三田誠広
(みたまさひろ)作品のページ


1948年大阪市生、早稲田大学文学部卒。1977年「僕って何」にて第77回芥川賞を受賞。


1.
いちご同盟

2.恋する家族

3.桓武天皇

 


 

1.

●「いちご同盟 純愛−中学編 」● ★★


いちご同盟

1990年01月
河出書房新社刊

1991年10月
集英社文庫

2005年07月
第37刷
(390円+税)



2007/05/06

「いちご同盟」という表題からは、甘酸っぱいような青春小説を予想してしまうのですが、それは思い違い。
中学3年生の主人公たちにとっては、早くも生死という現実を目にすることとなる厳しいストーリィです。

優秀な1歳年下の弟、ピアノ教師をしている母親という家庭状況にあって主人公の北沢良一は、自分の今後が描けないでいる。学業成績も今ひとつ、都立音楽学校を目指そうにも自分のピアノにかける情熱に確信がもてないでいる。そのためついつい、小学校5年で自殺した少年のことを考えてしまう。
同級生の羽根木徹也は、野球部のエースで女の子からの人気も高い。突然その徹也から試合のビデオ撮影を頼まれた良一は、徹夜に連れられ、重い腫瘍で入院している上原直美を知ることになります。そんな3人を描いたストーリィ。

自分の進路に確信がもてないでいる良一、幾つもの強豪校から誘いを受けている徹也、病気故に何の選択権も許されない直美。この3人の姿は各々対照的でとても鮮やかです。
直美の身を案じていても食欲は起きる、女の子たちと陽気な会話を交わしてしまう、徹也はそんな罪悪感を抱きますが、若さ故にそれも現実でしょう。
自分自身のことさえ持て余しているのに直美のことを気遣う余裕なんてない、それでも良一は直美に惹かれてしまう。
一方の直美は徹也への気持ちがある一方で、限られた生命だからと良一に対する好きだという気持ちを隠さない。
直美の生きた時間は15年と短いものでしたが、直美の両親に絆を与えた点で生きた意味は充分にあっのだと描かれます。
「いちご同盟」とは苺ではなく、十五歳の「一・五」のこと。2人で百歳まで生きて直美のことをずっと覚えていようと2人は約束します。
自分だけのものでは決してない、死んだからといって生きたことが消えてしまう訳ではない、そんな生命の重さを知る青春ストーリィ。読後の余韻は意外と爽やかです。

 

2.

●「恋する家族」● ★★


恋する家族

1998年05月
読売新聞社刊
(1600円+税)



1998/05/28

就職活動に奮闘する仲良し女子大生4人の青春ストーリィ。
青春小説という宣伝文句と、カバーイラストの爽快そうな印象が気に入ってつい買い込みました。

主人公の亜紀らはいずれもW大学の4年生。
普通に就職活動に苦戦しているけれど、彼女らの家族状況は、別居、離婚、行方不明とか、それぞれ問題あり。でも彼女らに暗さはまるでありません。当然のことのように割り切って生活している、表面上は。
4人それぞれ進路に悩みもあるが、それに負けずに精一杯生きているという感じ。
彼女らだけでなく、亜紀の兄(パソコンオタク)、同級生、さらには父親・守夫の世代も、それなりに悩み、苦しみを抱えながら精一杯頑張っている。それぞれ世間にありきたりな悩みであり、そのことが登場人物に親近感を抱かせます。
篠田節子「女たちのジハードのような生々しさ、たくましさはない。そこは女子大生だから。
小林信彦作品のようなノスタルジーの香りプンプンもない、一応青春小説だから。
軽く楽しんで読める作品であり、読後はさわやかな微風を受けたような快さがあります。

  

3.

「桓武天皇−平安の覇王− ★☆


桓武天皇

2004年06月
作品社刊
(1600円+税)



2020/06/17



amazon.co.jp

戦国武将と異なり、天皇を主人公にした物語は余り書かれていないのではないでしょうか。
だからこそ読んでみたいと思ったのは、
玉岡かおる「天平の女帝−孝謙称徳がきっかけだったか。それ以来、いずれ読んでみようと本作をリストアップしていたのですが、実際に中々読むに至らず。コロナ感染で図書館からの借出しが進まないという事態がなかったら、まだまだ先になっていたかもしれません。

さて、その
桓武天皇。私が知ることと言えば、平安京への遷都を行った天皇という、歴史教科書に出てくるその程度どまり。
実際、余り詳細は分かっていないようです。

天智系の皇子である
山部王が生まれ育ったのは、天武系の御代。したがって天智系の他の皇子たちと同様に位階等の面でも恵まれず。天智天皇の直孫である父=白壁王もそれは同様でしたが、山部王の場合は実母が百済系渡来人で身分の高くない女性だったからなおのこと。
その運命が変わったのは、天武系の皇子になり手がいなくなり、父である白壁王が称徳天皇を継いで
光仁天皇として即位したことから。父帝から上位を受け第50代天皇として即位、平安京への遷都を実行した他、坂上田村麻呂を征夷大将軍に任命しての蝦夷討伐、最澄・空海といった新時代を担う仏僧を唐に派遣する等、強力な政治を行った、という人物。

病弱だった
聖武、道鏡と結びついた孝謙・称徳という政情不安定な時代の後に強力な帝として君臨したといっても、現実は中々厳しい、理想通りにはいかない、ということが本作で描かれています。
藤原家一族の中でも対立があれば、そもそも藤原一族と貴族らの対立がある。皇太子とした同母弟の
早良親王との意見対立も。
トップに君臨する天皇といっても、全ての実務を一人で担える訳もなく、実務能力が高い人物を重用すれば他から批判、反目を受けるという具合。

何時の世でもトップに立てば批判を免れ得ない、ということか。
“覇王”となれても“聖王”となるのは至難の業、ということでしょう。
私個人としては、皇統が桓武天皇によって天武系から天智系にはっきり切り替わったという事実が印象に残ります。
また、本ストーリィ中では、
壱志濃(いしの)王、神(みわ)王という従兄弟に当たる2人の皇子が、心を通わせられる相手だったという点にほっとさせられます。

漸く読めた、というのが読了後の全て。

序章.百済の里/1.大仏開眼/2.紫微内相/3.女帝と道鏡/4.明信との再会/5.宇佐八幡の神託/6.立太子/7.甲子革令/8.長岡京/終章.千年の都

   


 

to Top Page     to 国内作家 Index