村田喜代子作品のページ No.2



11.
人の樹

12.火環
(ひのわ)−八幡炎炎記 完結編−

13.飛族

14.姉の島

【作家歴】、八つの小鍋、龍秘御天歌、あなたと共に逝きましょう、ドンナ・マサヨの悪魔、故郷のわが家、光線、ゆうじょこう、屋根屋、八幡炎炎記、焼野まで

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11.
「人の樹 ★☆


人の樹

2016年09月
潮出版社刊

(1800円+税)



2016/09/26



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樹を擬人化して描く、樹、そして人との物語、という短篇集。

印象的なのは、樹を擬人化して主人公に仕立てたことから、悠久の時間を感じさせられること。
何しろ、人間に比べてはるかに長い時間を生きる樹木ですから、彼らが見る景色は、人間の見る景色とはかなり異なっています。
身体を動かさず、長い時間の視点から他のものを静かに眺めている、一生動き続ける人間の短い時間に比べて何やら魅せられるような気がします。

孤独に一本だけで立ち続ける樹、青年あるいは娘と樹との結婚、突然命を奪われたものの若い芽となって新しい人生を始める樹、人と樹の関わりを描いてユーモラスな篇、様々な樹の人生が描かれます。

前半は樹が主体。そして究極の樹と人間との関わりを描いた
「生の森、死の森」を経て、後半は人間が主体となって樹との関わりを描くという構成。

本書を面白く読めるかどうかは好み次第と思いますが、私としては悠久の時間を少しなりとも味わえた本書、それなりに楽しめました。


※好きな篇は、
「孤独のレッスン」「四月の花婿」「リラの娘」「とむらいの木」「女たちのオークの木」といった辺り。

孤独のレッスン/花嫁の木/四月の花婿/大きな赤いトックリ/草原に並ぶもの/燃える木/リラの娘/さすらう松/逢いに来る男/みちのくの仏たち/生の森、死の森/とむらいの木/弔い花/女たちのオークの木/ナミブの奇想天外/青い蛍の木/ザワ、ザワ、ワサ、ワサ/深い夜の木

               

12.
「火 環(ひのわ)−八幡炎炎記 完結編− ★★


火環

2018年05月
平凡社刊

(1700円+税)



2018/06/19



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戦後の日本、八幡製鐵の城下町として栄えた九州・八幡を舞台にした、自伝的小説という八幡炎炎記の後半。

仕立て職人である
瀬高克美と駆け落ち妻であるミツ江の娘であるは、実は克美の弟の娘。
建具職人の
貴田菊二サト(ミツ江の長姉)夫婦の娘であるヒナ子は、実は娘である百合子(菊二の長兄の娘)の産んだ孫娘。
下宿業兼金貸し業の
江藤辰三トミ江(ミツ江の次姉)が育てているタマエは、辰三が借金のカタとして取った挙げ句に自ら養育せざるをえなくなった娘。

3組の夫婦と、妙な繋がりでその娘として暮らす3人の女の子を主な登場人物として描き出した人間模様、家族模様というストーリィ。
どうもこうもありません、そういう時代、そういう家族の有り様が事実としてあった、本作についてはその一言に尽きます。
率直に言って、戦後昭和の家族史を見るような思いがします。

その一方、ヒナ子が木下恵介監督の「二十四の瞳」や「楢山節考」に感激し、初の怪獣映画「ゴジラ」に興奮、そして新藤兼人監督の「原爆の子」や「裸の島」を見て、中卒ながら映画のシナリオライターになりたいと心を決めるところは、これからいろいろな人生ストーリィが始まることを予感させられ、ちょっとワクワクします。

目の前にある暮らしを生きるしかなかった親たちの時代と、夢を抱くことができるようになった娘たちの時代が、対照的に感じられ、心に残ります。

              

13.
「飛 族(ひぞく) ★★          谷崎潤一郎賞


飛族

2019年03月
文芸春秋

(2000円+税)

2022年01月
文春文庫



2019/04/04



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小さな養生島、多くの住民で賑わったその島も、最高齢だった女性が死んで、今や住民はたったの2人だけ。(※モデルは五島列島の中の小島でしょうか)
その2人というのが、
鰺坂イオ・92歳、金谷ソメ子・88歳で、ともにかなりの高齢。
そんな母親を心配して、できれば自分の家に引き取りたいと、イオの娘である
ウミ子が久しぶりに故郷の島を訪ねてきます。
ウミ子は現在大分県の山の中でヤマメ料理の店を姪夫婦と営んでいます。長男長女は東京と神奈川で暮らしていて、夫も3年前に死去したとあって気楽な身。
という訳で、暫く実家に滞在しているという状況。

そのウミ子自身、もう65歳。若いとは既に言えません。
それでも、イオとソメ子と比べてしまう所為か、ウミ子がやたら若々しく感じられてしまうのが、本ストーリィの可笑しさ。
それどころか、現役海女さながらにソメ子さんがアワビ採りに素潜りし、ウミ子までまだまだ私だってと潜るのですから、幾ら小説とはいえこれって現実か? と呟かざるを得ず。

題名の意味が分からなかったのですが、漁師だった島の男たち、海で死ぬと鳥になって空へと舞い上がり、今も鳥の姿で時々島にやってくる、という考え方から。
鳥踊りを2人で舞っているイオとソメ子、自分たちも鳥になって自由に、という思いがあるのではないでしょうか。

何とか島を出て自分のところにと匂わせるウミ子に対して、イオさんは素っ気ない。さっさと自分の家に帰れ、自分たちはこれまでどおり島で暮らすとその言には揺るぎがありません。
しかし、それは当然だろうなぁ。今更、死ぬことも含めて、怖いことなどないでしょうから。このまま島で一生を終えることこそ本望というのは当然のこと。
母親が心配、自分の処へという考えは、自分が安心したいだけのことなのでしょう。

どんなことがあっても死ぬまで自分の生きて来た島に留まると明言する2人、むしろ我々が元気づけられるような気がします。
老いる心配より、老いてなお最後まで自分らしくあろうとする言動に、勇気づけられる思いがします。(笑顔)

                

14.
「姉の島 ★★


姉の島

2021年06月
朝日新聞出版

(1800円+税)



2021/06/24



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主人公の住む島では、海女が85歳に至ると“倍暦”となり 170歳と数えられるようになるのだとか。

雁来(がんく)ミツル、朋輩の鴫小夜子と共に85歳、いまだ現役の海女、というのだから凄い。そのうえまだまだ元気で、海女として意気盛んな様子です。
自宅では、息子夫婦、孫夫婦と同居の5人家族。孫嫁の
美歌も今はミツルと同じく海女(孫の聖也とは同じ水産大学校卒)。

ミツルたち、後輩海女のためになるようにと、潜った海の海図作りに奮闘中。
その中で、日本の古代天皇の名をつけた
“天皇海山列”(北西太平洋に連なる海山の列)を面白がったり、戦後に沈められた元日本海軍の伊号潜水艦の姿を海底に求めたりと、冒険心も旺盛の様子。
その一方、海中で
“船幽霊”と出会った時の様子が何度も語られるのも面白い。

倍暦になった海女たち、もはや年齢を超越した解放感を手に入れたというか、生死さえも超越したのかと思えるところが、すこぶる気持ち良い。
60代で年寄り気分に浸っていると、笑われてしまうかもしれません。まだまだこれからと、元気を出さなくては。


1.あたしら、このたび百七十歳になったぞ。/2.ああ若いとき、この世は軽く海の水はずっしり重たかった。/3.お尋ね申します。トラック島はどちらでしょうか。/4.ばあちゃん、おれが美歌に結婚せんかと言うたのは天皇海山の波の上じゃった。/5.魚だちよ。この水の下にごっつい鉄の艦(ふね)を見なんだか?/6.水を抜いたら、太平洋の底は見渡すかぎり皺ばかり。/7.赤子が降りてくる、くる。見たらならんど、海女舟のお産は波まかせ。/8.ふたりで、沈没船に線香をあげに行こうか。/9.鯨雲たちは空へ昇っていった。あたしもだいぶ薄うなってきた。おうーい。

    

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