主人公の薫が望んでいたのは魚になりたい、ということ。ただし全身ではなく、足だけ。
そんな主人公は今川焼屋のおばあさんの手で人魚にしてもらう。ただし、「恋人を作ってはだめ」という条件付き。何故なら、泡になって消えてしまうから。
さて、人魚姫となった彼女を待ち受けていた運命とは。
現代の人魚姫像がまず斬新です。
瀬戸君、村井君という男子と関わり合いながら、どちらとも恋人関係ではない。だから恋人を作らないという条件を気にしなかったのか。水の中から人間を見てみたいという彼女の欲求は、男子との関係における距離を表しているようです。
その彼女は、人魚となって新たな出会いをする。しかしその結果は、アンデルセン「人魚姫」と対比しながら読んでいる読み手にとっては、ぎょっとさせられるもの。
「人魚姫」のような悲愴な恋物語ではなく、積極的選択という行動であっても、所詮人魚姫物語の結末は悲運なのでしょうか。
本書が描こうとしているのは、私の想像力では及ぶことのできない、現代人魚姫の恋物語なのではないかと思う次第。
ストーリィに面白味を感じることはあっても、正直なところ、それ以上のものを感じることは無かったです。
|