森沢明夫作品のページ


1969年千葉県生、早稲田大学人間科学部卒出版社勤務を経てフリー。2006年「ラストサムライ・片目のチャンピオン武田幸三」にて第17回ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。07年「海を抱いたビー玉」にて作家デビュー。


1.青森ドロップキッカーズ

2.虹の岬の喫茶店

3.ミーコの宝箱

4.ヒカルの卵

5.たまちゃんのおつかい便

6.おいしくて泣くとき

7.青い孤島

8.本が紡いだ五つの奇跡

  


    

1.

●「青森ドロップキッカーズ」● ★★


青森ドロップキッカーズ画像

2010年02月
小学館刊
(1500円+税)

2014年01月
小学館文庫


2010/03/07


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青森が舞台、そして題材は氷上のスポーツ=カーリング
バンクーバー・オリンピックでチーム青森の活躍に期待が集まったところですが、読むのがオリンピック閉幕後のなったのはちと残念だったかもしれません。その前に本書を読んでいたら、カーリングのルールが良く判ったのに。

主人公は、競技会での優勝を目指す柚香(ゆうか)・陽香(はるか)沢井姉妹と、学校で執拗なイジメにあっている中学生=苗場宏海(ひろみ)+その幼馴染である工藤雄大
他県から有望選手をスカウトしてカーリングの強力チームを組成するという方針に従う沢井姉妹は、それ故に幾つもの試練に見舞われ苦しむことになります。
それと対照的に、沢井姉妹が指導員として加わるカーリング体験講習会に参加した宏海は、カーリングに魅力を知って先への希望を見出し、結果的にイジメから脱却することになる。

勝ち負けに主眼を置いた勝負ストーリィではなく、カーリングという競技を通して未来への希望をつかみ取り、そのカーリング精神を知ることによって成長していく4人の姿を描く、青春+成長ストーリィ。
3つのカーリング精神が、建前ではなく、後半ストーリィの中に生かされていることによって感動的な場面を呼び起こしてくれます。
健全で爽快、気持ちの良いスポーツ小説。私好みです。

          

2.

●「虹の岬の喫茶店」● 


虹の岬の喫茶店画像

2011年06月
幻冬舎刊
(1500円+税)

2013年11月
幻冬舎文庫化


2011/10/10


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岬の突端にある喫茶店、岬カフェ
そこでは案内してくれる白い犬と、オーナーである初老の女性が穏やかに客を迎え、美味しいコーヒーと、そこを訪れた人の気持ちに相応しい音楽を供してくれます。
妻を病気で亡くしたばかりの陶芸家と4歳の娘、就職活動に心が疲れ切った青年、事業に失敗して家庭も仕事も全て失って泥棒に入った中年男等々、その店を訪れるのは疲れた心を抱える人ばかり。
偶然入ったこの店で彼らは一時の安らぎを得、そして自分の進むべき道を見出して新たな一歩を踏み出して行く、という連作短篇集。

思いがけない場所、窓からは美しい眺望、そこに美味しいコーヒーと、耳に気持ちの良いBGM。
本書に描かれる岬カフェは、そんな店に行き当たったら素敵だなぁと思うような喫茶店でしょう。
気持ちの良いストーリィ。でもあっさりし過ぎているところもあって、余韻が少ないように感じます。そこが惜しまれる点。
 

<春>アメイジング・グレイス/<夏>ガールズ・オン・ザ・ビーチ/<秋>ザ・プレイヤー/<冬>ラヴ・ミー・テンダー/<春>サンキュー・フォー・ザ・ミュージック/<夏>岬の風と波の音

         

3.

「ミーコの宝箱」 ★★☆


ミーコの宝箱画像

2013年09月
光文社刊

(1500円+税)

2016年03月
光文社文庫化



2013/10/15



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主人公ミーコは生まれて直ぐ両親に見捨てられ、父方の祖父母に育てられた女性。彼女が祖父から教えられずっと守ってきたことは、毎日「小さな宝物」を探すこと。
頼れる身寄りもなく都会で孤独に生きながら、娘の
チーコを懸命に愛し続けてきた一人の女性の半生を、その祖父、同級生、教師、恋人、風俗経営者、娘のチーコの視点から描いた連作形式の長編小説。

祖父は優しかったものの、祖母の躾けの厳しさは虐待といってもおかしくないもの。そんな祖父母の元から一人で世間に出ていき、そしてシングルマザーとなったミーコの苦労は並大抵のものではなかったことでしょう。
そしてそれは架空の物語ではなく、現代社会ではもはや数多くある女性たちの姿ではないかと思います。そんな境遇に於いて、そんな境遇だからこそと言えますが、ミーコの一人娘チーコに対する愛情はとても大きくて深い。
ミーコと関わった人たちの視点からミーコという女性の姿を描くという本作品の構図は絶妙なものがあります。

毎日小さな宝物を探す、それはE・ポーター「少女パレアナの“何にでも喜びを見つけるゲーム”と似たところがあります。しかし、状況の厳しさと現実性は本作品の方がはるかに上回り、最後は胸が詰まるような感動を覚えます。

一人の女性の半生記であると当時に、ひとつひとつのストーリィでは学園小説、成長小説、青春小説、親子小説といった面も備えており、感動と共に面白さもたっぷりです。お薦め。

ミーコとナベちゃん/神原泰三とシリウス/下山久美とビー玉/井川奈々とアロマポット/浅利文也とマフラー/黒木竜介とハンチング/チーコと工芸茶

            

4.

「ヒカルの卵」 ★★


ヒカルの卵画像

2013年10月
徳間書店刊

(1500円+税)



2013/11/12



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限界集落のひとつ=蛍原集落で養鶏場を営む“ムーさん”こと村田二郎
突然、山の中に小屋を建てて“
卵かけご飯専門店”を開く、しかも父親が苦労して作り上げた養鶏場を担保に銀行から借金して、と言い出したものですから、ムーさんの幼馴染=臼山大吉は猛反対して絶交。
集落で唯一の居酒屋トミ子を老母と一緒に営む、やはり幼馴染の
中村直子もムーさんの計画を心配しますが、ムーさんは走り出したら止まらない。集落に移り住んできた若手陶芸家志望のワカメくんこと若部剛に卵かけご飯専用の丼を発注し、計画はどんどん実現に向かって進んでいきます。
限界集落のさらに山の中、その手前には吊り橋というおよそ人里離れた場所に開いたムーさんの店、果たして成功するのか、それとも失敗するのやら、というストーリィ。

言うまでもなく本書、村おこし小説のひとつです。
子供の頃から無欲、無垢、損得より善悪で行動してしまうというムーさんを、皆がハラハラ見守りながらもどこか応援している様子が微笑ましい。
どこか呑気でお人好し、そんなムーさんのキャラクターが楽しい他、集落の住民たち一人一人も個性的。そんな住民たちが交錯して成り立つストーリィですから、楽しいことしきりです。
村おこし小説の多くは大勢が主役となりますが、本書はムーさんが一人で勝手に走り出してしまった活動ですから、皆でという難しさがない分、伸び伸びとした気分が味わえます。もちろんムーさんのキャラクターに乗せられている面も否定できませんが。

本書中、幾つか良いセリフが登場しますが、その中の一つに「幸福と裕福は別のもの」という言葉があります。その言葉が実感として持てるのは、本書を読んでからでしょう。
田舎のさらに山の中、良い空気を精一杯吸った気分がする、気持ち良くそしてたっぷり楽しいエンターテイメント。楽しい小説がお好きな方にお薦めです。
※なお、卵かけご飯の専門店、モデルとなった店が実際にあるそうです。

1.卵ブーメラン/2.傷つかない心/3.ヒカルの卵/4.商売の神髄/5.魔法の醤油/6.真夏の転機/7.屈託なき笑顔/8.男と男の約束/9.ボーイ・ハント/10.エピローグ/あとがき

     

5.
「たまちゃんのおつかい便 ★★


たまちゃんのおつかい便

2016年06月
実業之日本社
(1600円+税)



2016/07/01



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葉山珠美20歳、東京の大学に退学届を出し、故郷の青羽町に戻ってきます。
理由は、大好きな静子ばあちゃんをはじめ、買い物難民となったおばあちゃんたちのために
“おつかい便”(=移動販売)を起業しようと決心したから。

珠美の母親は12歳の時に事故死、“居酒屋たなぼた”を営む父親は既に
シャーリーンというフィリッピーナ39歳と再婚済。
そのシャーリーン、明るい性格で頑張り屋。しかし、日本人の感覚とちょっと違うその言動に、珠美はつい苛ついてしまうことが度々。
そんな3人の他に、母方の祖母=
静子、珠美の幼馴染で実家の自動車整備業を継いでいる常田壮介、現在引きこもり中の同級生=松山真紀らが絡み合いながら展開していくストーリィ。

俯瞰してみると、これからいろいろなことに挑戦していこうとしている珠美や壮介、真紀の世代に、それなりに自分の人生を築き上げてきた父親やシャーリーンら親世代、人生の終盤に至っている静子婆ちゃんや
千代子ばあたち老人世代と、世代と世代を繋ぐストーリィとなっているところが嬉しい。

皆、それぞれに悩みや不安を抱えているけれど、現在を精一杯生きているという思いがストーリィに充満しているように感じられます。
静子婆ちゃんも父親の
正太郎もシャーリーンも、若い人たちに対する人生の先達として見事な人生観を示してくれます。
また本書中、もっとも魅力的な人物はというと、私は珠美の祖母である静子ばあちゃんを挙げたい。
ストーリィの終盤、帰宅する珠美を見送ってひとり残った静子ばあちゃんを描く情景が実にお見事。私自身もこうありたいもの、と心から思います。

軽快で、人と人の結びつきを大切に描いた、気持の良い長編ストーリィです。


1.血のつながり/2.ふろふき大根/3.涙雨に濡れちゃう/4.秘密の写真を見つけた/5.まだ、生きたい/6.かたつむり

        

6.

「おいしくて泣くとき ★★


おいしくて泣くとき

2020年06月
角川春樹
事務所

(1600円+税)



2020/07/24



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きちんとした食事をとれない子供たちのために食事を無償で提供する“子ども飯”を題材としたストーリィ。

長編ストーリィですが、3人の主人公の視点から、同時並行で綴られていくという構成です。
一人は
風間心也、中三。小三の時に母親を亡くしており、父親と2人暮らし。父親は「大衆食堂かざま」を営んでいて、子ども飯を提供しています。
もう一人は、
新井夕花。心也とは幼馴染で同級生。学業優秀な女子ですが、同級女子たちからイジメに遭っていて孤独。義弟の幸太と共に時々「かざま」で子ども飯を食べています。

三人目の主人公は、
ゆり子。「マスター」の夫と「カフェレストラン・ミナミ」を営んでおり、<子ども食堂サービス>を行っています。
心也と夕花の関係は分かりますが、ゆり子は2人と何か関係があるのかないのか。そこが興味処ですが、それは最後のお楽しみ。

怪我でサッカー部を退部した心也、イジメで孤立している夕花、共に放課後の時間を持て余していることから、夕花からの提案で「ひま部」を結成。
ただそれは、夕花が家に帰りたくないという事情があるから。3人の中で一番辛い状況にあるのは夕花であり、心也はその目撃者という立場です。
夏休み、夕花と心也は思い切った行動に出ます。それは・・・。

それぞれ辛い状況にあった主人公たち、でも最後は気持ち良い感動を覚えるストーリィに終わる、というパターンは森沢さん本来のものでしょう。
しかし、本作では<子ども飯>が重要なポイントだと思います。
そのサービスを行っている飲食店側の苦労、その一方で、そのサービスに救われている子供たちが多くいること。。
そうした現実を知らしめて、理解と協力を広く訴える、その意味は大きいと思います。

なお、結末が爽快。まさに私の好きな大団円です。


プロローグ/1.夏のトンボ/2.台風がくる/3.孤独のライオン/4.わたしのヒーロー/5.さよなら、そして・・・/エピローグ

        

7.

「青い孤島 Blue Isolated Island ★★☆


青い孤島

2021年03月
双葉社

(1700円+税)



2021/04/11



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勤務先で無能と決めつけられ、離島行を命じられた主人公。
派遣先は青く美しい海に囲まれた美景満載の島・・・でも他に何もなし。住民たった 199人のその島で繰り広げられる深刻な東西対立・・・。楽しみ処満載のお仕事&問題解決ストーリィ。

主人公は7年間務めてきた小さな広告・イベント制作会社で、社長から「使えない奴」と決めつけられ、助成金をかっさらって来いと離島に島流しされた
小島佑(たすく)、30歳
その
小鬼ヶ島は、七丈島からフェリーで更に3時間。船を降り立ったのは、佑と船中で知り合った27歳の美女“るいるい”こと粟野留美(居酒屋で働く予定)の2人だけ。

さっそく佑、村長の息子ながら訳ありの
枝野翔・22歳に案内され3日間、島を巡るのですが、とにかく圧倒されたのはオーシャンビューの美しさ。
一方、住民の少ないこの島で、西(漁業が主)と東(農業が主)で深刻な対立が長年に渡り続いていることを気づかされます。
その代表的な被害者が、翔とその恋人。まさに
「ロミオとジュリエット」の世界です。

その島でついに、社長の強欲と佑の無能評価がバレてしまい、東西両陣営からはじき出されてしまった佑、るいるいが結成した
<地球防衛軍>らと共に起死回生は成るのか!?

主人公の再生&離島の活性化策という点では
加納朋子「二百十番館にようこそを思い出しますが、やはり別の物語。
前半は、観光案内されて島を巡る楽しさが味わえますし、後半では佑の起死回生をかけた逆転劇が楽しめるという構成。
ところが、計画とは全く別の方向へ事態が転がり出す、という展開へ。この部分ではもう、佑と読者が一体化してハラハラドキドキを満喫させられます。
愉快なのは、そのお告げはよく当たるという評判の小鬼ヶ島神社の“椿姫”という存在でしょう。中々に曲者です。

物語の面白さをたっぷり堪能できる 400頁余。
最後も締めも、驚きがあって痛快、そして爽快です。
※離島には離島の良さがあり、という声が聴こえてきそうです。

1.泣きの西、笑いの東/2.地球防衛軍、結成/3.マジックショップ/4.人生はゲーム/5.心までイケメン/6.金色の天女/7.僕の気持ち、伝われ/8.宝の地図

           

8.

「本が紡いだ五つの奇跡 ★★   




2021年09月
講談社

(1700円+税)



2021/10/06



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出来上がっている本を鍵とする連作と思いきや、一つの小説本を作るところから始まるストーリィでした。

第1章は、自分に自信が持てていない女性編集者=津山奈緒が、かつて自分を救ってくれた小説と同じ方向の作品を書いてもらいたいと、拒絶姿勢の作家に立ち向かっていきます。
第2章は、ミステリ本で家族を養おうとしたが失敗し、離婚もされた小説家側。真正面からぶつかってくる津山に突き動かされ、ある思いを伝えるため、新しい作品に挑むことを決意します。
第3章は、出来上がった小説の装丁デザインを依頼された、今は大御所と呼ばれるデザイナー。実は余命僅か。新作小説に感動させられ、最後の仕事として受けることを決めます。

第4章は、売る側。大学生で書店バイトの白川心美が主人公。以前から気になっていた来店客の青年=唐田健太郎と、あることが切っ掛けで話すようになるのですが、さらにそれを深めてくれたのが、新作小説の中に登場する言葉。
第5章は、健太郎の父親である唐田一成。10年前に妻が死去、海辺の町で今は一人、美容院を続けています。その元に久しぶりに健太郎が返ってきます。息子がプレゼントしてくれた新作小説を気になっている女性に贈ろうとしたのですが、そこに何と奇跡的な出来事が。

それぞれの主人公たちに、新しい時間が動き出す始まりを描いたストーリィ。最終章の海辺の風がさらに心地良さを盛り上げてくれています。
そして楽しいのは、第1章から第3章における、担当編集者である津山と作家の涼元とのやりとり。読み返してもおかしい。
第4章と第5章は若者、そして中年男女の恋愛篇。爽やかです。


1.編集者−津山奈緒/2.小説家−涼元マサミ/3.ブックデザイナー−青山哲也/4.書店員−白川心美/5.読者−唐田一成

     


  

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