宮崎誉子
(たかこ)作品のページ


1972年千葉県生。98年「世界の終わり」にて第3回リトルモア・ストリートノベル大賞を受賞。04年「POPザウルス(A面)」にて第30回川端康成文学賞候補、06年「少女@ロボット」にて三島由紀夫賞候補となる。


1.
少女@ロボット

2.派遣ちゃん

3.水田マリのわだかまり

 


   

1.

●「少女@ロボット」● 


少女@ロボット

2006年02月
新潮社刊

(1400円+税)



2006/06/25



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フリーターの女の子等を主人公にした、ポップな作品集。
うーん・・・正直言って、ついていけてなーい。

求人募集に出かけると殆どは実質エステ商品の押しつけ販売だったり、おはぎや肉まんを売る相方は人を底意地の悪いベテラン社員だったり、セクハラ院長の下での歯科助手勤め。「A面」「B面」は共にイジメられ子で臭い故にスカント呼ばわりされている高校生が登場。「子供ダヨ!全員集合」では小憎たらしい子供たちの相手をしなくてはならない教師も辛い。
ベテランOLなら大丈夫かと思えば、有名私大を卒業している割りにまともに仕事もできない新人OLに苦労させられる。
普通に生きていくこともシンドイやと思わされる話ばかりが、ポップな文体でスピーディに展開されていきます。

ダジャレみたいな会話が多くてシェイクスピア「間違いの喜劇」を思い出してしまったのですが、気をつけて読んでみれば会話がすれ違っているのが判ります。
言葉は人と人を繋ぐもの。それなのに言葉が繋がっていない、すれ違っている、しかもそれがこのシンドイ世間での処世術みたいに扱われているのですから、何ともはや、怖ろしくなると言ったら良いのか、呆然としてしまうと言う方がふさわしいのか。

クローバー/秋彼岸/マウスピース/少女ロボット(A面)/少女ロボット(B面)/子供だヨ!全員集合/ロッカールーム/魚眼レンズ/プライドリル

    

2.

●「派遣ちゃん」● ★★


派遣ちゃん

2009年02月
新潮社刊
(1300円+税)



2009/03/20



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今やとかく話題となりがちな派遣社員への関心、少女@ロボットで今一つ宮崎作品をつかみ切れなかったという思いから、再度挑戦というつもりで読んだ一冊。そしてこれは正解。

まず「青瓢箪」
主人公の水野みゆきが派遣会社の担当者に連れられ、依頼してきた会社へ面接に出向く場面が幾つか描かれます。
いやはやこれがかなりシビアなもの。就職面接より遥かにシビアなものではないか。派遣会社に登録して派遣社員として働くという立場の厳しさがビシビシ伝わってきます。
そこにあるのは“物”に対する評価、だから面接される自分も派遣社員という商品であることに徹する。
お気楽な気分で働く若い女性というイメージで読み始めたのですが、主人公のみゆき、精神的にもタフで見事に自分をコントロールしている、そのうえ仕事面でも相当に有能そうです。
作家になると広言し、母親に甘やかされたまま家に引きこもり、職歴ナシ・受賞歴ナシで威張っているその兄と比べ、一見軽そうに振る舞いながら、本性はどれだけ逞しいことか。
自分をコントロールし切っているからこそ生まれると思う、打てば響くような会話での言葉の数々。
時にロボットの如き派遣社員を演じ、時に素直な妹を演じ、そしてごく稀に本音をぶちかましてみせる、主人公のみゆきが駆使してみせる言葉、会話が実に小気味良くて、魅力。
題名、表紙雰囲気の軽やかさに油断してはなりません。派遣社員のドキュメンタリーとも言うべきストーリィ、リズム感ある会話で綴っていく展開、鮮やかです。

「欠落」は「青瓢箪」と同じく派遣社員を描きながら、主人公を初めて派遣社員の仕事に挑む若い男性とした点で対照的。
主人公の鳩山太一、コールセンターのスタッフに応募し、他は女性ばかりの中で唯一人の男性として真面目に孤軍奮闘している観がありますが、次第に派遣社員経験豊富な女性スタッフと比べると、余裕のなさ、したたかさの不足が露わになっていくというストーリィ。したたかさという点で、男性は女性の足許にも及ばないのかなァ。

派遣社員という仕事が全て上記のようであるかどうかは判りませんが、社員という安全な世界にいるのと違って、自分一人の能力で世渡りしていくという覚悟をもった派遣社員たちの姿を描いた本ストーリィ、リアルで、すこぶる面白い。
なお、作者の宮崎さん自身、小説を書きながら今も派遣社員として働いているのだそうです。

青瓢箪/欠落

               

3.
「水田マリのわだかまり ★★


水田マリのわだかまり

2018年02月
新潮社刊

(1500円+税)



2018/03/23



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「水田マリのわだかまり」を読み始めてすぐ連想したのは、小林多喜二「蟹工船」(スミマセン、読んだことありません)。
ですから本作について思ったのは、これって現代日本社会におけるプロレタリア文学じゃない?っていうこと。

主人公の
水田マリ、母親は新興宗教に入り込んでマリの学費保険まで解約、父親は競馬好きで若い娘と出奔。そんな状況からか、マリはせっかく入学したばかりの高校を3日で辞め、祖父が5年前まで働いていた洗剤工場で働き始めます。
これが、うゎーッ、凄いリアル。次々と持ち場を変えられ、ベテランおばさんたちの無茶苦茶な敵視、ベテラン社員の押しつけに囲まれながら、という容赦ない労働環境。それでも怒りを溜めずに、マリはマジメに働く。
これに較べたら、他のことをした方が、例えば高校に復学するとか、そうした方がどれだけ楽か、と思ってしまいます。
一方、日本に出稼ぎに来ている外国人女性たちの何と逞しいことか。
リアルな現実がここにあり、というストーリィです。
(※ひらがなで書くと「みずたまり」、主人公の名前にも含みがありそうです。)

「笑う門には老い来たる」は、父親が認知症を患い、同居する母親の身を案じながら、学校でのイジメが原因か懸賞応募に熱中する娘に苦労する、主婦の姿を描いた作品。
親と子に挟まれた世代として大変だなぁと思うものの、これまでの経験を踏まえた逞しさを感じるところ、多々あります。
これまた、現代日本社会ではごく普通の光景ではないかと思います。
その点で、本篇もリアルな現実を描いたストーリィ。

そんな現実に落ち込んでしまうのか、それとも開き直って前を向くのか、それは各人次第と思わされます。

両篇とも、からっと突き抜けた明るさあり、と感じます。

水田マリのわだかまり/笑う門には老い来たる

  


   

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