一穂(いちほ)ミチ作品のページ


小説家。BLを主題とした作品を発表。2008年「雪よ林檎の香のごとく」にて作家デビュー。2022年「スモールワールズ」にて第43回吉川英治文学新人賞を受賞。


1.スモールワールズ 

2.パラソルでパラシュート

3.砂嵐に星屑

 


                   

1.
「スモールワールズ SMALL WORLDS ★★☆    吉川英治文学新人賞


スモールワールズ

2021年04月
講談社

(1500円+税)



2021/05/30



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一穂ミチさん、これまで主としてBL作品で活躍してきたとのことですが、本作品集を読んで驚き、一気に魅了されました。

日常的なストーリィが中心ですが、どの篇も趣向が異なり、各篇ごとに独特。そしてストーリィの奥行きが、実に深い。

どの篇でも冒頭、先行き不穏な雰囲気があり、だからこそ読み進まずにはいられないのですが、そのストーリィ運びが実に巧み。そのうえ最後に、あっと驚かされるのですから、これはもう堪らない読み応えです。
読み逃したら損!と思う作品の一つ。是非お薦めです!

「ネオンテトラ」:結婚後、中々子供に恵まれずにいる美和が主人公。夫の浮気を堪えるストーリィの中、美和が関心を持ったのは姪の同級生・・・。最後、美和のうっちゃり勝ち?
「魔王の帰還」:表題の魔王とは、高校生である主人公の姉、真央・27歳のこと。何と身長 180cmと巨躯。突然実家に戻ってきたのは、離婚? それ以来鉄二は姉に振り回され・・・。
これって、姉弟2人の再生&新生ストーリィか。
「ピクニック」:生後間もない赤ん坊の突然死という悲劇。さらに虐待と決めつけた警察の捜査が母親と娘夫婦を翻弄。
家族物語、一点ミステリと思いきや・・・。
「花うた」:たった一人の兄を殺害された妹と、傷害致死罪の受刑者との往復書簡。そこから何ともう・・・。
「愛を適量」:離婚して以来怠惰な生活にどっぷり浸かった高校教師の慎悟。その前に突如15年ぶりに現れた娘の佳澄、その恰好はなんと男そのもの・・・。これって家族物語、それとも小サスペンス?
「式日」主人公、高校の後輩から父親の葬儀に出席してほしいと頼まれ、久しぶりに後輩と再会するのですが・・・。思わぬ人生ストーリィ。

6篇の中で、とくに
「魔王の帰還」に興奮。魔王こと姉・真央のキャラクターの魅力、そして真央、鉄二、鉄二の同級生=住谷菜々子という顔ぶれが実に良い!
そして
「ピクニック」、ストーリィ展開の巧妙さに舌を巻きますが、それ以上に語り手の設定がお見事。悲劇を明るく救ってみせている、という印象。

ネオンテトラ/魔王の帰還/ピクニック/花うた/愛を適量/式日

                  

2.
「パラソルでパラシュート ★★☆


パラソルでパラシュート

2021年11月
講談社

(1600円+税)



2021/12/19



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主人公の柳生美雨(やない・みう)は実家暮らし、大阪にある大企業で契約社員として受付嬢を務めている。しかし、もう29歳。受付嬢として残り時間はあと1年と言われるに至った。
そんな美雨が29歳の誕生日に出会ったのは、まだ売れていないお笑い芸人の
矢沢亨
そこから、亨と<安全ピン>という漫才コンビを組む相方の
椿弓彦や、幾人ものお笑い芸人仲間と知り合うことによって、美雨の生活は変っていく・・・。

型にはまったような生活をしてきた美雨が、ふと気づいてみれば崖っぷちの状況。
そうしたとき、お笑い芸人という全く違う世界、そこの住人たちと知り合うことによって、他人が決めつけた自分像など笑い飛ばしてやればいい、という気持ちになっていく。
こうしたことは美雨に限らず、決められた線路の上を真面目に走ってきた人に共通して言えることではないでしょうか。
自分を見直すということは、自分を見る周囲の人間の姿勢を見直すことでもある、と言えます。

言葉の足りない亨と対照的に、いつも怒っている観のある弓彦というコンビ、さらに美雨との3人の関係も楽しい。
また、合コンに積極的な後輩受付嬢の
斉藤千冬、居座り受付嬢と陰口を叩かれようが収入を得る為と割り切っている先輩受付嬢の浅田さんとの対比も鮮やかです。さらに、亨の義母である葉月という女性の姿とも。
そう、自分の居場所、進むべき道は自分が決めればいいのです。

「パラソルでパラシュート」という題名、意味不明ですが、最後に至ってその意味が分かると、何やら痛快な気分です。

途中まで、地味で変化の乏しいストーリィのように感じていたのですが、実に味わい深い長編。気持ち良さは格別です。


1.聴こえない歌/2.騒がしい家/3.新しい夏/4.美しい雨

                    

3.
「砂嵐に星屑 ★★


砂嵐に星屑

2022年02月
幻冬舎

(1500円+税)



2022/03/04



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大阪のTV局が舞台、うまく人生を渡れていないと考えている人たちを描く群像劇。

仕事や私生活、恋愛、思うままにいかないことは、あって当たり前のこと。それでも自分が不器用だったり、要領が悪いと自覚している人は、自分だけがうまくやれていない、自分以外の人は皆うまくやっていると思ってしまうもの。
でもふと気がつけば、今の自分の状態はそう悪いものではない、ホッと一息つける、もう一度やる気を起こすこともできる。本作はそんな人たちの連作群像劇。

なんとなく、読んだばかりの
寺地はるな「タイムマシンに乗れないぼくたちと共通するメッセージを感じます。

「資料室の幽霊」40代の女子アナ=三木邑子。上司との不倫で10年間東京に島流しされ、ようやく大阪戻り。しかし、腫れ物扱いか。
「泥舟のモラトリアム」50代の報道デスク=中島。同期が次々と退職していき、取り残されているという焦燥感。
「嵐のランデブー」20代の派遣タイムキーパー=佐々結花。好きな男性とルームシェアで同居しているが、彼はゲイ。
「眠れぬ夜のあなた」30代の派遣AD=堤晴一、デスクの中島からルポ制作を任されるが、元々人との交渉が苦手。意に染まぬながら頑張ろうとするのですが・・・。

主人公は皆、私自身と等身大ですから、共感が持てます。それもあって、読後感は爽やかです。

<春>資料室の幽霊/<夏>泥舟のモラトリアム/<秋>嵐のランデブー/<冬>眠れぬ夜のあなた

    


   

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