こざわたまこ作品のページ


1988年福島県南相馬市生、専修大学文学部卒。2012年「僕の災い」にて第11回女による女のためのR-18文学賞−読者賞を受賞し、受賞作を収録した「負け逃げ」にて作家デビュー。


1.負け逃げ

2.
仕事は2番 

3.
君に言えなかったこと 

4.
教室のゴルディロックスゾーン 

 


           

1.
「負け逃げ ★★☆


負け逃げ

2015年09月
新潮社刊
(1600円+税)

2018年04月
新潮文庫化



2015/10/13



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“女による女のためのR-18文学賞-読者賞”を受賞した「僕に災い」を始まりの篇とした、連作短篇集。
読んで驚いたのは、デビュー作だというのに完成度が恐ろしく高いこと。また、地方の町が抱える絶望的な閉塞感という問題を、読み手に突き付けてくるような迫力ある筆力には圧倒されるばかりです。
同じようにド田舎に住む少女たちを描いた
山内マリコ「ここは退屈迎えに来てと共通する題材ですが、同じ題材を扱ったとは思えないほど、趣向は異なります。

本書各篇に共通するのは、村から出て行ける人間と出て行けない人間との対比です。
「僕の災い」に登場する“ヤリマン”と言われる高校生=
野口美都子は、嘘で塗り固めるようにしてこの閉塞感ある村で暮す人間たちへの反発と、自分はそこから抜け出せないという絶望感を纏っていて、同級生の田上を“出ていける人間”として自らと区別しています。
「美しく、輝く」における真理子の行動は、出て行ける才能を突如発揮した同級生に対する妨害心だったのでしょうか。
高校生たちだけでなく、
「蠅」では彼らの担任教師で独身中年のヒデジが抱く、両親に対する怨念のような思いが描かれます。

各篇、迫力と共にやり切れない思いを禁じえないのですが、救われる思いがしたのは最終篇
「ふるさとの春はいつも少し遅い」
ありのままの自分をきちんと見てくれている人間もいるんだと知ることは、どれだけ救いとなり、また勇気づけられることでしょうか。
※こざわたまこさんの今後に、期待大です。


1.僕の災い/2.美しく、輝く/3.蠅/4.兄帰らず/5.けもの道/6.ふるさとの春はいつも少し遅い

                      

2.
「仕事は2番 WORK IS THE SECOND ★☆


仕事は2番

2018年05月
双葉社刊

(1400円+税)



2018/06/22



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たかが仕事、されど仕事。
会社員たるもの、仕事が嫌だからと放り出せるものではないからこそ、悩みも苦しいことも多いという次第。

本作、仕事等々で不器用極まりない会社員たちを連作風に描いたお仕事小説。
中心となる舞台は、吉丸事務機という株式会社です。

それにしても各章の主人公たち、あまりに不器用過ぎるのではないか。ちょっと行き過ぎでは、と感じる程。
人によって苦手なことがあるのはもう仕方ないことですが、そこから逃げちゃダメでしょ。
吉丸事務機というこの会社自体が、余りに拙い、と感じるばかりです。
仕事に苦労の多いこと、理不尽なことが多いのも当然のことですが、本ストーリィには幾らなんでもなぁと感じる処が多。

「走れ、中間管理職」:主人公は総務課で<課長補佐>という中間管理職の職にある女性、中間優紀
皆のことも考えて真面目に勤めているのですが、課長と同僚女子たちの間で板挟み・・・。
「スポットライト」:総務課長の内野努。部下たちに馬鹿にされているのは判っているが、自分の精一杯のところで頑張っているつもり。
「エールはいらない」:優紀と同期入社で仲の良い温水沙也。厳しい指導をしていた先輩女子の米沢仁美、産休明けで出勤してくると、それまでの働きぶりとは一転・・・。
「親子の条件」:営業課長の岸慎太郎。仕事では有能、かつ部下からの信頼も厚いのですが、家庭内では・・・。
「輪になって踊ろう」:優紀を追い詰めた2年目社員の真咲かおり。元々人の輪に入れない人間と、自分でも自覚・・・。
「最後の日」:吉丸事務機から清掃作業等を請け負っているビル管理会社に勤める立科幸雄。退職直前の日々、社長からヒキコモリの息子の教育を託されるのですが・・・。

走れ、中間管理職/スポットライト/エールはいらない/親子の条件/輪になって踊ろう/最後の日

                   

3.
「君に言えなかったこと ★★


君に言えなかったこと

2018年08月
祥伝社刊

(1400円+税)



2018/09/05



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大事な相手に言えなかった思い、言葉について綴ったストーリィ6篇。

う〜ん、言えなかった言葉、沢山あります。でも言葉って、そう易々と口に出せない、そこまで自分を開けっぴろげにできないよなぁという気持ちがあります。
本作で言えなかったことを後悔する主人公たち、それらの姿は私自身の姿でもある、とつくづく感じる次第。
でも、後悔のない人生なんてあるのだろうか・・・。

「君に贈る言葉」の主人公は山口奈々子真壁しおりは小3以来の親友ではあるけれど、いろいろ紆余曲折あり・・・。
「待ち合わせを君と」小野寺。遊園地で学生時代に一時付き合っていた、でもひどい別れ方をしてしまったしま子と偶然に再会します。
「君のシュートは」遠藤夏生。お互いに苦手な相手同士、でも親友のふりをしようと約束したバスケ部の同期である島谷奏と最後の試合で・・・・。
「君はアイドル」は主婦の千絵。地下アイドルに夢中になり、そのシューそっくりと思った相手は・・・。
「君の正しさ」はフリーターの芦屋浩平。恋人の明日花は浩平と反対に、真面目でいつも一生懸命な女性・・・
「君に言えなかったこと」成田あかり。母親が死去した後の実家の片づけを義父の一彦と共に・・・。

君に贈る言葉/待ち合わせを君と/君のシュートは/君はアイドル/君の正しさ/君に言えなかったこと

                

4.
「教室のゴルディロックスゾーン Goldilocds zone in the classroom ★★


教室のゴルディロックスゾーン

2023年06月
小学館

(1700円+税)



2023/07/29



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主人公の高橋依子は、不器用でコミュ力に欠け、おまけに妄想癖のある中学女子。
依子の大切な友達は、
愛犬トトと、小五から仲良くなったさきちゃん(緒川さき)だけ。
しかし、中学に入ってから、さきは新しい友達が出来たようで、依子のことを避ける風。
それでも依子は、さきに近づこうとするのですが・・・。

そんな依子と対照的な女子が、同じクラスで陸上部エースの
伊藤ひかり。誰に対しても隔たりなく接し、交友範囲が広く、依子にも気さくに声をかけてくれる。

本ストーリィは、2人だけの物語では終わりません。
女子たちの仲間付き合いの複雑さ、難しさが色濃く描き出されます。
さきとその新しい仲間である
おのちん(小野優花)琴ちゃん(琴子)の関係。
そして、伊藤と同じグループである
濱中亜梨沙ふじもん(藤村史穂)さーや(和久井)の関係と。
仲の良い仲間という関係である筈なのに、いろいろ軋みも生じます。
むしろ、孤立している依子の方が、よっぽど身軽ですっきりした立場にいるように思えます。
教育実習生である
宇手俊史による「ひとりでいる時より、誰かと一緒にいる時の方が、ずっとさみしい」という言葉が、胸に響きます。孤独であることは必ずしも悪い事ではないのかもしれません。

私には経験ないので分かりませんが、本作に描かれる女子グループはまるで<運命共同体>、そしてその鍵は秘密の共有、そんな感じがします。その点、男子グループは緩く繋がる<連合体>といったところでしょうか。

少なくとも、友情とは、相手に犠牲や奉仕を求めるものではない筈。助け合える関係であって欲しいと願います。
依子たちが一歩前進、ちょっと成長した姿を垣間見ることができたように思える処が嬉しい。


※題名の「ゴルディロックスゾーン」、本来の意味とは少し違うかもしれませんが、“居場所”と解してよいかと思います。


胡蝶は宇宙人の夢を見る/真夜中の成長痛/わりきれない私達/ホモ・サピエンスの相変異/教室のゴルディロックスゾーン/放課後から届く声

         


   

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