鯨統一郎作品のページ


国学院大学文学部国文学科卒。1998年「邪馬台国はどこですか?」にて作家デビュー。下記作品の他に、99年「隕石」、2000年「千年紀末古事記伝 Onogoro」等あり。


1.邪馬台国はどこですか?

2.金閣寺に密室

3.北京原人の日

4.なみだ研究所へようこそ!

5.九つの殺人メルヘン

6.ミステリアス学園

7.新・世界の七不思議

8.オレンジの季節

  


  

1.

「邪馬台国はどこですか?」● ★★☆




1998年5月
創元推理文庫

(
520円+税)

 

1998/10/17

カウンター席だけの小さな地下の店。
そんな店で夜な夜な壮絶な歴史考察バトルが繰り広げられるとは!

登場人物は、立会者というべきバーテンダーの松永、攻撃的美人の大学助手・早乙女静香、それに対する怪しげな市井歴史家の宮田六郎。そして温厚かつ冷静な大学教授の三谷敦彦
まるで自分もすぐその隣の席にいて、討論に思わず聞き入っているような臨場感があります。

主題である奇想天外な歴史解釈が魅力であるのは勿論なのですが、静香女史のボルテージが急上昇していく様を見ているのも楽しい。さらに、折々の酒肴にも知らず知らず興味惹かれます。
とくに“仏陀”“邪馬台国”“キリストの奇跡”の歴史推理は圧巻!

無茶苦茶な論理の飛躍だアと思いつつ、一方でフムフムと納得しそうになります。
しかし、こんな小さな店なのに、どうしてこんなに多彩な酒肴が出てくるんだろう、それも不思議。(^^;)

悟りを開いたのはいつですか?/邪馬台国はどこですか?/聖徳太子はだれですか?/謀反の動機はなんですか?/維新が起きたのはなぜですか?/奇跡はどのようになされたのですか?

 

2.

とんち探偵一休さん金閣寺に密室(ひそかむろ)」● ★☆

 

 
2000年4月
祥伝社刊
NON MOVEL
(857円+税)

2002年9月
祥伝社文庫化

 

2000/04/09

とんちの一休さんが探偵に! 歴史を探る面白さとミステリの面白さを掛け合わせ、さらに一休さんの逸話までも上手に取り込んだ、“本格歴史推理”という一冊。

ストーリィは、まず山椒太夫が京市中で虎に喰い殺されるという事件から始まります。次いで、一休さんの広く知られたとんち話の数々が、プロローグ的に語られます。
時は応永15年(1408)、足利義満が将軍職を子の義持に譲りながらも今尚実権を握っているという時代。義満は横暴、好色、そしてまた帝位まで狙っているという悪役ぶり。その義満が、金閣寺の最上層で首吊り 自殺。果たして自殺か、それとも密室殺人か。
義満の次子・義嗣から、一休さんに事件解明の依頼が来ます。義満の周囲には、義満に殺意を抱くものばかり、という状況。一休に、、検使官の新右衛門、能楽者の世阿弥が協力して推理が始まります。
一休さんの数々のエピソードを、ストーリィの重要なポイントに取り込み、一休さんとの密接な関連づけをしていますが、いまいち物足りず。しかし、殺人事件の舞台が金閣寺で、探偵役が一休さんとなれば、それなりに歴史推理という楽しみが味わえます。
※上記ストーリィは、一休宗純禅師の死後、その晩年の愛人だった森女を陰陽師の六郎太が訪ねて聞き出す、という設定になっています。六郎太が次に関心をもっている謎は、空海についてのものだとか。次作への暗示 でしょうか。

  

3.

「北京原人の日」● 




2001年1月
講談社刊

(1500円+税)

2005年4月
講談社文庫化

  
2001/01/30

昼日中、銀座の真ん中に「空から人が降ってくるのが見えた」という出だしから、本書は始まります。
それは軍服を着た老人、しかも、歴史上の事件として知られる、消え失せた北京原人の骨の一部をもっていた、というのが本作品の謎。その謎を解き明かす、奇想天外・歴史ミステリというストーリィです。
探偵役となるのは、偶然目撃者となったカメラマン志望・山本達也、雑誌記者・天堂さゆりの2人。
事件の背景には日本陸軍・特殊部隊の存在があった、と言うと、如何にも重厚なサスペンス作品になりそうなのですが、本作品はいたって軽目。鯨さんの持ち味だと思いますが、それにしても主人公となる2人の性格も軽薄そう。
北京原人の化石の行方を追うストーリィは、ドイツと日本の軍事同盟、第二次大戦勃発、下山国鉄総裁轢死事件、さらに山下奉文将軍の財宝伝説にまで及び、面喰うほどです。それを一気に解き明かそうというのですから、如何にも鯨さんらしい作品。
ただ、内容としては奇想天外過ぎて、現実感に乏しい。あくまで作り話、という雰囲気です。
ですから、パズルを楽しむ気分で、気軽に読むのが
相応しいようです。

  

4.

サイコセラピスト探偵 波田煌子 なみだ研究所へようこそ!」● ★☆




2001年4月
祥伝社刊

NON MOVEL
(819円+税)

2004年1月
祥伝社文庫化

  
2001/04/22

セラピストを探偵役とした、ユーモア・ミステリの連作短篇集。
臨床心理士である松本清が、新たな勤務先として訪れたのは、港区六本木のメンタル・クリニック“なみだ研究所”。その所長である波田煌子は、数々の臨床実績をもつ伝説のサイコセラピスト(心理療法家)。
ところが実際会ってみると、波田煌子はトンチンカンな受け答えばかりの、22歳という実年齢より子供っぽい女性。おまけに精神分析に関する学問知識もロクにもっていない様子。それに対し、会計士小野寺久美子は30歳のグラマー美女で、余程彼女の方が女医らしいという具合。
しかし、いざ診療に至るとトボけた質問をしつつ最後に波田煌子がキラリと涙をこぼす時、彼女は全ての事情を解き明かしてしまいます。
そんな波田煌子の療法に、準国家資格をもつ松本清がいらつくのは度々のこと。ボケの波田煌子とツッコミの松本清と、冷静な小野寺久美子の3人の会話は、トリオ漫才を小説で読んでいる気分です。
その意味ではお笑い系ミステリと言って良いかもしれません。
日常ミステリの範疇ですが、波田煌子の推理にはかなり論理の飛躍があるようです。

アニマル色の涙/ニンフォマニアの涙/憑依する男の涙/時計恐怖症の涙/夢うつつの涙/ざぶとん恐怖症の涙/拍手する教師の涙/探す男の涙

    

5.

九つの殺人メルヘン」● 




2001年6月
光文社刊

(838円+税)

2004年6月
光文社文庫化

 
2001/07/23

デビュー作邪馬台国はどこですかに似た構成の連作ミステリ。ただし、解明されるのはれっきとした殺人事件です。
渋谷区にある日本酒バーに集い、語り出すのは、刑事の工藤と自称・犯罪心理学者の山内。そしてマスターも加えて、この3人はいずれも42歳。ところがそこに、大学でメルヘンを専攻しているという20歳の美人学生・桜川東子(ハルコ)が加わります。
折りしも、工藤の担当する殺人事件は、容疑者に確かなアリバイがあっていずれも未解決。ところが、東子によって簡単にアリバイは崩されていきます。
各章とも銘酒の講釈から始まり、名作童話の裏にある真相解釈が語られていくという構成は楽しいものです。時には、昭和30〜40年代にとって懐かしい話も語られ、またそれも楽しい。
マスターが繰り出す銘酒も酒の肴もホント美味しそうです。
ただ、それに比してミステリの方は物足りない。アリバイ崩しにしてもこじ付けがましい印象を受けます。
なお、各章の最後は決まったようにマスターが床に崩れ落ち、あとには空っぽになった一升瓶が残るというパターン。それが最後の章の伏線になっていたとは! 油断することなく読むべし。

ヘンゼルとグレーテル/赤ずきん/ブレーメンの音楽隊/シンデレラ/白雪姫/長靴をはいた猫/いばら姫/狼と七匹の子ヤギ/小人の靴屋

  

6.

「ミステリアス学園」● 




2003年3月
光文社刊

(781円+税)

2006年4月
光文社文庫化

 
2003/04/06

ミステリアス学園ミステリ研究会、通称“ミスミス研”。今年その新入部員となったのが、薔薇小路亜矢花湾田乱人の2人。
亜矢花がミステリ・ファンであるのに対し、一方の湾田は松本清張「砂の器」しかミステリは読んだ事が無いという、全くの素人。そんな理学系の湾田がミスミス研に入部したのは、E=MC2乗を小説で表現したいという訳の判らぬ動機故。
したがって各章では、湾田に解説するという設定のもと、古今の推理小説が本格もの、トリックもの、密室ものといった具合に紹介されていきます。ミステリ・ファンにとっては楽しい、本書の妙味。
その一方、各章毎にミスミス研の部員が一人ずつ死んでいくという、奇々怪々な事件が展開していきます。しかも、各章毎、前の章で死んだ部員は架空の人物として取扱われます。一体、何がどうなっているのやら。
作中作という仕掛けの辺り、いかにも鯨さんらしい作品ですけれど、謎解きの面白さより不気味さの印象が勝るところがマイナス評価。
各事件の真相を解き明かしてみせる主人公は、意外や意外、湾田乱人。しかしその真相そして最後の結末と、あまり納得いくものではありません。

本格ミステリの定義/トリック/嵐の山荘/密室講義/アリバイ講義/ダイイング・メッセージ講義/意外な犯人

   

7.

「新・世界の七不思議」● ★☆




2005年2月
創元推理文庫

(700円+税)

 

2005/09/27

奇想天外な日本歴史の謎解明バトルが繰り広げられた邪馬台国はどこですかの姉妹編というべき作品。今回の題材は、世界歴史における謎解きです。

歴史バトルの当事者となるのは前作と同じく、歴史学者の早乙女静香と雑誌ライターの宮田六郎。2人の論争に弾みをつける役どころは、バーテンダーの松永。そして、三谷教授に代わってバトルの立会者を務めるのは、古代史研究の権威で来日中のペンシルベニア大学教授のジョゼフ・ハートマン
そもそも、ジョゼフ教授は静香の案内で京都見物することを楽しみにしていたのですが、期待に反して連日連夜うらぶれたバー<スリーバレー>に連れ込まれ、静香と宮田の歴史バトルを目にして呆気にとられるというのが、本書のストーリィ構成。
「邪馬台国」の時には途方もない歴史の謎解きと2人のバトルの面白さに興奮したのですが、今回は特に興奮は覚えず。ひとつには2度目ということもありますが、もうひとつ内容の粗っぽさとこじつけが過ぎるという印象を受けるためです。
それでも、本書の7不思議に関する歴史知識を増えますし、謎解きの面白さも十分味わうことができます。そして、静香と宮田の論争に呆然とし、静香の性格と言動に困惑されつつ、こんな東洋の場末で歴史の謎が解き明かされて良いのかと困惑するジョゼフ教授のコメントも、愉快な薬味となっています。
さらにもうひとつ、舞台設定にも注目。バーテンダーの松永はカクテル、料理の腕を上げたようですし、店の壁にはスクリーンや液晶ディスプレイの仕掛けが備えられて7不思議の写真や図もすぐに映し出されるという具合。カクテルの薀蓄を聞くのも楽しみのひとつです。
ジョゼフ教授の
「この店はいったい・・・・」という困惑の一言が、そのまま本書の面白さを象徴しています。

アトランティス大陸の不思議/ストーンヘンジの不思議/ピラミッドの不思議/ノアの方舟の不思議/始皇帝の不思議/ナスカの地上絵の不思議/モアイ像の不思議

 

8.

「オレンジの季節」● 

 

 
2006年7月
角川書店刊

(1400円+税)

 

2006/08/20

会社の朝礼の場、係長である主人公の立花薫は大胆にも全員の前で課長である戎怜華にプロポーズします。
普通やらないよね、そんなこと、例え自信があったとしても。
相手の怜華がすぐ応諾してくれたから万々歳と言えますけれど、何と結婚承諾の条件が、薫が寿退社して専業主夫になることだったとは! だから言わんこっちゃない。

合理的かつ冷静に考えると生涯獲得賃金は怜華の方が多いだろうことに間違いなし。戎家は7人の大家族にもかかわらず現在専業主婦がいない。説得されて薫は、仕事とプライドより怜華を選ぶのです。そして婿養子となり専業主夫の道へ。
家事などロクにやったこともない薫でしたけれど、家事も大変だと悟って以来、これまで仕事に傾けていた情熱を今度は家事に傾け責任ある仕事として熱心に取り組み始めます。おかげで戎家のメンバーからも評判は上々。
考えてみれば、専業主夫というからギョッとしますけれど、女性が主人公であっても大家族に嫁入りしたとしたら、ストーリィはそう変わるものでもないでしょう。
エラいところに嫁いでしまった!の例もあることですし。
さてさて、このようなストーリィを書いた鯨さんの真意はどこにあるのでしょう。
家事も立派な仕事でありそれなりの遣り甲斐もあるのですから、若い女性の皆さん嫌がらないで前向きに取り組みましょう、ということか。それとも、男性が専業主夫になるという選択肢も決して不自然ではないということか。
私はこの両方ともに、鯨さんの真意があると思うのですけど。

と思っていたら、最後の章で読後感をひっくり返されました。何なんだ、このストーリィは!? 
こんな結末が果たして必要だったのでしょうかねェ・・・。
その結末章の故に最終的な評価は☆分マイナス。

  


 

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