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21.夢の裂け目 22.あてになる国のつくり方 23.太鼓たたいて笛ふいて 24.話し言葉の日本語 25.兄おとうと 26.夢の泪 27.イソップ株式会社 28.円生と志ん生 29.箱根強羅ホテル 30.夢の痂 |
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ロマンス、ムサシ、組曲虐殺、一週間、東慶寺花だより、グロウブ号の冒険、黄金の騎士団、一分ノ一、言語小説集、馬喰八十八伝 |
●「夢の裂け目」● ★☆ |
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2001/09/24
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帯には、紙芝居屋が解き明かす“東京裁判”の謎とカラクリ、とあります。本戯曲はそのとおりの内容です。 時代設定は、終戦後まもない時期。主人公は、「満月狸ばやし」で人気のある紙芝居屋、田中天声こと留吉です。そして、登場人物は、田中天声とともに紙芝居で糊口を凌いでいる仲間たちが中心になります。
その天声が、突然GHQから呼び出しを受けます。東條英機元首相の軍事裁判における検察側証人として、とのこと。何日も法廷に呼び出されることとなった天声は、ふと“東京裁判”の実態に気付きます。ただ、その“真相”については、私としては今更、という気がするのですが、何度でも繰り返そうという点では意味あるものかと思います。
本戯曲の特徴としては、冒頭の「しゃべる男の半生記」といい、唄の部分がとても多い。芝居の面白さもその唄に依存するところが大きいと思うのですが、本で読む限りその辺りはどうにもなりません。歌詞だけ読んでも唄の楽しさはとても想像できませんし。 |
●「あてになる国のつくり方」● ★★ |
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2002/12/08 |
2001年11月に開かれた、第14回遅筆堂文庫・生活者大学校「グロバリゼーションとは何か」の講義録をもとにまとめられた一冊。 本書の内容については、読んで、考えてもらうことが一番だと思いますが、ひとつ印象に残ったことは“グロバリゼーション”という言葉の捉え方。 フツー人の誇りと責任/安ければいいのか、安心できる食糧立国をめざす(山下惣一)/モラルの高い新しい日本型経済をめざす(北村龍行)/世界にあてにされる平和貢献国をめざす(井出勉)/競争か、共生か |
●「太鼓たたいて笛ふいて」● ★★ |
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2005年11月
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「紙屋町さくらホテル」「夢の裂け目」と、最近の井上戯曲は戦争を主題としたものが続いています。 本書は「放浪記」の作家・林芙美子を描いたものですが、評伝戯曲というより、やはり戦争が大きなテーマとなっています。 昭和13年には従軍作家となり、「兵隊が好きだ」と書く。それが一転、昭和20年春には「もはやキレイに敗けるしかない」と公言し、非国民扱いされる。 ※なお、本戯曲に島崎藤村「新生」の姪・島崎こま子が登場するところも注目点。 |
●「話し言葉の日本語」(共著:平田オリザ)● ★★ |
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2014年01月
2003/01/04
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戯曲雑誌「せりふの時代」(小学館)に1996〜2001年の間13回にわたって連載された、井上ひさし・平田オリザ2氏の対談集。 本書題名から、井上さんのエッセイに多い日本語に関する対談だろうと気軽に読み始めたところ、とんでもない勘違い。 話し言葉の時代を走る乗り物としての「せりふ」/主語・述語の演劇と助詞・助動詞の演劇/「敬語」の使い方・使われ方/「方言」を生かす演劇/対話/戯曲のなかの流行語/戯曲の構造と言葉/戯曲の組み立て方/こうして最初の「せりふ」が生まれる/翻訳劇から日本の演劇を見詰める/「いかに書くか」から「何を書くか」へ/生きる希望が「何を書くか」の原点/世界のなかの「日本の演劇」 |
●「兄おとうと」● ★★ |
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2003/11/15
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大正デモクラシーの先達、吉野作造を描く評伝劇。 井上さんにとって吉野作造とは、高校の大先輩であること、宮城県古川市にある吉野作造記念館の名誉館長になっている、という縁があるそうです。 政治は国民を基にすべしという“民本主義”を唱えた、学者である兄・吉野作造。それに対し、高級官僚となった弟・吉野信次。その2人の対立を通して、吉野作造という人物を描きます。 兄弟でありながら、10歳も年が離れている為、2人が一つ部屋に寝たのは生涯を通じてたったの5回しかない。その5回を舞台にストーリィは展開します。 理想肌の兄に対して、現状肯定論者の弟。その違いから反目し合うのが常ですが、心底にはお互いへの深い愛情があります。吉野作造の人となりを知るだけでなく、その要素がある故に楽しく読めます。 また、そうした2人の姿を浮き彫りにしているのが、作造・信次それぞれの妻である玉乃・君代の姉妹。現実的かつ内助の功ある女房像を傍らに配したところに、コミカルな魅力があります。 井上さんの数ある評伝劇の中では、軽快な作品と言えます。 ※吉野作造 1878〜1933 |
●「夢の泪」● ★☆ |
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敗戦後に戦犯者とされた人達を裁いた東京裁判。 その東京裁判とは正当なものだったのか、それとも単に戦勝者による茶番劇だったのか。 本書は、新橋の弁護士事務所を舞台に、その東京裁判の意味を問いかけた作品です。 東京裁判をテーマにした作品としては、「夢の裂け目」に続くもの。しかし、井上さんらしい独特の趣向という面白さが少なく、また結論にしても判りにくいのが難点。 ストーリィは、伊藤菊治・秋子夫婦の弁護士事務所に、A級戦犯容疑・松岡洋右の弁護補佐依頼が来たことから始まります。秋子が弁護の方針を検討するうち、東京裁判そのものへの疑問が生じてくる、というストーリィ。 |
●「イソップ株式会社」● 絵:和田誠 ★★ |
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2005/06/19 |
井上さんの作品ですから、どこに巧妙な仕掛けが施されているのやらと思っていたのですが、意外とオーソドックス。 小話の最後には、いつも父親らしい教訓が添えられています。でも、いつしか始まった“小さな王様”シリーズには、何故か教訓が添えられていません。そこにどんな秘密が? 優等生のさゆりがそれを気にし過ぎるのと対照的に、悪戯好きの洋介はきちんと自分の気持ちを整理しています。 子供と一緒になって楽しめる一冊ではないかと思います。 |
●「円生と志ん生」● ★★ |
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2007/01/12
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敗戦前後の昭和20年夏から22年春までの旧満州国・大連市を舞台に、五代目志ん生こと美濃部孝蔵(55才)と六代目円生こと山崎松尾(45才)の2人を描いた戯曲。 空襲を受けている日本にいるより陸軍軍属として満州国へ慰問に出かけた方が、飯も酒もご婦人もたっぷり味わえる上に稼ぎも良いと、孝蔵が誘って2人は中国大陸に渡ります。 同じ噺家といっても孝蔵と松尾の性格は対照的。それは苦境に立たされた時でも変わりませんが、とる道は違えど最後はやっぱり噺家であるところは変わりません。そこが面白味のひとつ。 ※なお、本書といい「夢の痂」といい、絵が誰かに似ているなぁと思ったら、こまつ座で主役のひとりを務めた角野卓造さん。角野さんをイメージしながら読むと、もっと面白くなります。 |
●「箱根強羅ホテル」● ★☆ |
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2006/02/12
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太平洋戦争の末期、箱根強羅ホテルに外務省からの命令が届きます。ソ連大使館の疎開先として当ホテルを使用すると。 井上戯曲にしては登場人物のキャラクターも平凡ですし、井上作品らしいユニークなドンデン返しがある訳でもない。その意味では期待を外された印象。 このところ井上戯曲は、敗戦前後の様相をテーマにしているものが続いています。本書もそれに連なる作品のひとつと思います。 |
●「夢の痂」● ★★ |
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2007/01/08
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「夢の裂け目」「夢の泪」に続く“東京裁判3部作”の最後となる作品。 面白さとしては東北方言、日本語の文法についてのやり取りといった部分があって「國語元年」を思い出させられるのですが、それは肝腎の主題ではありません。 井上戯曲ならではの面白さという点では、今ひとつ。 |
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