平岡陽明
(ようめい)作品のページ


1977年神奈川県生、慶應義塾大学文学部卒。出版社勤務を経て、2013年「松田さんの181日」にて第93回オール読物新人賞を受賞し作家デビュー。


1.松田さんの181日

2.ぼくもだよ。

3.道をたずねる

  


       

1.

「松田さんの181日 We Have 181Days Left to Go,Mr.Matsuda ★★☆
                オール読物新人賞


松田さんの181日

2016年11月
文芸春秋刊

(1620円+税)



2017/01/05



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オール読物新人賞を受賞した表題作を含む短編集、6篇。
初めての作家だけにどんな作品だろうと、手探りするような気分で読んだのですが、これが予想外の素晴らしさ。それも、表題作だけでなくいずれの篇も素晴らしい。

ごくありふれた人たちの間でのエピソードと言ってよいような小話ばかりかもしれません。どの登場人物も成功、順調な人生とは程遠く、ごく狭い特殊な世界でだけその存在を認められているような人たち。
でも、その人たちの間で交わされる、細やかな心の通じ合いが真に素晴らしい。読んでいて肌触りがとても良いと感じるのはそのためでしょうか。

表題作である
「松田さんの181日」が素晴らしいのは勿論ですが、次の「床屋とプロゴルファー」が好きだなァ。主人公と西田プロとの絡み合いだけでなく、その周辺においても終盤で実に良い雰囲気を醸し出しています。
「浜えんぴつ燃ゆ」は事業が低落傾向にある小さな会社でのリストラ話なのですが、まるでファンタジーのような結末です。

「寺子屋ブラザー篠田」は、少々風変わりな味わいを楽しませてくれる篇。この捌き方は痛快にして爽快、かつ心憎い!

「マリーさんの101日」は、「松田さんの181日」と対をなすような篇。松田さんと同じく癌で余命僅かのマリーさんを囲む、元夫や周囲の人々の温かさが読み手にも伝わってくるようです。

是非、お薦め!


松田さんの181日/床屋とプロゴルファー/僕だけのエンタテイナー/浜えんぴつ燃ゆ/寺子屋ブラザー篠田/マリーさんの101日

          

2.

「ぼくもだよ。−神楽坂の奇跡の木曜日− ★★


ぼくもだよ。

2020年11月
角川春樹
事務所

(1600円+税)



2021/01/05



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さりげない日常ストーリィ。
でもそこには人と人との大切な繋がりが描かれていて、読了後の気持ち好さがいつまでも心に残る、そんな一冊です。

題名の
「ぼくもだよ」というセリフが3度登場します。
また、副題にある
「木曜日」が登場人物たちにとって様々な鍵になっていると同時に、本や読書に繋がっており、味わい深く、印象的な処です。
舞台は、もちろん東京の神楽坂。

一方の主人公は、盲目の書評家である
竹宮よう子、40歳。神楽坂近くの都営住宅で、盲導犬アンと一緒に一人暮らし。
もう一方の主人公は、神楽坂の路地で古本屋を営む
本間、40歳。バツイチで、毎週木曜日に5歳の息子=ふうちゃんと会えるのが何よりの喜び。
そして、結果的にその2人を繋ぐことになるのが、神楽坂にある大手文芸出版社のS社の編集者である
七瀬希子・27歳近藤誠也・33歳

七瀬と近藤が本を愛しているのは当然ですが、竹宮も本間も心から本を愛する人たち。
冒頭、
「人は食べたものと、読んだもので出来ている」というのが書評家、竹宮よう子の信念である、という文章から始まりますが、本好きな人なら誰しも同感する思いではないでしょうか。

さて、彼ら4人の間にどんな奇跡が生まれるのか。それは読んでのお楽しみです。
竹宮と本間という同年配の2人の、これまでの来し方を知るといろいろな思いに駆られますが、最後はそれらを上回る気持ち好さに満たされることは間違いありません。
また、「ぼくもだよ」という言葉の中に、どんなに大切な思いが篭められているのか、それも是非味わってみてください。

       

3.

「道をたずねる ★☆


道をたずねる

2021年03月
小学館

(1600円+税)



2021/04/27



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幼馴染の男子3人の長きにわたる友情、そして住宅地図会社の苦闘と発展の軌跡を描いた長編。

1958年、中学生の幼馴染3人は、互いの進路が別れるのを前にクスノキに誓いを立て、それぞれの名前一文字を木に刻みます。
一、友のピンチは助けること。二、友の頼みは断らないこと。三、友に隠し事はしないこと。
そこから始まる、
合志俊介・天沢一平・庭井湯太郎の友情物語、主人公は俊介です。
なお、3人の親世代でもやはり、同様な3人の誓いがあった、という設定が中々に楽しませてくれます。

一方、本作に登場する
住宅地図会社キョーリンのモデルが(株)ゼンリンであることは明らかです。
まだ別府の小さな会社であった地図会社キョーリンの社長が一平の父親=
永伍。俊介の父親=葉造は永伍と親友の間柄であり、現在は同社で地図制作の調査員。俊介もまた高校卒業後、父親と同じ調査員となり後に父親の後継者となる一平を助けます。

本作の読み処は、住宅地図を作るための
調査員の仕事。地道というか、伊能忠敬も真っ青、といって良いくらいかもしれません。これは是非本作を読んで、調査員たちの苦労を多少なりとも同体験をしてみてください。
固い友情を結ぶ親世代の3人、現世代の3人、それぞれの人物像も実に味わいがあるのですが、登場人物の中で突出した魅力を放っているのは、
川上未希という女性。初めて登場する「第2章 出会い」は、仰天するくらい楽しい。

生涯変らぬ友人を持つこと、それはとても幸せなことだと思います。


プロローグ−2017年、夏/1.誓い−1958年、春/2.出会い−1964年、夏/3.前哨戦−1972年、春/4.決戦−1973年、秋/5.真実−1984年、秋/6.惜別−2002年、夏/エピローグ−2017年、夏

        


  

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