなるのは文具屋稼業ではなくその副業と言うべき“代書屋”

代書屋というと
松崎有理「代書屋ミクラといった作品もありますが、鳩子がする“代書”は単なる代筆ではありません。
依頼人からの要望はどんな内容の手紙か、に留まります。
ペットの死に対するお悔み状、離婚の挨拶状、借金の断り状、絶縁状等々。それらの依頼に対し、この依頼人と相手方の関係だったらこんな手紙が相応しいという言葉を見つけ出す。そして依頼人が如何にも書くような筆跡で、相応しい筆記具や紙にもこだわて手紙を綴る。さらには貼る切手の絵柄にまで拘るのです。

先代に幼い頃から厳しく躾けられ育てられた鳩子は、高校入学した頃から反抗心を発揮し、後に家を飛び出したま戻ることがなかったとのこと。実の祖母なのに“おばあちゃん”と呼べず未だに“先代”と呼んでいる鳩子が先代の店を継いだのは、ついに気持ちを通わせることができなかった祖母と何とか通じ合いたいという心境があったからではないか。
本書の主ストーリィはそんな鳩子と先代が近づきあっていく長編的な展開にあり、それ自体感動的なものなのですが、他に見られない本書の魅力を創り出しているのは、やはり手紙の代書部分です。

本書中に、鳩子が肉筆で書いた手紙文がそのまま挿入されています。その一つ一つがそれだけで独自の世界を創り出していて、何とも素敵なのです。
手紙のもつ楽しさ、面白さ、嬉しさといった魅力がそのまま輝きを放っているようです。
とくに素敵だった手紙は、好きだったのに結婚まで至らなかった相手に、現在の相手の幸せを祈ると共に自分も元気だよと伝える手紙。そして、それ以上に印象的で痛快、思わずお見事!と称えたくなったのは、借金申込への拒絶状。
是非、これら生き生きとした手紙の素晴らしさをご賞味あれ!


夏/秋/冬/春

               

11.

「キラキラ共和国 ★★


キラキラ共和国

2017年10月
幻冬舎刊

(1400円+税)

2019年08月
幻冬舎文庫



2017/11/03



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鎌倉を舞台にしたツバキ文具店、主要登場人物のその後を描く、後日談的続編です。

主人公の
鳩子と前作ですっかり仲良くなったQPちゃん(陽菜)の小学校入学と合わせ、鳩子がQPちゃんの父親である守景ミツローさんと入籍したところから本作は幕を開けます。
結婚したといっても鳩子はこれまでどおりツバキ文具店での代書屋を続け、ミツローさんも今まで通りカフェの商売を続けるとあって、それぞれの店兼住居で暮らし続けるというご近所別居婚。
QPちゃんの鳩子への呼びかけも、今まで通り「ポッポちゃん」です。

本続編でも代書の依頼はあり、鳩子が心をこめて手紙を代書するのは前作どおりですが、どちらかというと脇ストーリィという印象。
本作での中心は、先代(祖母)との暮らしで経験することのなかった、家族というものの形、家族がいるという幸せを鳩子が深めていくというストーリィになっています。
そこではミツローさんとの夫婦関係より、QPちゃんとの母娘関係の方が大事で、お互いにすっかり新しい関係を楽しんでいるという風です。
男爵とパンティーの夫婦関係のその後も描かれ、また新たな人物の登場もあって驚かされますが、本書でも人と人の繋がりが深まっていく様子が繊細に描かれていて、嬉しい。


ヨモギ団子/イタリアンジェラート/むかごご飯/蕗味噌

             

12.
「ライオンのおやつ ★★☆


ライオンのおやつ

2019年10月
ポプラ社

(1500円+税)



2019/11/08



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主人公である海野雫は、クリスマスの日、瀬戸内海のレモン島に一人で降り立ちます。
抗がん剤による治療虚しく余命僅か、桜の花が咲く前までと宣告され、家族もいないことからホスピスへの入所を決めた次第。
島にあるホスピスは<
ライオンの家>。港では、代表である年配女性のマドンナがメイド服姿で雫を迎えます。

不思議なその名前は、ライオンは百獣の王、恐れるものは何もない、という意味らしい。
そこでの食事はとても美味しく、思わず「しあわせ〜」という言葉が雫から洩れます。
そして、各自が忘れられない思い出のある<おやつ>を文と共にリクエストすれば、順次叶えてくれるという。

僅か一ヶ月余り。風光明媚な島にあるホスピスでの、雫の幸せで生きる楽しみに満ちた、穏やかな最期の日々が描かれます。

人はいずれ死ぬもの。でも人によって死ぬまでの道は様々。
余命あと僅かと宣告された時、本作の雫のように、充足した気持ちで最期を迎えることができるでしょうか。そのためには何が必要なのでしょうか。
この<ライオンの家>で雫は、大事な人として見守られているという確信と、それ故の安心感を抱くことができていたのではないかと思います。
でもそれだけで十分なのか。
自分が最期を迎えた後も、自分のことを親しく思い出してくれる人がいることこそ、幸せなことではないかと思わされます。
最後の最後まで、生きている日々の何と愛おしいことか。

本作で描かれることは理想的であり、夢に近いことであるのは否めません。
でも、主人公の雫と一緒にその温かさに触れたことは、とても幸せなことと思います。
心温まる作品の多い小川糸さんですが、その中でも本作は究極のストーリィと言えます。
お薦め。

                

13.
「とわの庭 ★★


とわの庭

2020年10月
新潮社

(1500円+税)



2020/11/20



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主人公の<とわ>、生まれついて目が見えず、母親と2人きり、家の中にこもりきりで密接な日々を過ごす。
しかし、生活費を得るために働かなくてはと母は外へ出ていくようになり、やがて帰らなくなる。
食べるものも少なくなり、ひもじさも抱えながら、10歳の時に一度外出しただけで家の中しか知らず目の見えないとわには、外へ出ていくという選択肢はない。
それでもついに、とわは決意し、窓の向こう側の世界へと出ていきます。
そこから、とわの新しい人生が始まる・・・。

過酷な生まれと育ち、ちょっと現実的ではないところも多分にありますから、何となくファンタジー物語のような雰囲気も感じます。
しかし、大事なのは、閉ざされた世界から開かれた世界へとわが足を踏み出したところから、人との交わりも生まれ、生きる喜びをとわが見出していくことにあります。そこに感動あり。

その中で重要な位置を占めているのが、家の庭、母親が
「とわの庭」と呼んだ庭です。
目は見えなくても、花木の匂い、庭を訪れるいろいろな生き物たち、そして四季の移ろい。
それらがとわに生きるということを感じさせてくれ、また励ましてくれるのでしょう。

シチュエーションはまるで異なりますが、庭とそこのある花木によって主人公が再生の道を掴み取っていくところは、
はらだみずき「やがて訪れる春のためにとシンクロするものを感じます。

     

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