光原百合作品のページ No.2

   

11.イオニアの風

12.扉守

   

【作家歴】、風の交響楽、時計を忘れて森へいこう、空にかざったおくりもの、ほしのおくりもの、遠い約束、十八の夏、星月夜の夢がたり、最後の願い、銀の犬、橋を渡るとき

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11.

●「イオニアの風」● ★★☆

  

 
2009年08月
中央公論新社刊

(2000円+税)

 

2009/09/22

 

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ギリシア神話となれば、誰しも子供の頃一度は夢中になって読んだことがあるのではないでしょうか。
本書は、そのギリシア神話を元にした、神々が人間と関わった最後の時代を背景にした、愛と冒険の物語。
作者の光原さんが書きたいと思ってから30年、具体的に主人公を思いついてから20年、書き出してから9年を経て成ったのが本作品だそうです。

最初は、ギリシア神話の現代版かと軽く思っていたのですが、第二部になってから俄然ストーリィは面白くなります。
幾度も迷い失敗を重ねる人間の若者たち。それを励まし応援する一方で邪魔立てをする側もいるというオリュンポスの神々たちが、何とも人間的に描かれているところが魅力。

ストーリィは、大神ゼウスの盟友プロメテウスが、自ら作り上げた人間に誤って意思を与えてしまったことが始まり。
その後神々は様々なことで人間たちに関わってきましたが、もはや止めるべきだと提唱したのがアテナ神
その結論を出すために神々は、人間の行動(選択)の是非について3度の賭けをします。
第一の当事者は、トロイ戦争の原因になったトロイアの王子パリスとスパルタの王妃ヘレネ。第二の当事者は、そのヘレネとスパルタ王である夫のメネラオス。第三は、英雄オデュッセウスの息子であるテレマコスとパイアキアの王女ナウシカア
第一部「古の旅路」はトロイア戦争が中心となり、第一と第二の賭けにまつわる物語。
「幕間」は、オデュッセウスとその息子たちの関わりを描く、第三部への橋渡しとなる章。
そして第三部「新たな旅立ち」が、本書の主眼であり第三の賭けにまつわる、テレマコスとナウシカアの愛と冒険の物語。
オリュンポスの神々も手を出せない化け物がその贄として目をつけたのがナウシカア。そのナウシカアを救うための剣と盾を求め、テレマコスはナウシカアと共に試練の旅を続けるというストーリィ。
そこには様々な邪魔が入りますが、一番の障害はテレマコスの父親コンプレックスか。
2人の愛と冒険の物語は、テレマコスの人間的成長の物語でもあります。またそれは、神々が人間に対し希望を抱けるかどうかを左右する選択の物語にも繋がっています。
その2人を叱咤しながら様々な形で助けるのが、伝令神であり“詐術と弁論”の神であるヘルメス
この変幻自在で融通無碍なヘルメス神というキャラクターの存在があってこそ、本作品がすこぶる面白く、魅力的な物語になっていることは疑いようもありません。

最後、読み終えた時には、あー面白かった!の一言。
あのギリシア神話の面白さを現代に蘇らせ、さらに魅力パワーアップしてみせた、と言える一冊。かつてギリシア神話を愛読した方にもそうでない方にも、是非お薦め!

第一部 古の旅路/幕間/第二部 新たな旅立ち

  

12.

●「扉 守(とびらもり)−潮ノ道の旅人−」● ★★☆

  

 
2009年11月
文芸春秋刊

(1524円+税)

 

2009/12/26

 

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山と海に挟まれた坂道の多い町、潮ノ道
4つの霊山に囲まれたくぼ地のようなこの土地には、不思議な力が流れこんで溜まりやすいのだという。
そんな潮ノ道だからこそ起きる不思議な出来事の数々を描く、ファンタジーで温かな連作短篇集。

いいなぁ、この短篇集。
舞台となる潮ノ道という町が、現在光原さんが住んでいる尾道をモデルにしているのは言うまでもありません。
各ストーリィが優しさに満ちているのは、光原作品に共通する特徴ですが、本短篇集には潮ノ道という古色蒼然たる町に対する深くて温かな愛情が満ちているところが、何ともいえない魅力です。
その愛情があってこそ、ストーリィから流れ出る幻想的なイメージには優しさが篭っていますし、潮ノ道という町、そしてそこに住み暮らす人たちあるいはそこを訪れる旅人たちを温かく照らしているように感じます。
一方、現実的な面として、潮ノ道に住む登場人物の、一見乱暴そうな方言そのままの会話が、生き生きと楽しくリズミカルに耳に届きます。それも欠かすことのできない本書の魅力。

「あとがき」で光原さん、<潮ノ道ファンタジー>というべきシリーズを一応意識していると述べられています。
是非シリーズ化をお願いしたいところです。

「帰去来の井戸」:その水を飲めば必ずもう一度潮ノ道に戻ってこれるという“帰去来の井戸”をめぐる物語。
「天の音、地の声」:取り壊されるのを拒む古い洋館をめぐる物語。
「扉守」:女子高生に取り付いたモノを扉の向こうに追いやる役目を担う“扉守”とは・・・・。
「桜絵師」:桜咲く美しい風景を描いた絵に女子高生が魅せられたその理由は・・・。
「写想家」:美青年の写真家が撮り出すその光鮮やかな写真の秘密は・・・。
「旅の編み人」:編み物の名人というその女性の布袋から這い出して飛び去ったものとは・・・。
「ピアニシモより小さな祈り」:何度弦を張られてもすぐ切ってしまうその古いピアノが抱く祈りは・・・・。
7篇の中で私は、幻想的な「帰去来の井戸」が一番好きです。

帰去来の井戸/天の音、地の声/扉守/桜絵師/写想家/旅の編み人/ピアニシモより小さな祈り

    

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