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22.鳥と雲と薬草袋 23.冬虫夏草 24.海うそ 27.私たちの星で(共著:師岡カリーマ・エルサムニー) 28.椿宿の辺りに |
西の魔女が死んだ、丹生都比売、エンジェルエンジェルエンジェル、裏庭、からくりからくさ、りかさん、春になったら苺を摘みに、家守綺譚、村田エフェンディ滞土録、ぐるりのこと |
沼地のある森を抜けて、水辺にて、この庭に、f植物園の巣穴、『秘密の花園』ノート、渡りの足跡、ピスタチオ、不思議な羅針盤、僕はそして僕たちはどう生きるか、雪と珊瑚と |
21. | |
●「エストニア紀行 森の苔・庭の木漏れ日・海の葦」● ★★☆ |
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2016年06月
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バルト海東岸に南北に並ぶバルト三国のひとつ、エストニア共和国への紀行文。 旅行者が一般的に見聞する風景の隙間を突いて、その奥にある日常の姿にしっかり触れている、という印象を受けます。その辺りが本書の貴重な処です。 また、現地でカヌーに乗ったり、コウノトリの姿を探し求めたり(残念ながら梨木さんが訪れた直前に渡って行ってしまったらしい)。この辺りは、梨木さんの既刊エッセイ「水辺にて」「渡りの足跡」から連なるものを感じます。 繰り返し他国の支配下に置かれた歴史の中で脈々と生きてきたエストニアの人たちと冷涼な空気に触れることのできる本書は、他の紀行とは一線を画した存在感があります。お薦め。 ※梨木さんが引用している絵本は、ヴィークランド「ながいながい旅」。 |
22. | |
「鳥と雲と薬草袋」 ★☆ |
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2021年10月
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鳥や雲のように旅するが如く、日本各地の地名の由来を追ったエッセイ、名付けて“葉篇集”とか。 西日本新聞に2011〜12年連載したコラムエッセイ。テーマをと言われて、窓から見え、梨木さん自身大好きな鳥と雲(気象)の話に決めたのだという。 「まなざしからついた地名」、「文字に寄り掛からない地名」、「消えた地名」、それらに該当する地名はどれも奥ゆかしい。日本という国土の奥深さを感じさせてくれるようです。 並べてみると私が好きなのは「峠についた名まえ」より「岬についた名まえ」。若い頃の一人旅も峠より岬を訪ねることが多かったように思います。リストアップされている5つの岬名の内4つは訪ねたことがありますし。 地名を訪ねて各地を旅した気分になる一冊。 タイトルのこと/まなざしからついた地名/文字に寄り掛からない地名/消えた地名/正月らしい地名/新しく生まれた地名/温かな地名/峠についた名まえ/岬についた名まえ/晴々とする「バル」/いくつもの峠を越えて行く/島のもつ名まえ/あとがき |
23. | |
「冬虫夏草(とうちゅうかそう)」 ★★ | |
2017年06月
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主人公と自然との不思議な邂逅く「家守綺譚」の続編。 前作「家守綺譚」が家を中心とした物語だったのに対し、本書は家から出て山中に分け入る物語ですから、ストーリィの広がりが楽しめます。山中や集落の宿に泊まったり、河童の少年に出会ったり、イワナ夫婦が営む宿屋の話を聞いたりと、まさに道中記。 本書においては冒頭と最後の僅かしか出番はありませんが、その人望は綿貫をはるかに凌駕している、という犬=ゴローの存在感があってこそ本書は楽しい。目的と終着がきちんと用意されているのですから。 クスノキ/オオアマナ/露草/サナギタケ/サギゴケ/梔子(くちなし)/ヤマユリ/茶の木/柿/ショウジョウバカマ/彼岸花/節黒仙翁(ふしぐろせんのう)/紫草(ムラサキ)/椿/河原撫子/蒟蒻/サカキ/リュウノウギク/キキョウ/マツムシソウ/アケビ/茄子/アケボノソウ/杉/タブノキ/ヒヨドリジョウゴ/樒(しきみ)/寒菊/ムラサキシキブ/ツタウルシ/枇杷/セリ/百日草/スカンポ/カツラ/ハウチワカエデ/ハマゴウ/オミナエシ/茅 |
24. | |
「海うそ」 ★★☆ | |
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昭和初期、南九州の離島=遅島を、恩師の研究を補完しようと人文地理学の研究者である秋野が訪れます。 神秘的とさえ言って良い遅島の様子は、神々しいばかりに感じられます。それなのに、50年後の遅島はどこにでもあるような小島に過ぎない姿。 |
25. | |
「丹生都比売(におつひめ)−梨木香歩作品集−」 ★★ | |
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中編小説「丹生都比売」を中心にして、掌篇・短篇8作品を加えた作品集。 元々梨木作品に惹かれて読み始めたのはファンタジーな作品からでしたが、その一方で紀行作品からは静謐な雰囲気を感じることが多く、梨木作品はそうした2面がある、というのが私の印象です。 それは「丹生都比売」の主人公、後の天武天皇と持統天皇の子である草壁皇子についても共通します。 「夏の朝」も、親には見えない友人を持つという点では「丹生都比売」と共通しますが、6歳の夏ちゃんを主人公にしたファンタジー風の作品。 |
「西の魔女が死んだ−梨木香歩作品集−」 ★★☆ |
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名品「西の魔女が死んだ」の、「梨木香歩作品集」と銘打っての再刊。 私としては16年ぶりの再読です。 中学生である孫のまいが、英国人のおばあちゃんの元でしばらく暮らした、短いけれど中身の濃い日々を描いたストーリィ。 やっぱり良いですねー、この作品は。主人公のまいも、まいのことをしっかり見つめているおばあちゃんも、2人の共同生活ぶりも、大好きです。 本書は、上記表題作の他、それに連なる3篇を収録。 ・「ブラッキーの話」:祖父母が飼っていた犬=ブラッキーの思い出を、母親とまいが語るストーリィ。 最後の一幕が、「西の魔女」に連なる一篇として相応しく、好きです。 ・「冬の午後」:小6の冬休み、まいがおばあちゃんの元で暮らした時のことを描いたストーリィ。 まいとおばあちゃんの関係、「西の魔女」の原点がここにある、という印象です。 ・「かまどに小枝を」:まいがおばあちゃんの元を去った後の静かな日々を描いた、書下ろし篇。読了後の余韻が何とも快い。 「西の魔女が死んだ」と合わせ、上記3篇を読めたのは、とても嬉しいことです。 西の魔女が死んだ/ブラッキーの話/冬の午後/かまどに小枝を |
「私たちの星で」(共著:師岡カリーマ・エルサムニー) ★★☆ |
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約1年半、10回にわたる梨木さんと師岡さんとの間で交わされる往復書簡集。 内容は、日本人であると同時に世界に広がる水脈があるのではないかと考える梨木さんが、イスラムのことを学びたいと、ムスリムである師岡さんにイスラムや異文化について問い掛ける、それらにムスリムの目から見える景色を師岡さんが答える、というもの。 外国への旅経験の多い梨木さん、世界中を飛び回っている観のある師岡さんというお二人の往復書簡においては、世界のあちこちでのエピソードが語られ、今や世界は広く繋がっているのだなと感じさせられます。 ただし、それ以上に感じさせられることは、世界は広く多様な文化、多様な考え方があるということ。 そんな世界で人々が共存していく道は、多様な文化があることを認め、異文化を排斥するのではなく、異文化を理解し寛容することにあるのだと、心から感じさせられます。 航空機トラブルでロンドンに一泊せざるを得なくなった梨木さんが出会ったムスリムの運転手、アジア人女性のホテル受付が明るく感じが良かったのに対し、ホテルのコンシュルジュだという英国人中年男性の不機嫌そうな表情は、象徴的なものとして印象に残るエピソードでした。 ただ、相手の国に入り込む側と、それを受け入れる側では、寛容の程度に違いが生じるのもある程度はやむを得ないことではないか、とも感じます。 師岡さんがNYで民泊した先のゲイ男性が、偏見を持たれない側同士としてムスリムである師岡さんに示した親近感、ユダヤ人女性がムスリムである師岡さんに共感を求めてきた出来事もまた、含蓄のあるエピソードです。 また、信仰について語る中で、信仰というものの中に“意地”が入り込むこともあるのではないかというやり取りには、目を引かれました。 知的好奇心を引きずり出すような往復書簡。お薦めです! 【師岡カリーマ・エルサムニー】 1970年生、文筆家。東京で日本人の母とエジプト人の父との間に生まれる。小学生の頃父親の祖国であるエジプトに移り同地で成長。カイロ大学政治経済学部卒業後、ロンドン大学で音楽士を取得、その後日本に。現在執筆活動の傍ら、NHKラジオ日本でアラビア語放送アナウンサーを務め、獨協大学・慶應義塾大学でアラビア語の非常勤講師。 |
「椿宿の辺りに(つばきしゅく)」 ★★ | |
2022年07月
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「 f植物園の巣穴」の姉妹編ストーリィ。 同作で主人公だったのが佐田豊彦、本作の主人公である佐田山幸彦(通称:山彦)からすると、豊彦は母親の大伯父である、という繋がり。 皮膚科学研究所の研究員である佐田山幸彦は三十肩で苦しんでいたところ、やはり身体に痛みを抱えている従妹の海幸比子(通称:海子)から、鍼灸師の<仮縫治療院>を勧められます。 さっそく出向いたところ、院長の妹である亀子(かめし)から、死期間近の祖母=早百合の願いを叶える為、佐田家の出身地である「椿宿」へ行き、お稲荷さんに油揚げを供えることになります。 日本神話の山彦・海彦のもじり、もう一人鮫島宙(そら)山彦の登場、霊感があるらしい亀シと一緒に「椿宿(旧場所名)」へ向かうと、その途中で宙彦の母親=竜子と妻の泰子に出会う。 そしてそれから、山彦と竜子、亀シの3人で椿宿に残る佐田家の古家屋へと向かう、というストーリィ。 主人公である山彦が、海子や亀シ、鮫島母嫁らに翻弄され続けながら進んでいく様子が、その背景に漂う不思議感と相まって、肌触り良くユーモラス。 どういうストーリィなのか、どういう意味があるのか、その点ははっきりつかめないながらも、なんとなくコミカルで楽しさがじわりじわりとこみ上げてくる感あり。そこが本作品の魅力。 冬の雨/従妹・海子、痛みを語る/祖母・早百合の来客/椿宿への道/竜宮/竜子の述懐/椿宿への道・二/宙幸彦の物語/椿宿/潜んでいるもの/先祖の家/画期的な偉業/兄たちと弟たち/塞がれた川/宙幸彦の手紙/宙幸彦への手紙 |
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