宮下奈都
(なつ)作品のページ No.1


1967年福井県生、上智大学文学部哲学科卒。2004年「静かな雨」にて文学界新人賞佳作に入選し作家デビュー。「羊と鋼の森」にて2016年本屋大賞を受賞。


1.
スコーレNo.4

2.遠くの声に耳を澄ませて

3.よろこびの歌

4.太陽のパスタ、豆のスープ

5.田舎の紳士服店のモデルの妻

6.メロディ・フェア

7.誰かが足りない

8.窓の向こうのガーシュウィン

9.つむじダブル

10.終わらない歌


はじめからその話をすればよかった、ふたつのしるし、たったそれだけ、神さまたちの遊ぶ庭、羊と鋼の森、静かな雨、つぼみ、緑の庭で寝ころんで

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1.

●「スコーレNo.4」● ★★☆


スコーレNo.4画像

2007年01月
光文社刊
(1600円+税)

2009年11月
光文社文庫化



2007/03/15



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本書は、ごく平凡な女の子の中学生の頃から始まり、高校・大学を経て社会に出、恋することを知るまでを描いた長篇小説です。

主人公は古道具店を営む父親の元に生まれた三人姉妹の長女、津川麻子
ストーリィは4つの章から構成されていますが、まずは家族である父母、祖母、妹たちのことが描かれ、男の子のことがちょっと好きになったりする中学生の頃が描かれます。
次いで従兄と映画を観に行くことを楽しんだ高校生の頃、大学から〜就職したばかりの試練の頃、そして仕事を覚えて恋もするまでが、順を追って丹念に描かれていきます。
主人公は、18ヵ月年下の妹・七葉(なのは)ととても仲が良いが、誰から見ても可愛くて機転の利く七葉と比べ、自分は可愛くもなく人の目を惹かない存在とずっと思い込んで育ちます。
その所為か、麻子はいつも自信無げであるし、ちょっとした問題を投げかけられると否定的に考えてしまうのが常。その分ごくフツーの女の子という印象です。
読み易く麻子に親近感を抱くものの、そのどこに小説としての魅力があるのかと、途中不思議に思ったくらい。
しかし、本書の魅力を感じたのはその後、第3章からでした。
実家や学生寮、妹たちから離れ、仕事上の試練も経て、初めて麻子は自分も他人から評価され得ることを知ります。それからの麻子は、まさに蛹から孵った蝶のように瑞々しさが溢れます。
仕事において麻子が成長していく姿、その部分だけでも充分読み応えがあり。

ごくフツーの女の子が成長して自分に自信を持つことができるようになり、仕事に喜びを覚えさらに恋も知るというストーリィ。その意味で、とても健やかな作品ということができます。
本作品が素晴らしいのは、麻子が成長する過程で知った迷い、葛藤、胸の内へ大切にしまい込んだ言葉等が、成長した麻子の中で見事に結実しているところにあります。
麻子が今あるのは彼女を育てた家庭のおかげであり、それを自覚するからこそ麻子と家族の絆が改めて蘇ります。
その意味では、本書は麻子の成長小説であると同時に家族小説でもあるのです。
身も心も美しく成長を遂げた主人公・麻子の姿が何とも魅力的。本書はとても気持ちの良い作品です。

※「スコーレ」とはギリシャ語で「学校」の意味だそうです。

  

2.

●「遠くの声に耳を澄ませて」● ★★


遠くの声に耳を澄ませて画像

2009年03月
新潮社刊
(1400円+税)

2012年03月
新潮文庫化



2009/04/20



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スコーレNo.4で魅了された宮下奈都さんの、楽しみにしていた2冊目。今回は短篇集。

「遠くの声に耳を澄ませて」という表題、イメージ的なところからつけられた題名かなと感じましたが、読み終わってみるとその題名の適格さ、本短篇集の題名としてのふさわしさが納得できます。本短篇集のテーマをそのままに言い表していると言って良いでしょう。
ふと聞こえるささやかな声。その声を大事にすることの大切さを感じさせてくれるストーリィ。
チャンスと言っていいのかもしれない。ふと聞こえたその声に、自分の内なる本心を気づかされて、つかみ損なうことなく自分の進むべき道を確かにつかみ取る、という展開。
決して大きな人生の岐路という訳ではありません。小さな決断に過ぎないのかもしれません。でもそんな兆しを大切にする心の在り方が好ましい、美しい。
そこには自分を信じる前向きな姿勢が、歩み出すその先に希望があることの確信を感じ取れるから。
人生とは決して勝ち負けではない。それよりもっと大切なものがあるのではないか、本書はそう感じさせてくれます。
凛々しく、気品のある短篇集。私は好きです。

なお、本短篇集で特筆しておきたいことは、幾人もの主人公が恋人より友人を選び取っていること。そのことがとても清々しく感じられます。
また、連作という程ではありませんが、幾つもの篇で前に登場した人物の名前が上がります。どんな繋がりか、その点に頭をひねってみることも楽しいところ。
最後の2篇=「白い足袋」「夕焼けの犬」は、前の篇に登場した人物のその後を描いた篇。不器用かもしれない、損をしているかもしれないけれど、それで良いではないですか。それが自分らしい生き方であるのなら。
忘れ難い一篇「アンデスの声」で始まり、一人一人の生き方を肯定するような気持ちの良い2篇で最後を締める。読後感はとても爽やかです。

アンデスの声/転がる小石/どこにでも猫がいる/秋の転校生/うなぎを追いかけた男/部屋から始まった/初めての雪/足の速いおじさん/クックブックの五日間/ミルクティー/白い足袋/夕焼けの犬

  

3.

●「よろこびの歌 Una bella Madonna」● ★★☆


よろこびの歌画像

2009年10月
実業之日本社
(1300円+税)

2012年10月
実業之日本社文庫



2009/11/20



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実業之日本社のアンソロジーRe-bornで、既に冒頭の「よろこびの歌」を読んでいました。
有名なヴァイオリニストの娘にして音大の附属高校を目指していた御木元玲が主人公。ところが思いもよらなかったことに、受験に失敗し、音楽科のない新設の私立明泉女子高等学校へ進学することになる。
同級生に打ち解けようとしない玲に、音楽に対する新しい目を開かせたのは、同級生たちとのある出来事。
その篇を皮切りに、同級生たち一人一人が胸に抱える思いと、彼女たちが新たな一歩を踏み出す転機を書き綴った、連作短篇集。

女子高校生たち一人一人を描きながら、合わせて彼女たちが交わり合って、同じクラスの同級生として溶け合っていく姿を描いているところが、本書の素晴らしさ。
冒頭の「よろこびの歌」で、玲たちクラスは校内の合唱コンクールで散々な姿をさらしてしまうのですが、担任である若い音楽教師にけしかけられ、卒業式でリベンジすることになります。曲はコンクールの時と同じ“麗しのマドンナ”
一人一人が個性を発揮しながら、その一方でお互いの良さを感じ取りながら一つにまとまっていく様子は、練習を重ねてハーモニーが揃っていくのに似ています。
これは、高校時代ならではの良さでしょう。

各篇の主人公たちが心を合わせ、一つの歌を歌い、ハーモニーを高めていく、そこが素敵です。
これから花開いていこうとする彼女たちが、あの頃が愛おしい、高校2年生の日々。
純粋で健やかで清々しく、まさに私好みの青春連作短篇集。

※なお、各篇の題名はザ・ハイロウズの、7つの歌のタイトルを借りたものだそうです。

よろこびの歌(do-12月1日-御木元玲)/カレーうどん(re-12月22日-原千夏)/No.1(mi-1月13日-中溝早希)/サンダーロード(fa-1月27日-牧野史香)/バームクーヘン(sol-2月19日-里中佳子)/夏なんだな(la-2月26日-佐々木ひかり)/千年メダル(si-3月4日-御木元玲)

   

4.

●「太陽のパスタ、豆のスープ」● ★★


太陽のパスタ、豆のスープ画像

2010年01月
集英社刊
(1400円+税)

2013年01月
集英社文庫化



2010/03/26



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結婚式の2ヶ月前、突然相手から婚約破棄を言い渡された明日羽(あすわ)、余りのことに大ショック、泣き続け。
そんな明日羽に変わり者の叔母=ロッカ(六花)は、「やりたいことや、楽しそうなこと、ほしいもの」を全部書き出してみろという。これ即ち「明日へのリスト」とか。
そのひとつずつを自分で叶えていくところから、明日が始まる、ということらしい。

何故結婚したかったのか、そのこと自体、まるで判っていなかったことに明日羽は気づきます。
リストに書き上げたのはどれも些細な事柄。でもそれらのことにきちんと目を向け実際にやってみることによって、明日羽は今まで自分がひどく鈍感だったこと、一つ一つのことが多くのことに繋がっていくことに気づきます。
平凡な女の子の、平凡な日常生活を描いた、ごく大人しめのストーリィ。
あっさりしているけれど、じわじわっと伝わってくるものがあります。
明日羽、何と多くの人々に愛され、見守られてきたことか。
女性の人生は結婚が全てではないのです。まず身の回りに目を向け、自分が何をしたいのか考えてみる。そうすれば、幾らでも幸せなことは見つかる筈、そんなメッセージが伝わってくるストーリィです。
主人公の明日羽について良いなと思うことは、婚約破棄した相手をいつまでも恨むことなく、最後には感謝の気持ちを抱くこと。

本書に物足りなさを感じる読者もいるかもしれませんが、私は十分満足。その理由は、宮下奈都作品のファン、だからこそかもしれません。
ごく平凡な女の子の、清新な再生、成長ストーリィ。

            

5.

●「田舎の紳士服店のモデルの妻」● ★★


田舎の紳士服店のモデルの妻画像

2010年10月
文芸春秋刊
(1333円+税)

2013年06月
文春文庫化



2010/11/17



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題名からどんなストーリィだろう?と推測するのはいつものことですが、時にして見当がつかない、ということがあります。
本書の題名もまたその一つ。「モデルの妻」というのだから良い話か、いやいや「田舎の紳士服店」だから順調に幸せという話である訳がない、のか。

輝いている男性というところに惹かれて結婚した夫が、何と知らぬ間にうつ病。その上、退職して故郷の田舎に移り住みたいと突然言い出す。
東京生まれ、東京育ちである主人公=
梨々子は、否応もないまま2人の幼い息子と共に夫について北陸の、何もない町へ。
その際に主婦仲間から餞別にもらったのが、10年分書けるという分厚い日記帳。
それから2年毎、計6章構成にて、田舎の町で暮らす梨々子と息子たち、夫との10年間を書き綴った長篇小説。

主人公の梨々子は、地道な、ごく普通の主婦であり、母親。
うつ病の夫とは気持ちがうまく繋がらず、長男・次男はいずれも少しばかり問題を抱えているようだ。主婦、母親である前に女性であると訴えたくても、まず主婦、母親であることが求められます。その前にまず、自分自身が自分の居るべき位置をみつけられないでいる。慣れ親しんだ東京から、何もない田舎に移り住んだことから、それらの鬱屈が尚のことクローズアップされる、という次第。
主婦・母親になったごく普通の女性が、自分の居場所と折り合いをつけるまでの、模索&成長ストーリィ。

家庭に入り、子育てに追われる女性なら、皆こうした思いを抱えながら日々を送ってきたのかもしれません。その意味で本書は、男性より、女性こそが味わえる作品と思います。 

             

6.

●「メロディ・フェア」● ★★


メロディ・フェア画像

2011年01月
ポプラ社刊
(1400円+税)

2013年04月
ポプラ文庫化



2011/02/03



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主人公の小宮山結乃(よしの)、大学卒業後故郷の実家に戻り、化粧品会社のカウンター販売員(ビューティパートナーと言うらしい)。
人がきれいなる、そのお手伝いをしたい、というのが結乃の望み。でも、現実は厳しい。大手化粧品会社には就職できず、しかも配属されたのはデパートではなく郊外にあるショッピングモール内の店舗。
そのうえ、結乃にはちっともお客がつかない、という状況。
そして仕事のことだけでなく結乃には、ずっと実家で暮らしてきた妹との間に大きな確執があるらしい。

そんな状況の中、気づかないくらいゆっくりとした足取りかもしれませんが、一歩一歩、少しずつ、結乃が前に向って歩んでいくストーリィ。
美容部員という仕事も、妹との和解も、要は人と繋がろうとし、繋がることができて、初めて結果を得られることではないかと思います。
答えがすぐ見つからなくても、ほんの僅かであっても、少しでも前進しようと、真摯に仕事や人間関係に向かい合おうとする結乃の心の在り様が、とても清々しい。
仕事を通じて自分という人間を見出していく部分は
スコーレNo.4の後半部分を彷彿させます。

清らかで愛らしい、お仕事&成長小説。清々しい物語がお好きな方に、お薦めです。


※題名の「メロディ・フェア」は、かつてのヒット映画の主題歌名。本ストーリィの舞台となるショッピングモールで、閉店近くなると流れる曲ですが、何やら示唆的です。

              

7.

●「誰かが足りない」● ★★


誰かが足りない画像

2011年10月
双葉社刊
(1200円+税)



2011/11/03



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予約を取ることも難しいという、評判のレストラン“ハライ”。
テーブルについてメニュウを開く。時間は午後 5時47分。約束の時間まであと10分余。
店内を見渡すと、予約されている筈の席に空席がある。誰かが足りないのだ。

評判のレストランを鍵とするストーリィと聞いて、
小川糸「食堂かたつむりのようにレストランに集った人々の物語かと思ったのですが、あにはからんや。レストランは主舞台にはならず、ハライに予約を入れるまでのドラマを描いた連作短篇集。
誰かが足りないというシチュエーション、順調とはとてもいえない主人公たちの状況。うら寂しい気持ちがついしてしまうのですが、読み進んでいくとそこはやはり宮下奈都さん、静かな味わいがあって、いいなぁ。

各篇で主人公となるのは、希望を失ったフリーター青年、認知症の始まった老女、仕事に追われるOL、ヒキコモリでビデオカメラを通してしか人と向き合えないでいる青年、オムレツ係の青年、失敗の匂いを嗅ぎつけてしまう女性。
読んでいく内に次第に感じます、待つことのできる相手がいること、来るべき人を待つこと、それだけでも幸せなことではないかと。
そんな細やかな幸せもあるということをメッセージとして伝えてくれる、味わいある短篇集。
とくに
「予約4」「予約6」が私は好きです。

プロローグ/予約1/予約2/予約3/予約4/予約5/予約6

                 

8.

●「窓の向こうのガーシュウィン」● ★★


窓の向こうのガーシュウィン画像

2012年05月
集英社刊
(1400円+税)

2015年05月
集英社文庫化



2012/06/12



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ごく普通の長篇小説ですけれど、内容からすると小さな物語、だと思います。

主人公は
佐古さんという19歳の女性。未熟児で生まれたのに両親が保育器に入れるのを断ったため、脳が十分育たなかったと思っている。
雑音が入って人の言うことが最後まで聞き取れない。また、それは自分が口に出す言葉も同じ。
高校を卒業して就職したものの、その会社がすぐ倒産して、訪問ヘルパーの仕事に就く。
しかし、人の言葉を聞き取ることができないため訪問先からすぐクビにされ、続けることが出来ているのは
横江先生と呼ばれる老人の家のみ。
しかし、佐古さんはその家で、息子さんが請け負っているらしい額装の仕事に出会い、その仕事を手伝うようになります。
 
額装によって生まれる向こう側の景色。いつしか佐古さんは自分の思いをきちんと言葉に出すことができる、自分を伝えることができるようになります。
登場するのは、佐古さんと横江先生、その息子さん、孫の
の他には佐古さんの父親といった程度。
やたら能力主義という言葉を振りかざして人を切り捨てていく現代日本社会の中で、佐古さんという女性がありのままの姿で生きている姿にホッとさせられる思いがします。
そうして19年という長い年月を経て、漸く自分の思いを伝えることができるようになるという展開を、心から嬉しく思います。

現代社会のありふれた風景の中での物語ながら、どこか気持ち良くメルヘンチック。読了後の後味は、心が澄み渡るようです。

                

9.

●「つむじダブル」●小路幸也・共著) ★★


つむじダブル画像

2012年09月
ポプラ社刊
(1400円+税)

2015年02月
ポプラ文庫化



2012/10/03



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人気作家2人の合作による、心温まる家族物語。
兄である高校生の
由一(ゆういち)側からを第一人称で小路幸也、妹である小学生のまどか側からをやはり第一人称で宮下奈都が交互に描くという、ファンにとっては垂涎の的と言いたくなるコラボ作品。
但し、2作家による合作の記念碑的な作品、
江國香織辻仁成「冷静と情熱のあいだ」のような2冊構成ではなく、あくまで一冊の中での合作。

小宮一家は五人家族。小学生のまどかは10歳、柔道が好きな元気いっぱいの女の子。兄の由一は17歳の高校生で、仲間とバンド活動しており結構ファンを持っている。まどかは兄の由一が大好きで、由一も妹を可愛く思っている。
2人の両親は幼馴染同士で、
由美子35歳と耕一郎37歳。そして祖父の定一は隣で整骨院と柔道道場を営んでいる。
5人のいずれも明るくさっぱりとした性格で、皆家族を一人一人大事に思っているという具合。こんな幸せな家族は小説の中にしかないのでは、と思う程。
しかし、芦田伸子と名乗る見知らぬ女性からの電話を受けたことをきっかけにまどかは、母親が何か自分たちに隠しているらしいことを感じとります。
普通だったら、そこから家族の欺瞞が明らかになっていくという方向へストーリィが展開しそうなところですが、そうはならないところが本作品の気持ち良さ。
由一もまどかも、何か隠していることがあるらしいと感じても、それは母親が秘密にしておきたいことだから、と認めてあげるのです。そんなことができるのも、この家族間にしっかりとした信頼関係があるからこそでしょう。
この小宮一家の姿が、まどか・由一・母親の由美子という主要キャラクターと合わせてとても素敵です。
彼らの周りに登場する人物も、皆小宮一家に負けず劣らず好感のもてるキャラクターばかり。

温かくて気持ちの良い家族物語が好きな方に、是非お薦め。
(※中学生、高校生になったまどかも是非見たいものです。)

         

10.

●「終らない歌」● ★★


終らない歌画像

2012年11月
実業之日本社
(1300円+税)

2015年10月
実業之日本社
文庫化


2012/12/17


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高校2年の女生徒たちが挑んだ学内合唱コンクールを舞台に描いたよろこびの歌の続編。2年B組で合唱を共にした面々の3年後の姿を描く連作短篇集です。
 
声楽家を目指す
御木本玲は音大で自信を失っており足踏み状態。原千夏は大学に進学せず劇団員となってバイトと稽古に励む日々ですが、こちらも前途は多難。
その他、大学で運動科学部を学ぶ
中溝早希、大学生活をだらだら過ごしてだけと自虐風の里中佳子、短大を卒業して地方の中堅会社に就職した東條あや子、等々。

6篇の中でやはり秀逸なのは、御木本玲を主人公とする
「シオンの娘」、原千夏を主人公とする「Joy to the world」、そして玲と千夏が手を取り合い、切磋琢磨しながら次へのステップに足をかける最終篇「終らない夏」の3篇です。
決してあの時の歌は終わっていない、あの歌から今も皆が繋がっている、それをステップにして次の段階に進むことができる、というのが本書のメッセージのようです。
「よろこびの歌」ファンには嬉しい続編。
私自身のあの頃を思い出して、瑞々しい気持ちになります。玲や千夏のように突き進むことはできなかったという点で、ちょっぴり後悔もありますが。

シオンの娘/スライダーズ・ミックス/バームクーヘン、ふたたび/コスモス/Joy to the world/終らない歌

       

宮下奈都作品のページ No.2

      


   

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