山内マリコ
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1980年富山県生、大阪芸術大学映像学科卒。京都でのライター生活を経て上京、2008年「十六歳はセックスの齢」にて女による女のためのR-18文学賞・読者賞を受賞。12年「ここは退屈迎えに来て」にて単行本デビュー。


1.ここは退屈迎えに来て

2.アズミ・ハルコは行方不明

3.かわいい結婚


4.あのこは貴族

5.メガネと放蕩娘

6.選んだ孤独はよい孤独

 


           

1.
「ここは退屈迎えに来て It's boring here,pick me up. ★★


ここは退屈迎えに来て

2012年08月
幻冬舎刊
(1500円+税)

2014年04月
幻冬舎文庫化



2015/05/30



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かわいい結婚で山内さんに惹き付けられたので、この際遡って読んでみようと、まずは第一作である本書から。
女のためのR-18文学賞読者賞を受賞した短篇
「十六歳はセックスの齢」を含む8篇からなる短篇集。

受賞作の主人公は高校一年生の女子。処女を次々と卒業している同級生たちに煽られ、親友と16歳になったらと約束。それ以降の顛末を描いたストーリィです。
少女にも性欲はあるんだと描いたのは○○さんだったか。ただし本篇は、長い付き合いとなるセックスとの付き合い始めを描くのが趣旨であったように思います。
「R-18」受賞作らしいキレの良さと、カラッと突き抜けたような痛快感が魅力です。

第1篇から第6篇までは、地方都市で生まれ育った女性たちを主人公にした、地元暮らしの閉塞感を漂わせる6篇。一旦都会に出てみたものの、そこで居場所を見つけられず地元へ戻ってきたという登場人物も多。
自分の人生に対して閉塞感を抱くということに関しては都会も地方も変わりないと思いますが、気持ちを紛らわす雑踏がないという点で大きく異なるのかも。その分孤独感も大きいとは思いますが。
そんな地方暮らしで欠かせないものは、恋愛や男より(例外もあり)、気の置けない女友達の方のようです。題名の
「迎えに来て」と呼びかけるその相手は、山内さんによると“ソウルメイト”なのだそうです。

どの篇も、絶妙の感性があって充分に魅せられます。
また、どの篇にも椎名という、かつて中高時代に人気者だった同級生が登場しますが、この狂言回しを配することによって各篇が一本線で繋がるという構図がとても楽しい。
読むに値する清新な短篇集、満足でした。

1.私たちがすごかった栄光の話/2.やがて哀しき女の子/3.地方都市のタラ・リピンスキー/4.君がどこにも行けないのは車持ってないから/5.アメリカ人とリセエンヌ/6.東京、二十歳。/7.ローファー娘は体なんか売らない/8.十六歳はセックスの齢

       

2.
「アズミ・ハルコは行方不明 A lonely girl has gone. ★★


アズミ・ハルコは行方不明

2013年12月
幻冬舎刊
(1500円+税)

2015年10月
幻冬舎文庫化



2015/06/02



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題名にあるとおり、買い物に出たまま行方不明となった安曇春子(当時28歳)およびその尋ね人ポスターを題材にしつつ、地方都市に暮す若い男女群像を描いた長編。

まず登場するのは、人気のないキャバ嬢=愛菜と、彼女が敬愛する売れっ子の先輩キャバ嬢=今井。今井がデキ婚のためキャバ嬢を辞めると告げるところからストーリィは始まります。
同じく
キャバ嬢を辞めた愛菜は、地元で名古屋の大学を中退して戻ってきた富樫ユキオと、中学時代にイジメに遭って不登校となった三橋学とつるんで遊ぶようになる。
一方、26歳になった安曇春子は小さな会社に正社員として勤め始めますが、役員はとんでもないセクハラ親父2人で、少しも報われない日々。そんな春子は幼馴染の同級生=
曽我氏と付き合い始めますが、こちらもままならない。

2つの年代の同級生男女が絡み合う群像劇に少女ギャング団が付け加わるというストーリィですが、要は男など当てにならない、頼りになるのはやはり同じ女性仲間であると、地方都市で暮す女性たちの生きる場所について語った作品であると思います。
その点、山内マリコ作品は一貫して同じテーマを描いているようです。

第1部 街はぼくらのもの
1.木南愛菜とキャバクラ時代/2.富樫ユキオと名古屋時代/3.三橋学と中学時代/4.今夜、街はぼくらのもの/5.安曇春子は行方不明
第2部 世間知らずな女の子
第3部 さびしいと何しでかすかわかんない
1.地方新聞社文化部記者・樫木あずさ/2.アートフェス2013総合ディレクター・津川ジロー/3.キルロイ再び、参上/4.目覚めよ愛菜

     

3.
「かわいい結婚 A lovely marriage ★★


可愛い結婚

2015年04月
講談社刊
(1500円+税)

2017年06月
講談社文庫化



2015/05/10



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若い女性からみた現代結婚像は、同じ人間であっても男女間の相違は如何に大きいか、女性が選ぶ道はどうあろうとも厳しい、といった痛烈な社会風刺をグサッと突きつける3篇。
いやー、上手いですねぇ。山内マリコさんの作品を読むのは本書が初めてですが、この才能にはグッと惹きつけられる次第。

「かわいい結婚」は、ずっと実家住まい、一人娘だったひかりが主人公。下着店の店長を辞め専業主婦になったのですが、家事は嫌い、第一どうやったらいいのか判らないと、能天気な夫のまーくんも呆れる程。そのひかりが一念発起して取った行動とは?
昔と違って今の新婚夫婦ならそうしたことがあっても不思議に非ずと思うところ大。結婚率の低下、晩婚、少子化、共働きという風潮もむべなるかな。

「悪夢じゃなかった?」の主人公=澤村裕司は、ある朝目覚めると突然女性になっていた(カフカ「変身」に似た印象)。しかも巨乳。息子と気づかない母親から追い出された裕司はどういう顛末を辿るのか。女性となった裕司が経験したことは、男と女ではこうも色々と違うのかという戸惑い、驚き、興奮等々。
男女の入れ替わりストーリィには
山中恒「おれがあいつであいつがおれでという傑作がありますが、本ストーリィは入れ替わりではなく単独変化ということもあって、主人公と同じ男性としては「おおっ!」と何度も声を上げる面白さがあります。
最後のオチは如何にも現代的で、納得感も少々あり。

「お嬢さんたち気をつけて」は、大学時代の親友女子2人=村木あや子畑中ゆりが、卒業・就職、そして都会でのワーキングウーマン、専業主婦と辿る家庭を3章構成で描いた篇。

かわいい結婚/悪夢じゃなかった?/お嬢さんたち気をつけて

                  

4.

「あのこは貴族 TOKYO NOBLE GIRL ★☆


あのこは貴族

2016年11月
集英社刊

(1500円+税)

2019年05月
集英社文庫



2016/12/22



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代々整形外科医院を経営し渋谷区の松濤住まい、そんな富裕な一家の末っ子に生まれ何不自由なく育った榛原華子、27歳。友人たちが次々と結婚しているのに自分は・・・と、かなり焦り気味。次々と見合いをしまくるのですが中々これという相手に巡り合えず。やっと釣り合いのとれた相手と出会うのですが・・・。

一方の
時岡美紀は地方の漁港町出身。成績優秀だったことから慶應義塾に進学しますが、旧弊な考え方の上に勤務先が倒産した父親から帰って来いと命じられ、抵抗して自活のため夜のバイトに励む内に大学は中退という始末。25歳でIT企業に転職して今やもう32歳、東京で独身暮らし。

そんな対照的な2人が、互いに知る一人の男との関わりから出会うことになる、という長編ストーリィ。

要は、もはや古典的ともいえる箱入り娘の婚活ストーリィかと思って読み進んでいたのですが、次第にどうも違うようだと感じ始めました。
転機になるのは、友人である
相良逸子の仲介で、華子、美紀が出会う場面。初めて本音を口に出せたという3人のガールズトークはすこぶる痛快。ただし、男性にとっては耳の痛いところ大ですが。

最後まで至れば、本書は女性の自立ストーリィであったかと気が付きます。華子と相良、美紀という生い立ちも家族環境も違う3人が忌憚なく意見を交わしあってみれば、お互いにどれだけ自分が狭い世界に囚われていたか気づこうというもの。
華子や美紀が次にステップに踏み出すことができたのも、自分の置かれた状況に疑問を持つこと、違う世界に向けて足を踏み出す勇気をもっていたからこそとい感じます。
敢えて一言で表してみれば、女性の、女性による、女性のための自立ストーリィ、と言って良いでしょうか。


1.東京(とりわけその中心の、とある階層)/2.外部(ある地方都市と女子の運命)/3.邂逅(女同士の義理、結婚、連鎖)/終章.一年後

                

5.

「メガネと放蕩娘 Hometown revival blues. ★★


メガネと放蕩娘

2017年11月
文芸春秋刊

(1500円+税)

2020年06月
文春文庫



2017/12/03



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シャッター通りと化していく、古くからの商店街。
その商店街で育てられたと言って過言ではない姉妹が、思いを共有する仲間たちと商店街活性化を目指して奮闘する、というストーリィ。

シャッター商店街、それは今や当たり前の風景となった観がありますし、農村の過疎化と合わせ、小説の材料となるのも珍しいことではありません。
本作は、9年間という長き時間を以て描いたところと、これは現実的な展開であろうと思えるところが特色。

冒頭からの主人公は、タカコ。商店街の中で老舗書店であるウチダ書店の長女、父親から勧められ現在は市役所職員である32歳。
その妹で、17歳の時に家出したまま音信不通だった
ショーコが臨月の姿で帰ってきたと思ったら、いきなり出産。その2人を中心軸に本ストーリィは展開していきます。
2人に協力するのは、地元国立大学で地域活性化を研究テーマにしている専任講師の
原まゆみ、市役所で中心市街地活性課の担当者である星野、姉妹の実家前に店を開店したコワモテ男の潮見、原ゼミの学生である片桐努、といった面々。

集客のためのイベントを開催したり、シェアハウス化、マンスリーショップ等々、本作で繰り出される数々のアイデアが面白い。
しかし、アイデアだけではどうにもならないところがあるよなぁというところが、本ストーリィの現実的なところ。
いずれにせよ、単なる成功話ではなく、極めて現実に即した展開が描かれたところが、本作の良さと思います。面白かった。


1.2013年-放蕩娘の帰還/2.2014年-赤ちゃん狂想曲/3.2015年-イベントが大好き/4.2016年-商店街シェアハウス化計画/5.2017年(上半期)-うちの店、貸します。/6.2017年(下半期)-うちで店、やります!/7.2022年-再び、放蕩娘の帰還

                   

6.
「選んだ孤独はよい孤独 ★☆


選んだ孤独はよい孤独

2018年05月
河出書房新社

(1200円+税)

2021年10月
河出文庫


2018/06/27


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現代社会ならではのもがきぶり、迷走ぶりを見せる男たちの姿を描いた掌篇集、といった一冊。

こんなこともあるなー、ありえるよなー、とか、共感できるものもあれば、これはまずいでしょ、という思うものあり等々、様々は生態を描いたストーリィが19篇。それなりに楽しめました。

その中で印象に残ったのは次の篇。
「男子は街から出ない」、「女の子怖い」、「彼女の裏アカ物語」、「あるカップルの別れの理由」、「本当にあった話」、「ぼくは仕事ができない」、「事情通K」、「おれが逃がしてやる」の8篇。

その中でも、
「女の子怖い」と「彼女の裏アカ物語」、「あるカップルの別れの理由」、「ぼくは仕事ができない」の4篇は特に面白かった。
何処が?ですって。そりゃあ、如何にもありそうで、他人事ではない処です。

男子は街から出ない/さよなら国立競技場/女の子怖い/彼女の裏アカ物語/「ぼく」と歌うきみに捧ぐ/あるカップルの別れの理由/ミュージシャンになってくれた方がよかった/本当にあった話/ぼくは仕事ができない/型破りな同僚/事情通K/「おれが逃してやる」/仮想通貨/いつか言うためにとってある言葉/愛とは支配すること/子供についての話し合い/ファーザー/心が動いた瞬間、シャッターを切る/眠るまえの、ひそかな習慣

  


   

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